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もうお前を離さない350

「…思い出した」
「?」
不意に真田が口を開いた。真田はちら、と毛利を見た後、不思議そうに振り返った宮野を見た。
「龍也殿が申されておった。大将が一番に思うものはなんでもいい…それが自国を守る事に繋がるならば、と。毛利殿は正しくあろうとしておるから、何を言われても平気なのだと…」
「…!」
「……龍也さんが…」
「何を言われても…って、さっきめっちゃ怒ってましたよ?」
「………」
村越の言葉に毛利はじとりと村越を睨んだ。村越はそうでしょう?と言いたげな顔できょとんとしている。
宮野は小さく吹き出すと薄く笑った。
「誰も覚えていない…それってどういう事だ?芽夷」
「?…あ、そういう事か…え、でも…?」
「Hey!内輪で完結するんじゃねぇ。誰も覚えていないのが何だってんだ」
説明を求めた伊達に宮野は空を見上げた。太陽は西に傾き、東の空には月が見えている。
「何の分野かは忘れましたが、こう言った人がいます。月は自分が見ている時、確かにそこに存在する。しかし、見ていない時にそこに存在していると言えるだろうか?観測者のないものは、果たして存在していると証明できるのだろうか…」
「…?」
「分からぬぞ黎凪!」
「そんな自信満々に言うなってー…。…つまり、ものが存在すると断定できるのはそれがそこにある事を見て知っている者がいるからであり、それを誰も見ていない、知らない場合にそれがそこにあるとは断定できない」
「その人の事を誰も覚えていないって言うのは、その人が存在した事を証明出来ないという事…その人は、存在しなかったのと等しくなる」
「そ。毛利殿の事を全ての人間が忘れるというのは、毛利殿が今までしてきた事が全てなかった事になるって事だよ」
「…!」
長曾我部は驚いたように毛利を見た。毛利は不愉快そうに宮野を睨んでいて、輪刀を持つ手は僅かに震えていた。
「…まぁ長曾我部はそこまで考えて言ってないでしょうけどね」
「…」
「でも、毛利はそう取ったのか…頭いい人ってめんどくさい、主に黎凪みたいな」
「失礼な」
「違う。…必要以上に傷ついてくじゃない。一匹狼になってく。…孤独になってく。それを辛いと感じられないから質が悪いよ」
「ご…ごめん」
思わぬ村越の言葉に宮野は驚いたように村越を見、萎縮した。毛利は再び不愉快そうに村越を睨んでいた。
村越は宮野を見た後毛利を見た。
「……貴方は、黎凪に似てる。誰よりも愛を欲していて、誰よりも愛を拒絶している」
「…何が言いたい。愛など箒よりも役に立たぬ」
「違う。…多分、貴方は愛されたことがない。愛されたいけれど分からないから恐れている。嫌われるのに慣れてしまったから好意を向けられる事に恐怖を感じる。…だから貴方は長曾我部が嫌いなんだ」
「…我の事を分かったように語るでない…」
「これでも心理学専修です。…多少の事を見る目は鍛えてきています。…人は己と正反対の者を好みもすれば嫌いもする。貴方は長曾我部を羨ましく思っている節がある。けれどそれ以上に長曾我部が妬ましい。自分と正反対の存在の長曾我部が憎い。自分の事を何も理解していないのに自分に踏み込んでくる長曾我部の行いが、貴方には鬱陶しい」
「……よく分かるね…」
「…なんど申せば気が済む。我にそのような感情はないわ」
「貴方は殺してるだけよ。…そうするのに慣れてしまった」
村越はそう言って目を伏せた。
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