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もうお前を離さない146

石田は宮野が飛び出していった方を見ている。
「…あれが貴様の恋人か?」
「こっ…。……そ、そうでござる」
「…変な女だな」
「れ!黎凪は変人ではござらんっ!!耐える事が得意という不思議な所はあり申すがっ」
「…なんだそれは…」
「とにもかくにも変ではござらんんんっ!!」
「っ喧しい!!真田ぁ!会った時から思ってはいたが、貴様は静かに出来ないのかぁぁ!!」
「やれ三成、落ち着きやれ。…主も難儀よな、忍よ」
「あ、分かる?」


「芽夷」
「…黎凪」
「これからご飯作るんだけど如何せん人が多いからさ。…手伝ってくれない?料理すれば、ちょっとは気が紛れるだろうし」
にこり、と笑って声をかければ、村越は不思議そうに宮野を見た。
「…黎凪って…有言実行なんだね…」
「あ、でも滅茶苦茶びっくりしたよ?芽夷の方はもう半年も経ってたなんて。私1日しか経ってないもの」
「…それでもって、優しいよね。…うん、手伝う」
漸く笑みを浮かべた村越に安堵し、宮野も小さく笑みを浮かべた。
2人で炊事場に向かい、あれやこれや話す。
「へぇ、大学受かったんだ!え、どこどこ?」
「筑波の、心理」
「おぉ!国文じゃん!さっすが!」
宮野が村越と別れてまだ1日たらずだが、村越の方では既に半年が経過していたらしく、大学受験が終わっていたらしい。そして、茨城の筑波大学に合格したそうだ。
村越はぱちぱちと手を叩く宮野に苦笑する。
「黎凪なんて模試であの北大に合格出来る結果は出てたじゃない」
「いやーやっぱり模試は模試でしかないからさー。本番は違うよ、そもそも北海道で受けるんだからさ!よく考えたら酷く金のかかる!」
「…ふふ、そうだね」
楽しそうな宮野はまるで犬のようにぴょこぴょこと動き回っている。村越の顔には、そんな宮野に自然と笑みが浮かぶ。
「…。…石田さんはなんで私を連れてきたんだろう…」
「本人は腹がたったとしか思ってないみたいだけどね」
「うん、言われた」
「わー容赦ないね。…石田さんはそう言ってるけど、案外一目惚れしたのかもよ?」
「まさか。私血塗れのワイシャツ着てたんだよ?」
「ぎゃーっ何それっ」
そうこうしている内に、炊事場に到着する。炊事場では既に担当の兵士達があせくせと動き回っていた。
「!宮野様!」
「様はいりません!手伝いに来ました!」
「なっ、なりませぬ!奥方様に斯様な事はっ!」
「私まだ奥方じゃないですよ?!えー駄目ですか?やる事ないんですよ…」
「うっ…。…分かり申した、では味噌汁をお願いいたしまする!」
「ありがとうございます!」
「おっお待ちくだされ!隣の御人は?!」
「私の友達です。石田さんが道中で拾ってきてくれたらしくて。今ちょっと落ち込んでるから、気分転換になるかな、って思って…彼女も料理うまいですし」
「あぁ…そうでござりまするか…。…そのー…」
「…何か言われたら私が勝手にしたって事にしてください」
「は…、承知にござりまする」
宮野と兵士の会話に村越は目をぱちくりとさせている。
「お主も悪よのぅ…みたいな会話してる…」
「いえいえあなた様ほどでは、ってか?…取り敢えず、味噌汁作ろう、芽夷!」
「…、うん」
村越は自分を気遣ってくれているだろう宮野に、少しばかり申し訳ない気持ちになりながらも、差し出された手を掴んだ。

もうお前を離さない145

「!雨にござる」
半ば無理矢理石田を座らせて茶を出した時、外に雨が降りだした。雨脚はすぐに酷くなる。 縁側にいた猿飛はあちゃー、と呟いた。
「あー、この様子じゃ山を登るのは危ないね」
「…ちっ……」
「!申し訳あり申さぬ三成殿…」
「…貴様は雨を降らせる事ができるのか?」
謝った真田に、石田は心底不思議そうな顔を向ける。
「はっ?そ、そんな事は出来ませぬ!」
「…。ならば何故貴様が謝る」
「は…。…はっ!も、申し訳ござらんっ」
「だから何故謝る」
突っ込みのいない漫才のような会話をしている真田と石田に、猿飛は小さくため息をついた。
と、そこへタイミング良く宮野が入って来る。
「黎凪!」
嬉々として声をかける真田だが、宮野は心ここにあらず、といった様子だった。
「…やっほー幸村」
「ど、どうしたのだ?」
「いや、何でもない。ちょっと驚きすぎて頭ぱーんぽーんぱーんっなだけだから…」
「はっ?」
「ごめん、色々混乱してる模様…」
宮野はぶんぶんと勢い良く自分の頭を振った後、ぽすぽすと何度か自分の頭を叩いた。石田は奇妙な物を見るような目でそれを見ている。
「……。よし多分大丈夫。石田軍の方達、陣内に通したけど問題ないよね?」
「あ、あぁ。すまぬ」
「…貴様は…」
「あっ!石田さん!」
宮野は今更になって石田に気が付いたらしい、石田の姿を見ると何故か深々と頭を下げた。
「本当に芽夷連れてきてくださってありがとうございました!あの子1人だったら多分自殺してましたもん」
「じ、自殺?!なっ何故っ」
「…何?」
「それだけシ…衝撃だったらしくて…。本当、助かりました」
「……そうか」
「…そうだ、黎凪。三成殿は何故村越殿を連れてきたのか、分からぬようなのだ!」
「…おやおや」
「黎凪はどう思う?」
「…どうでもいい事だ」
「…んー……」
ふいと興味なさげに目を逸らした石田に、宮野は真田がした様に顎に手を添えて考える。
「……。腹がたった、とか」
「「?!」」
「何?!」
勢い良く振り返った2人に逆に宮野が驚く。
真田はだんっ、と畳を叩いた。
「何故分かったのだっ?!」
「え、まさか図星なの?!…いや、なんか…私が思っただけだけど、なんだか後悔してる徳川家康みたいな顔してるなーって」
「……家康?」
「自分がしでかした事を凄く後悔してる顔してました。…許されたい、でも自分が許せないから許されたくない、そんな感じでした。それが少しだけ徳川家康みたいで腹がたったんじゃないですか?」
「…。貴様は家康が私を裏切った事を後悔しているとでもいいたいのか…?」
「多分、後悔はしてないと思います、あなたを裏切って豊臣秀吉公に反旗を翻した事を。…ただ、あの人は多分、あなたと戦う事に関して割り切れてはいないとも思います」
「…割り切れて…いない?」
「徳川が裏切ったのはあくまで秀吉公であり、彼の中であなたはまだ敵に成り切ってないんじゃないか、って事です」
「……貴様は訳の分からん事を口にするな」
「えぇまぁ、家族公認の変人なので、はははっ!」
「なんと!へ、変人?!」
「…………………」
「しかし凄い雨だね…石田さん達これじゃ泊まりだね。よっしゃ、夕飯作ってくる。それじゃ、失礼します!」
宮野は着物の袖をめくりつつ、早急に部屋から飛び出していった。

もうお前を離さない144

「貴様の好きにしろ。ただし私の邪魔をするな。そして、私の事を裏切るな。いいな?」
「無論!男として武士として、斯様なことはいたしませぬ!」
一方、真田と石田の話に決着がついていた。
石田は真田に向けていた柄頭を下ろし、ふい、と真田から目を逸らした。
「…それで、先程の話なのでござりまするが…」
「…村越、という女の話か」
躊躇いがちな真田の言葉に、石田はつまらなそうに真田を振り返った。真田は石田の言葉に頷く。
「は…。先程黎凪の声が聞こえ申した故、おそらく村越殿と再会したのでござろうが……何故…貴殿は、村越殿を?」
「………………分からん」
「はっ?」
「私にも…よく分かっていないのだ。……何故わざわざ連れてきたのか」
「は…そうなのでござりまするか…。うむ……あ、村越殿が気になったとか?」
「…どのように」
ぴこん、と人差し指を立て、ニコニコと笑いながら尋ねかけてきた真田に、石田は無表情のままそう返した。
真田は顎に手を添え、考える。
「む…。…そもそも如何様に出会ったのでござるか?」
「道で寝ていた」
「なっ、なんとっ?!あー…では、その奇天烈ぶりが気になった…?」
「…興味などない。仮に貴様が寝ていたとしても、私は踏み付けていくぞ」
「某は道で寝ませぬぞ!あ〜では…。!何かに惹かれたのでは?」
「惹かれる…?…それは恋慕という事か」
「れっ?!恋慕など破廉恥なぁぁっ!」
「…愛など下らん」
再び真っ赤なって叫びだした真田に、石田はあからさまに視線をそらしはぁとため息をついた。
真田はばしばしと己の頬を叩き、ふぅと息をついた。
「ごほんっ、恋慕にのみならず、雰囲気とか、そういったものに………そうっ!興味を持たれたのでは?」
「雰囲気…。………、あ」
「!何ぞ思いついたのでござりまするか!」
「…、気に食わない女だった」
「き、気に食わない?!」
「詳しい事には興味もないが、道で眠る前に父が母を殺したそうだ」
「な…ッなんと……っ」
「…そう言って涙したくせに、目の中に悲しみなど無かった」
「!」
「あったのは贖罪の色のみ…意味が分からん」
「…三成殿は、その理由を知りたいのでは?」
「それは刑部にも言われた、が…分からん」
「むぅ…難しいのでござりまするな…。…っと、某とした事が!!立ち通しにさせてしまい申したっ!!」
「…。いや、私はき「申し訳ありませぬ三成殿ぉぉ!どうかこちらへ!」いやだから私は…聞け真田幸村ぁぁ!」
「真田の大…あーこら!暴走しないの!」
現れた猿飛がそう叫んだが、時すでに遅し、であった。



その頃宮野と村越は。
「何か、あった?」
「……言えないよ」
「…私本当に何も言わないよ。怒りもしないし、馬鹿にしもしない。…だから、…教えてくれない?」
「…無理…。…絶対黎凪は、私を憎む」
「うおぉーい、物騒だな…」
あの手この手で、何故村越が落ち込んでいるのかを聞き出そうとする宮野だが、うまくいっていないようだ。宮野はふぅと息をついて小さく笑う。
「そんな湿気た顔しないで。…私は芽夷の笑ってる顔が一番好きなんだから」
「…、本当に…怒らない?私を、友達として思ってくれる?」
「…一体何があったのさ。芽夷は私の親友だぞ?…嫌いになるわけないじゃん」
「…。分かった。………実は、」

後に続いた村越の言葉に、宮野は限界まで目を見開いた。

もうお前を離さない143

「あー青カビくっさ…!」
陣営から離れた所に餅を処分し終えた宮野は、ぱんぱんと手を払いながら陣営に戻ってきた。途中で、石田軍とすれ違う。
ぱた、と宮野の足が止まった。
「……………芽…夷?」
ぽつり、と呟かれた言葉に、宮野の視線の先にいた女が振り返った。
「………黎凪…ッ!」
「…芽夷ぃぃぃぃ?!」
村越である。宮野はぶんぶんと首を振って再び村越を見た後、一目散に駈けてきた。俯く彼女に宮野はがしりと肩を掴む。
「芽夷ッ!なんでここに?!」
「れ…な…。…黎凪ぁぁあぁあぁぁぁ」
「うおわぁあぁぁ?!」
勢い良く顔を上げた村越の目から涙があふれ、ぎゅうと抱きつかれた。
「やれ騒ぐな。…はて?」
「どどどどうした?!…酷い顔してるぞ。何があった?!」
「れいなぁあぁぁああぁぁあ…」
「あぁもう、泣くな!な?ほら、私絶対怒らないから、何があったか言ってくれない?」
「黎凪ぁ…ごめんなさい……」
「私に謝らないで?私怒ってないよ。ほら、泣かない泣かない。折角可愛い顔してるんだから」
「……あれが例の友人、か…」
その様子を見ていた大谷は小さく呟いた。宮野はぽんぽんと村越の背を叩きながら、こちらを見る大谷に気が付いた。
「あ、ど、どうも…」
「我が名は大谷吉継。主は」
「あ、宮野黎凪と言います…。初めまして。あの、なんでこの子が石田軍に…?」
「ヒヒッ、こちらに来る道中、道で寝ておったのよ。そして、三成が連れて参れと申した故、連れてきたのよ」
「えっ?あ、そうなんですか?!…あ、ありがとうございます。というより、どうぞ陣入ってください、長旅ご苦労様です」
「気にするな、三成の話が終わればすぐに移動せねばならぬ故なぁ…」
「あー…そうですか」
「それよりその女子、主に預けたいのだが」
「え。あー…芽夷、ここでちょっと待ってて?……大谷さん」
宮野は村越から離れ、大谷に近寄った。ちらり、と村越を振り返った後、少し迷いながら、宮野は大谷の顔に自分の顔を寄せた。
「…自分勝手なのは承知の上で言わせてもらいます」
「…何だ、言うてみよ」
「まだ…話を聞いていないので確実ではありませんが。芽夷は意味もなく謝ったりしません、だから、私絡みの事で何があったんだと思うんです。…、もし本当にそうだったら、芽夷をそちらで預かって頂けませんか」
宮野の言葉に大谷は刮目した後、ヒヒヒ、と笑い声を漏らした。
「…何を言うかと思えば」
「私達はこの世界の人間じゃありません。…だから、芽夷に帰る場所はないんです」
「…この、世界の人間ではない?」
「はい」
「……些か解せぬ、如何様に参るというのだ?」
「細かい所は私にも分かりません」
「ヒ、ヒヒヒッ!左様か」
真っすぐな目で言い放つ宮野に、大谷はまた笑い声を漏らす。
ふぅ、と笑いを収めた後、大谷はじろりと宮野を見た。
「…しかし、我には決められぬなぁ。三成に聞きやれ」
「そうですか…分かりました、ありがとうございます」
「…ほ?」
「芽夷、こっち来てこっち!あーもー目ぇ真っ赤にして。ほら、落ち着いて?大丈夫だよ、大丈夫だから」
「黎凪…」
「落ち着いて。…私は待つから」
「……うん」
宮野は村越の返答に笑みを浮かべると、村越の手を引いて陣営に戻っていった。
「…村越といいあの女子といい、訳の分からぬ所で礼を口にする者よ」
大谷はその2人を見送りながら、小さくそう呟いた。

もうお前を離さない142

「では次の交代まで、お疲れの出ませんようお勤めよろしくお願いします!」
宮野は空になった茶の器を回収すると、ぺこっと頭を下げた。
「こちらこそ、ご馳走様です、宮野様!」
「様?!様は止めてください、様は!」
「我等も努力します故、幸村様をよろしくお願い申し上げまするー!!」
「…えっ?!あ、はいっ!努力します!」
宮野はもう一度頭を下げるとぱたぱたと走っていった。結ばれた襟足の長い髪が尻尾のように揺れ、走りやすいように引き上げられた袴からは白い足が覗く。
「…可愛らしい方だよな、宮野様…」
「あぁ…美人、って訳じゃない…が、美しい方だ」
「ぶっ、どっちなんだお前」
「なんだろうなー見目麗しい…訳じゃないよな?顔立ちは整っておられるが…」
「なんなんだろうなー宮野様の美しさ、ってのは」
「幸村様も凄いお方を見つけられたよな」
門番兵は立ち去った宮野の容姿についてあれやこれや話している。“幸村についに春が訪れた”と、宮野に興味津々なようであった。
「しかしあのお握り、美味しかったな」
「よしっ、我々も頑張るか!」




 それから、数刻後。
「それでは、東の門番の、三番隊の方と交替してくだされ。そこは水計の要故、くれぐれもよろしゅうお頼み申す」
「はっ!」
「幸村様、御客人がっ」
「?…!い、石田三成殿ッ!!」
石田が上田城に到着した。真田は何も用意していなかった事に気が付き慌てた。
「も、申し訳ござらんっ!何の出迎えもなく…」
「儀礼はいらん。貴様に聞きたいことがある」
「?なんでござろう」
「この天下を分かつ戦。何故西軍の将である私に、同盟の書を出した」
「!、それ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ?!」なっ?!」
「…何事だ」
突如聞こえた悲鳴に、真田は慌てながら、石田は眉間を寄せながらそちらの方を見た。
すると、悲鳴があがった方向から宮野が走ってきた。手には布で包まれた何かを持っている。
「!黎凪、今の悲鳴はなんだ?!」
「あ、幸村。いや、炊事場の隅で餅が見事にカビててさ」
「黴?!」
「…あっ。石田三成さん」
「……なんだ貴様は」
「初めまして、宮野黎凪と申します。長旅ご苦労様です」
「…」
にこりと笑って名乗った宮野を、石田は何も言わずちらと見ただけだった。
「あ、これ処分しないと危ないので失礼します」
宮野はそんな石田の対応を気にも止めず、ぺこりと頭を下げてぱたぱたと走っていった。
「…」
「お騒がせいたし申し訳ござらん」
「…。…あの女は貴様のなんだ」
「えっ?!あ、黎凪は、その…」
「…。…、恋人か」
「なぁぁっ?!は、破廉恥なりぃぃっ!」
「は?」
石田は再び眉間を寄せる。尋ねた途端真っ赤になった真田に思ったままの言葉をぶつければ、真田はさらに真っ赤になって頭を抱え叫ぶ始末である。
石田は苛立ちながらはぁとため息をついた。真田はその石田の様子に、顔が赤いままながらも顔をあげた。
「…し、しかし、そ、れが…なんで、ござろうか…」
「貴様の恋人を親友だという女がいる」
「…?!そんなはずは…黎凪はこのせ…いや、この国の者ではないのでござるが…。なんという方でござろうか?」
「名前は知らん」
「…やれ、あの女子は村越芽夷、と名乗っておったであろ、三成」
「む、村越殿が?!」
すぅ、と石田の後ろから現れた大谷の発した言葉に、真田は驚いて目を見開いた。
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