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もうお前を離さない142

「では次の交代まで、お疲れの出ませんようお勤めよろしくお願いします!」
宮野は空になった茶の器を回収すると、ぺこっと頭を下げた。
「こちらこそ、ご馳走様です、宮野様!」
「様?!様は止めてください、様は!」
「我等も努力します故、幸村様をよろしくお願い申し上げまするー!!」
「…えっ?!あ、はいっ!努力します!」
宮野はもう一度頭を下げるとぱたぱたと走っていった。結ばれた襟足の長い髪が尻尾のように揺れ、走りやすいように引き上げられた袴からは白い足が覗く。
「…可愛らしい方だよな、宮野様…」
「あぁ…美人、って訳じゃない…が、美しい方だ」
「ぶっ、どっちなんだお前」
「なんだろうなー見目麗しい…訳じゃないよな?顔立ちは整っておられるが…」
「なんなんだろうなー宮野様の美しさ、ってのは」
「幸村様も凄いお方を見つけられたよな」
門番兵は立ち去った宮野の容姿についてあれやこれや話している。“幸村についに春が訪れた”と、宮野に興味津々なようであった。
「しかしあのお握り、美味しかったな」
「よしっ、我々も頑張るか!」




 それから、数刻後。
「それでは、東の門番の、三番隊の方と交替してくだされ。そこは水計の要故、くれぐれもよろしゅうお頼み申す」
「はっ!」
「幸村様、御客人がっ」
「?…!い、石田三成殿ッ!!」
石田が上田城に到着した。真田は何も用意していなかった事に気が付き慌てた。
「も、申し訳ござらんっ!何の出迎えもなく…」
「儀礼はいらん。貴様に聞きたいことがある」
「?なんでござろう」
「この天下を分かつ戦。何故西軍の将である私に、同盟の書を出した」
「!、それ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ?!」なっ?!」
「…何事だ」
突如聞こえた悲鳴に、真田は慌てながら、石田は眉間を寄せながらそちらの方を見た。
すると、悲鳴があがった方向から宮野が走ってきた。手には布で包まれた何かを持っている。
「!黎凪、今の悲鳴はなんだ?!」
「あ、幸村。いや、炊事場の隅で餅が見事にカビててさ」
「黴?!」
「…あっ。石田三成さん」
「……なんだ貴様は」
「初めまして、宮野黎凪と申します。長旅ご苦労様です」
「…」
にこりと笑って名乗った宮野を、石田は何も言わずちらと見ただけだった。
「あ、これ処分しないと危ないので失礼します」
宮野はそんな石田の対応を気にも止めず、ぺこりと頭を下げてぱたぱたと走っていった。
「…」
「お騒がせいたし申し訳ござらん」
「…。…あの女は貴様のなんだ」
「えっ?!あ、黎凪は、その…」
「…。…、恋人か」
「なぁぁっ?!は、破廉恥なりぃぃっ!」
「は?」
石田は再び眉間を寄せる。尋ねた途端真っ赤になった真田に思ったままの言葉をぶつければ、真田はさらに真っ赤になって頭を抱え叫ぶ始末である。
石田は苛立ちながらはぁとため息をついた。真田はその石田の様子に、顔が赤いままながらも顔をあげた。
「…し、しかし、そ、れが…なんで、ござろうか…」
「貴様の恋人を親友だという女がいる」
「…?!そんなはずは…黎凪はこのせ…いや、この国の者ではないのでござるが…。なんという方でござろうか?」
「名前は知らん」
「…やれ、あの女子は村越芽夷、と名乗っておったであろ、三成」
「む、村越殿が?!」
すぅ、と石田の後ろから現れた大谷の発した言葉に、真田は驚いて目を見開いた。
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