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もうお前を離さない129

「私は彼らの一部分しか知らないから、偉そうな事は言えないけど」
「…。徳川殿のやり方を認めないというのは、そう思っているからなのか」
「…あぁそういえば言ったねそんな事…。優しさだけで人は救えない。…だから私は徳川だけの力で天下が平和になるとは思えない」
「…」
「それに、絆の力で天下を統べるとか言いながら、…やってるのは戦。結局暴力に違いはないし。なんか、私からすると徳川の考え方は綺麗事なんだよね」
「綺麗事…か…」
「……人が人を嫌いな限り、完全な平和なんて、作れないとも思うけど」
宮野はそうぽつりと言うと、真田は振り返り小さく笑った。
「今、徳川家康の事語ってても仕方ないね。撤退の用意、手伝ってくる」
「…、某も行こう」
真田は手伝いに走っていった宮野を見、ふいと空を見上げた。相変わらずそこには三日月が輝いている。
「……、同じ、か」
宮野が言った言葉が真田の頭を過った。
確かに、殺している事に違いはないのだ。それがどんなやり方であれ、“人を殺した”という点においては、変わりはない。今まで真田が殺した人間も、伊達が殺した人間も、石田が殺した人間も、――総計は、大して変わりはしないのかもしれない。
それだけの人を斬ってきた。それを後悔した事はない。

後悔するという事は、それが間違いであったと認めることになるからだ。

真田はふぅ、と息をついて前を見据えた。その先には宮野の姿もある。
「……。…、迷いなどせぬ」
真田はそう、自分に言い聞かせるかのように呟くと、止めていた足を動かした。



―その翌日、大阪では。
「やれ三成。真田より返答が参ったぞ」
「真田…。…あぁ、武田のか」
「上田城にて待つ、とな。…ヒヒッ、時に三成よ、姉小路が伊達に討たれたそうよな」
「伊達…?誰だそれは」
どうなっているのか、人が担がずとも浮いている輿の上に乗った包帯塗れの男、大谷吉継は、水鳥のように尖った前髪を持つ男、石田三成の返答に引きつった笑い声を漏らした。
「ヒヒヒッ誰でもよかろ。では三成、上田城とやらに参るとするかの」
「…………」
「?いかにした三成」
動き出した大谷は動かない石田にすぐ動きを止める。石田は忍によって真田から届けられた書を手に持っている。
「…真田という者、何故私などに同盟の書を出した」
「さぁてなァ、我にはとんと分からぬ。聞けば分かるであろ」
肩を竦め大仰に言ってのけた大谷を石田は一度だけ睨んだ後、何事もなかったかのように歩みはじめた。

 だが、石田軍の動きはすぐに止まる事になる。
「三成様ー!」
「何事だ」
「み、道に面妖な格好をした女子が…」
「…女だと?」
石田は兵の報告に、動きを止めた兵の合間を縫って前に出た。
そこには確かに、この時代には不釣り合いな少女が道で寝ていた。白いワイシャツに薄い紫色のカーディガン、膝上の少し短いプリーツスカート――どこにでもいる、女子高生の格好をしていた。だが、その少女の抱える学生カバンからのぞき見える胸元は――真っ赤に染まっていた。
石田は露骨に顔をしかめる。
「…なんだあれは。死んでいるのか」
「はて、どうであろうな。我が見てくるゆえ、主はしばし待て」
「…、私も行く」
「左様か」
大谷と石田はその少女に近づいた。少女は眠っているのか、二人に気が付かない。
「やれ、起きぬか。風邪を召すぞ?」
「…?…ッ?!」
うっすらと目を開けた少女は石田と大谷を見て勢い良く起き上がると即座に後退った。
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