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もうお前を離さない136

「…?」
「ヒヒッ、ヒヒヒ…村越と申したな。あまりその事を三成に言うてやるな、どうやら奴自身にも分かっていないようなのでなぁ…ヒヒヒ」
「…石田さんらしく…ないですね」
「…三成らしくないとな。はて、主は左様に三成を知るか?」
大谷がそう返せば、村越は俯いた。
「…黎凪に…親友に聞いただけですけど……石田さんは、なんか…徳川家康みたいに、ふわふわしていない人だと思ってました。だから…私なんかに、…何があの人の邪魔をさせたんでしょう?」
「…ほぅ。徳川をふわふわなどという者は初めてよ」
「だって…ふわふわしている人じゃないですか、あの人は…。…なんというか……ふわふわ」
「主も十分ふわふわしておるがなぁ」
「…石田さんのご好意はありがたい、でも……。…私に、そんな資格はありません」
「………………」
ぎゅう、とまたカバンを強く抱き締めた村越に大谷は目を細める。
「…主はまるで、何かを奪ったような物言いをしよるなァ」
「…そうですか」
村越は大谷の言葉にそう返したきり、何も言わなかった。
大谷はその様子を見て、輿をあげた。

 「…」
石田は一人で座り、ぼぅ、とぼんやりと前を見ていた。大谷はその斜め後ろで止まった。
布の擦れる僅かな音に、石田の頭が振り返った。
「…刑部」
「三成、あの女子、如何にするつもりだ?」
「……あの女…何がしたい」
「?」
返された言葉に大谷は首をかしげた。石田は視線を前に戻し、ぽつぽつと続けた。
「父が母を殺したと泣いておきながら、その実悲しみなどどこにもない。……、あの女は意味が分からない」
「…。要するに主はあの女子が何故贖罪を求めるかの理由を知りたいという事か?」
「…。……、分からないのだ、刑部。……刑部、貴様はあの女がいる事が不服か?」
「ヒヒヒッ、主に不服などあるものか、主がやりたいようにするがよい。…ただ、女子は少々喧しいぞ」
「…ふん」
石田は足の上に肘を乗せて頬杖をつき、体に立て掛けた刀を握り締めた。
「…」
石田も大谷も村越も、その石田の考えがなんというものなのか、分かっていなかった。




 「ついったー!うっわー、桜すごー!!」
一方の武田軍は、上田城に到着していた。宮野は疲労がピークに達したのか、テンションがえらくおかしなことになっている。
「真田の大将!」
「む、どうした佐助!」
「あの子の予想、当たってたぜ。伊達の軍勢だ」
「…!今はどこに?」
「2つ山の向こう。まぁ、ここまで3日から4日…ってとこだね。姉小路の戦の始末にてこずってたみたいだからね」
「…そうか。石田殿の方は?」
「とうに美濃に入っていたから、明日にも着くんじゃない?」
「…鉢合わせにはせずに済みそうだな。わざわざおいでになる石田殿の手を煩わせる訳には行かぬゆえ」
ふぅ、と息をついて真田は馬から降りた。宮野はそんな2人から少し離れた所で桜を見上げている。
「桜ってさ。綺麗なのは下に人が埋まってるって言うよね。人の生き血を吸ってるから綺麗なんだ、って」
「…そうなのか?!」
「秤エ様知らないよそんな事!」
「…綺麗な物を作り出すには、それ以上の犠牲が必要なのかもしれないね」
「…ッ」
宮野がぼそりと漏らした言葉に2人は息を呑む。
「桜であれ、平和であれ、なんであれ。…なんてね」
宮野はそう言って小さく笑った。
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