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凶姫と龍人30

「半兵衛殿、そう言うなよ」
家康は慌てて半兵衛を追いかける。半兵衛はただただ無視してすたすたと進む。
「ついてこないでくれるかい?」
「ワシも行く方向が同じなんだ」
「じゃあもっと離れてくれたまえ」
「…。半兵衛殿、このままでいいのか?」
「さぁね。ただ、1つ言えるなら」
「?」
「三成君は、彼の許可が下りない限り、帰ろうとはしないと思うよ。あの子、そういうところ真面目だからね」
「!」
家康ははっとしたように目を見開いた。
半兵衛は家の前で木箱を降ろし、家康を振り返った。
「…だから余計なこと、しないでくれないかな。君の行為が彼を怒らせ、三成君に害を及ぼすとも限らないんだよ」
「…だけど、だからってあの陰湿な城に三成を残したまま捨て置けというのは納得いかない」
「君の納得なんて求めていないんだよ。自分を中心に物事を捉えるの、やめてくれないかな」
「!ワシが自己中心的だと言うのか?」
ばちっ、と家康と半兵衛の間に火花が散った。半兵衛は家康を睨み、家康は半兵衛を睨むまではしないが、じ、と見据える。
不穏な空気が二人の間に流れる。
「…半兵衛殿がなんと言おうと、ワシはもう一度行くぞ」
「…好きにしたまえ。だけど無駄だと思うよ」
「行ってみなければ分からんさ」
家康はそう言うと半兵衛に背を向けた。
半兵衛は家康の姿が視界から消えたのを確認すると、足元に置いておいた木箱を開いた。木箱の中には、鏃のような形をした鉄がたくさん入っている。
「…三成君は許可を得ずして帰っては来ない。家康君に話すべきではなかったかな。……嫌な予感が抜けないのはなんでだろう」
半兵衛はそう言いながら木箱を持ち上げ、家の中に入った。



 「…そういえば、幸村はどうしたんだ?」
城にて、食堂に来た三成は幸村の姿が見えない事に気がつき、そう尋ねた。吉継は楽しそうに笑う。
「主らに当てられて寝込んでしもうてなァ」
「当てられたッ?!私たちが何かしたのかっ?!」
「…破廉恥なり、ってありゃ幸村か。いくらなんでも免疫低すぎねぇか?一緒に本読んでただけだぞ」
「…ヒヒッ、主が言いやるか。まぁよい、早に夕飯にするとしよ」
吉継はケラケラと笑うと厨房の方へ跳ねていった。三成は首をかしげながら、政宗は呆れながら席についた。
「伊達は、好きな食べ物はあるのか?」
「…好きな食いもんだ?……特にねぇ」
「そうなのか」
「アンタはあんのか?」
「…そうだな。茶を点てるのは得意だぞ」
「点てる…ってことは抹茶か?」
「そうだ」
政宗はふぅん、と言いながら頬杖をつく。三成は行儀が悪いぞ、と言いながらも小さく笑った。
政宗の目がきらりと光る。
「なら、今度点ててくれよ」
「えっ?」
「確かウチにも茶釜はあったはずだ。だよな、オッサン」
政宗は首を伸ばし、厨房の方に呼び掛けた。ふしゅー、と蒸気が吹き出す音がする。
「平蜘蛛なら使わせんぞ」
「別にそれじゃなくても構わねぇよ、茶釜があるか聞いてんだ」
「…ま、あることにはあるぞ」
「…ってなわけだ、構わねぇか?」
「あぁ、いいぞ。茶は夜飲むと目が覚めてしまう、明日の昼間に点ててやろう」
「Ha!!楽しみにしてるぜ」
ふん、と自信ありげに鼻を鳴らした三成に、政宗は楽しそうにそう言った。

凶姫と龍人29

「…ぷ」
「?どうした」
「…いいや、小十郎みてぇな男だと思ってよ」
「…小十郎……あ、時計の男か?」
「あぁ。この男にそっくりだぜ」
「そうか…相当な堅物なのだな」
「まぁな」
政宗はそう言うとイタズラっぽくケラケラと笑った。三成もつられて小さく笑う。
ぱらり、と次のページを捲る。政宗が細長い指で文字を指差した。
「この漢字は?」
「これは、やり、だ」
「やり……」
政宗は口のなかで呟いた。三成は前のページを何ページか見直した。
「武器の名前は大体出揃ったか?」
「かたな、ひなわじゅう、てっぽう、ゆみや、なぎなた、やり、か」
「あぁ。物覚えがいいんだな」
「そうか?Thanks」
「なぁ、気になっていたんだが、貴様が時々口にする、さんくす、とかいうのはなんの言葉だ?」
「Ah?あぁ、Englishっつってな、外つ国の言葉だ」
政宗は少し意外そうに三成を見たあと、に、と笑ってそう言った。三成は僅かに驚いたように政宗を見る。
「外つ国の言葉が分かるのか?」
「一時期ウチに来てた家庭教師が知っててな。面白かったから教わってた事があんだよ」
「さんくす、というのは、ありがとう、だったな」
「おぅ。…なんなら、教えてやろうか?」
「!頼む」
「じゃ、この話終わったらな」
「そうだな」
二人はそう言うと視線を本に戻した。三成が音読を再開する。
その様子を見ていた幸村はばたんと倒れた。
「はれんちなりぃぃぃぃぃ………」
「…長いゆえ茶でもと思うたが、邪魔できぬな……」
隣にいた吉継は幸村を包帯で持ち上げ官兵衛の上に置き、困ったようにそう呟いた。
「どうするよ」
「…恐らく今の話が終わればちょうど夕飯時よ。話が済むまで我はここにいる故、主は幸村を連れて帰れ。落としたら…分かっておるなァ?」
「はいはい、ったく、お前さん親バカだな」
「ヒヒッ。主こそさっさと妻でもめとったらどうなのだ?」
「この姿で嫁が貰えるかッッ!!余計な世話じゃ!」
官兵衛はふん!と言うと吉継に背を向け、背中でもだもだとしている幸村を落とさないように気を付けながら食堂に戻っていった。
吉継は三成と政宗に視線を向ける。
「…やれ、これはひょっとするとひょっとするかもしれぬなぁ」
吉継はそう小さく呟くと、ヒヒ、と笑い声をもらした。



 その頃村では。
「半兵衛殿!よかった、漸く会えた」
家康は半兵衛の姿を見つけ、駆け寄った。半兵衛は今まで家に閉じ籠っていて、話しかけられなかったのだ。
木箱を持った半兵衛は不愉快そうに家康を一瞥した後、家康を無視してすたすた歩きだした。家康は気にする事なく後を追う。
「一週間前な。例の城に行ってきた」
「………。は?」
ぴたり、と半兵衛の足が止まる。家康は半兵衛の目の前にたった。
「話すことを拒否されてしまったが、アイツは悪い奴じゃないな!」
「………彼がどういう人間かなんて事には興味はないよ。僕は彼の行為で彼を判断するからね」
半兵衛は興味なさげにそう言うと歩みを再開した。

凶姫と龍人28

政宗は三成の言葉に僅かに視線をそらした。
「…読まねぇ」
「?何故だ」
「…読めねぇんだよ」
「!読み書きを習わなかったのか?」
驚いたように自分を見る三成に政宗はぶす、と不貞腐れた。
「…習うことには習ったが、昔すぎて覚えてぇんだよ」
「……。…なら私が教えてやる!」
「…はっ?!」
三成はに、と笑うと政宗の手をつかんだ。政宗は驚き、ぽかんとしている間に三成に引かれて本棚に近寄る。
「本は面白いぞ。様々な人間の考え方を読み取ることができるし、そこに差別はない」
「!」
「貴様はどのような物が好みだ?」
「好み?」
本棚の前に立ち、振り返った三成の言葉に政宗は首をかしげた。三成は知っている本があったか、背表紙をとんとんと叩いた。
「人の恋愛沙汰か、架空の物語か、歴史か、勉学か、まぁそんな感じだ。何か好みはあるか?」
「……歴史」
「歴史か!私も歴史は好きだぞ。ならば話は早い、私が好きなのはこの本だ」
三成は政宗の答えにどこか嬉しそうにそう言うと、城に来る前から読んでいた本を抜き出した。運良くこの城にもあったようだ。
三成は政宗の手を引き、図書室にあったソファに座った。
「どんな話なんだ?」
「これは、昔の人間の様々な格言や逸話が載っている本だ」
三成は政宗に本を開いて見せる。政宗はしばらく文字を眺めていたが、諦めたように首を横に振った。
「…読めねぇな」
「大丈夫だ、読めるようになる。一番最初の話は、今から200年程前に、東国を治めていた者の話だ」
三成はそう言って、本を読み始めた。

図書室の外で様子を伺っていた元親は二人の様子に食堂にかけ戻ってきた。
「!!どうだった」
「成功だ、成功!今、二人並んで座って本読んでる!!」
「はっ破廉恥なぁぁぁぁぁぁああ!」
そう叫んだ幸村に、元親はがくんと頭を垂れた。小十郎もやれやれとため息をつく。
「…なんでだよ」
「……大谷、いくらなんでも箱入りに育てすぎだ」
「はて、我は急に耳が遠くなった」
「まぁ、今さら言いなさんなや、育っちまったもんはどうにもならん。寧ろエロガキに育つよりは遥かにマシだろ」
「貴様が大谷に味方するとは珍しいな、黒田」
「別に味方してる訳じゃないぞ。幸村は悪い奴じゃないって話だ」
「…?某悪い子でござるか…?」
官兵衛の言葉に幸村ははっと我に返り、しょぼんと頭を垂れた。今にも泣き出しそうな幸村に小十郎と元親は僅かに青ざめる。
大谷がぽふぽふと包帯の先で幸村を撫でた。
「主は良い子よ、ヨイコ。悪い子ではないゆえ、泣きやるな。主は強き男子であろ?男子たるもの、泣かぬものよ」
「むっ…はい!」
「……なんでだろうな、ダメだと思いつつも野郎の涙にゃ敵わねぇ…」
「それ、同感だ……」
「相変わらず貴様は子供をあやすのが得意だな、大谷」
「ヒヒッ。…まぁ、伊達に父親はしておらぬわ」
大谷はそう言うとヒッヒと笑い声をあげたのだった。

凶姫と龍人27

それから一時間後、政宗は三成を呼び出した。三成は長いスカートを揺らして政宗の元に来た。
「よう。スカートに慣れたみてぇだな」
「あぁ…思っていたよりも動きやすいのだな、スカートというのは。だが、落ち着かない事に変わりはない。それより何の用だ」
「あ、あぁ…アンタに見せたいもんがあってよ。ついてきてくれ」
政宗はそう言うと三成に背を向け歩き出した。三成は不思議に思いながらも政宗についていく。
政宗はひとつの部屋の前で立ち止まった。扉を開けようとして、慌てて閉める。
「…目を閉じちゃくれねぇか?アンタを驚かせたいんだ」
「私が驚くようなものなのか?」
「Yes」
「………。ふふん、いいだろう」
三成は政宗の言葉にそう笑うと静かに目を閉じた。政宗は三成が目を閉じているのを確認すると扉を開き、三成の手を取って中に招き入れた。
部屋の中程まで進んだところで立ち止まる。
「Wait a minute」
「?」
「…ちょっと待ってな」
政宗はそう言うと三成の手を離し、窓のところまで駆けていくと、掛かっていたカーテンを一気に開いた。
「!」
眩しさに僅かに三成の肩が跳ねる。ぷるぷると睫毛が震え始めた。
「開けていいか?」
「…OK!開けてみな」
「………!」
三成は静かに目を開き、飛び込んできた風景に息を呑んだ。
三成が連れてこられたのは図書室だった。それも、床から天井まで伸びた壁一面の本棚全てにぎっしり本がつまっている。
三成はぱちぱちとまばたきを繰り返した。1つの窓の前で政宗が満足げに笑っていた。
「…こんな大量の本は見たことがない……」
「…その、気に入ったか?」
「無論だ!」
「そうか。…なら、全部、アンタにやるよ」
「…。えっ?!」
三成は政宗の言葉にやや遅れて驚いたように振り返った。政宗は三成の反応にくすりと笑う。
「……お前が、本が好きだって聞いてよ」
「…。もしや、第五天にか?」
「おぅ。まぁ、なんだ。今までの礼……みてぇなもんだ」
「礼…?礼を言われるようなことは……」
「…だぁー、テメェホント鈍い野郎だな」
「なんだと?!」
不思議そうに首をかしげる三成に政宗は盛大にため息をつき、額に手をあて空を仰いだ。三成はむっとする。
政宗は窓から離れ三成に近寄ると、正面に立った。
「言わなきゃ分からねぇなら言ってやる。テメェの俺に対する態度全部が、俺にとっちゃ救われるもんだった」
「…」
「Are you OK?!」
反応を返さず固まる三成に政宗はむっとしそう怒鳴った。はっ、と三成が我に返る。
「はっ、す、すまん。…、話には聞いていたが、そんなに酷かったのか」
「!………」
政宗は三成の言葉に、僅かに目を見開いた。三成は眉間を寄せる。
「…何故人はそうなのだろうな。違うものは違うもので、いいではないか……」
「………アンタもなんか、あったのか?」
「…少し、な。家康が私を一方的に好くようになってからは、減った」
「…そうか」
「…そんなことより、ありがとう!私は確かに本が好きなんだ。貴様はどうなんだ?」
三成は話題を変え、嬉そうにそう言うと笑いながら政宗を振り返った。

凶姫と龍人26

じ、と己を見つめる三成に小十郎は頭を抱えた。
「…政宗様はな、おめぇがするように接せられた事が久しくねぇんだよ。これで理解しな。西海!テメェは面貸せや」
「…ちょキレすぎだっていだだだ!」
小十郎は素っ気なくそう言うと元親の首根っこを掴んで部屋を出ていってしまった。三成は困ったように首をかしげる。
「…つまりどういうことだ?」
「三成殿!きっと政宗殿は、嬉しかったのだと思いまする!」
「うれしい……?」
「三成殿は、政宗殿の事を思って下さっておるでござろう?だからでござる!某達とは違う、ただの人である三成殿に、思うていただけた事が、嬉しかったのだと!」
「!……わ、私は…」
三成は僅かに顔を赤らめた。幸村はきょとんと首をかしげ、間違っておりまするか?と吉継を振り返った。
「ま、竜の右目もああ言うておる、あながち外れではなかろ」
「!!!!え、あ、う…」
「成り立ての頃は今よりも人が来ることが多くてな。皆悲鳴をあげて逃げたのよ。中には石やら何やら投げつける者もおってなァ」
「!」
吉継の言葉に、三成ははっとしたように吉継を見た。
「それ以来ずっとヒトと触れ合う事を恐れておったし、それから訪れる者も皆王子を恐れておった」
「…なぜ石やら何やら投げつけるなどということを……?」
「己と異なるものを嫌うはヒトの理よ」
「……!そんな」
「だから主は王子にとっては変わり者よ。喜ばしい、な」
「……!」
三成は政宗が逃げ去った方向に視線を向けた。きゅ、と拳を作る。
「……そうか」
そしてそう、小さく呟いた。

 それから、1週間が経った。三成は午前は体を動かすか部屋で何かしていて、午後は天君を庭で散歩させていた。念のために、とついてきている官兵衛が木の下を通るたび、官兵衛の上に雪が落ち、官兵衛は何故じゃと騒いだ。
「…貴様本当に運がないな……」
「じゃかあっしい!小生のせいじゃないぞ!ぶべっ!」
「…もう木の下を通るな貴様」
なんとも微笑ましいその様子を、政宗は自室のベランダから見下ろしていた。ふ、と小さく笑みを浮かべる。
「もう1週間経ったな。あいつ、逃げ出さねぇ」
「来たばかりの時、確か裏切りが嫌いだと言っており申したな。真面目なのでしょう」
「…あいつに何か、返してぇな」
「ぷれぜんと、って奴か?!」
「…だけど何やりゃいいんだ?」
政宗はそう言うとぶす、と頬杖をついた。うーん、と唸って珍しく考え込んでいる。
傍にいた元親も腕を組んだ。だがその額には大きなたんこぶが残っていて、政宗が逃げ去った時の元親の態度への、小十郎の怒りがうかがえる。
「…そもそもあいつは何が好きなんだ?」
「知らねぇよ、流石に」
「……あの者は時折部屋に閉じこもっておりまする。同じ部屋のお市ならば何か、知っておるのでは」
「…そうだな…」
政宗は体を起こすと、三成に宛がった部屋に向かった。
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