2011-12-9 07:14
「黎凪!」
真田は慌てて宮野に駆け寄った。血がこぼれているのは、右目からだった。
「い…ぁ……右目が…ッ」
「…ッ!!貴様何をした!」
『ちっ…悪運のいい。右目の視神経だけしか切れなかったとはね』
「しし…?くそっ」
「もう止めてぇぇっ!!」
村越が、悲痛な叫びをあげた。宮野ははっ、と村越の方を見た。
村越は頭を抱え、ぶるぶると震えていた。
『…芽夷ちゃん…?!』
その時漸く村越に気が付いたらしい、火の玉の動きが止まった。
「消え失せろぉぉぉッ!!」
その一瞬を逃さず、石田は持ち前の速さで一気に火の玉に迫り、一刀のもとに切り捨てた。
『お…のれ……殺し…て…や…………』
火の玉はそう言い残し、消え去った。
「芽夷…!」
宮野はぐいと右目を拭い、慌てて村越に駆け寄った。
「Goodだ石田」
「見事にござる」
「何がだ!」
伊達と真田はぽんと石田の肩を叩いたが、石田は気にすることなく村越を振り返った。
「芽夷、ごめんな。嫌なもん見せて…「どうして…?どうして平気なの?!」
村越はすまなそうにそう言った宮野に掴み掛かった。
「め、芽夷…」
「今の火の玉の声、お母さんでしょ?!」
「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」
「喧しいぞ貴様等ぁぁっ!!」
同時に声を上げた徳川と真田を一喝し、石田は村越の隣に立った。真田も慌てて宮野に近寄る。
「どうして…お母さんなのに……なんで…ッ!」
「―――――……。あの人は、そういう人なの」
「!」
「私が全部悪いの、あの人にとっては。他の人は皆巻き込まれ。……大丈夫だよ、もう割り切ってたから」
「そんな…ッ」
ぼろぼろと泣く村越に宮野は笑う。
「三途の川で会っちゃってさ。それからずっとあんな調子。ほんと参っちゃうよ」
「…ッ」
「…なぁ、宮野殿。お市殿は、何故…死んだんだ?話から察するに、三途の川で会ったのだろう?」
「…死んだっていうか…お兄さんと一緒に眠る、そう言ってました」
「お兄さん…信長公と?!」
驚く徳川の声を聞きながら、宮野は僅かに視線を空へと逸らした。
「…信長が復活するルートだって事は知ってました。…でもその事を言うことは出来なかった。…リミッターかかってるんで」
「り、りみったぁ…?」
「言葉に制限がかかってんのか?」
「私はあくまで干渉者ですからね…必要以上の事を語ってはいけないんですよ。少なくとも、私が今回、ここに来たのはこの戦を止めるためですから、どちらかが有利になるような情報は言えない」
「…そうだったのか」
「…まぁ。お市さんは自分が生きる目的を見いだせた。…会って話した時、どこか幸せそうでした」
「………そうか。…なら、よかった」
徳川はそう言うとほっとしたように笑い、目を伏せた。宮野は徳川から村越へ視線を戻した。
「…泣くなよ。あの人、外の面はいい人だけど素はあんな人だから」
「…黎凪…なんで平気なの…?」
「言ったろ?割り切ってたって。…あの人の事で泣ける涙はもう尽きちゃったんだよ」
「…!」
「それに、あの人自分が殺された事に関しても私しか恨んでなかったから、これで完璧に芽夷の事許せるだろ?」
「…そんなこと!」
「…何度も言ってるけど、私は三成さんじゃない。私にとってあの人は大切な人でもなんでもない。たとえ親子でも、愛してない。…あんな人のために、どうして友達失わなきゃならないんだよ?そんなのやだよ」
「黎凪……」
「「………」」
宮野の言葉に、石田と徳川の視線がぶつかった。2人はしばらくそのまま見つめあい、徳川が先に目を逸らし、伏せた。