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凶姫と龍人15

「てめぇ!」
その影は政宗だった。政宗はバラのケースの前から三成を押し退けた。
「!いたのか、話が…」
「なんでこの部屋に来た!ここには来るなっつったろうが!」
「!す、すまない、私は」
「出てけ!さっさと出ていけ!」
政宗の剣幕に思わず三成もたじたじに言われるままに部屋を飛び出した。残された政宗は乱れた息を整えた後、苛立ったように自分の頭を叩いた。

 「ぜひー…ひー…どこじゃあ……」
「!いよった」
ぜぇぜぇと肩で息をしながらふらふらと歩いていた官兵衛の前に三成が走ってきた。三成は吉継達に目もくれず走り抜ける。
「!!どうしやった三成!」
三成は返事をしない。官兵衛は大きくため息をついた後、今度は三成を追いかけて走り出した。
三成は宛がわれた部屋から上着と刀を持ち出すと階段をかけ降りた。
「!お、おい!どこ行くんだ姫さん!」
「何があった!?先程の政宗様の声は!」
「あいつが出ていけと言った!だから出ていく!」
ちょうど鉢合わせた元親と元親が途中で合流したらしい小十郎がぎょっとしたように三成を見、尋ねると三成は涙目でそう答え、そのまま城を飛び出していった。
あまりに走るのが速いため、誰も追い付けそうにはなかった。城のエントランスには茫然とした元親達が残された。

 「何をしているのですか貴方は!貴方も女子が居らねば呪いが解けぬ事、分からぬ程愚かではありますまい!」
数分後、政宗は厨房にて小十郎に説教されていた。集まった元就達は僅かに落胆しているようにも見える。
政宗はぷいとそっぽを向いた。
「…るせぇ。どうせ野郎が俺を好きになる事なんてあるわけねぇ」
「なんで決めつけんだよ!あの姫さんお前に謝りたくてお前の事探してたんだぞ!」
「うるせぇ、俺には関係ねぇ!」
政宗はそう言い切ると立ち上がり、厨房を出ようとした。その時、ずっと静観していた久秀がにや、と笑った。
「あぁ、独眼竜、部屋に戻るならば玄関を閉めていってもらえないかね?」
「…なんだと?」
「ここから聞こえた限り、どうやら扉は開け放しのようなのでね。いや、卿は知らないだろうが、あの森は夜になると狼の活動が活発でね、城の中に入ってこないとも限らない。ここの狼は人を襲う、卿の身のためだ」
「………。…!!」
政宗はしばらく久秀を見つめた後はっとしたように目を見開き、厨房を飛び出した。
「ははは、チョロい、チョロい」
「…今回ばかりは感謝するぜ松永……」

 一方の三成は、狼と遭遇してしまっていた。おまけに、狼が逃れようと走っているときに、氷が張っているだけと気がつかず池に落ちてしまった。
「…く……」
冷たい水からはなんとか抜け出せたが、寒さに体が動かなくなっていた。天君が三成を庇うように嘶くが、多数の狼の前ではあまり効果がない。
迫る狼の姿に、三成の体が寒さ以外のもので震え始めた。
「…はんべえさま……ひでよしさま……ッ!」
二人の名前を呟いた時、三成めがけ狼が飛びかかった。
「う、うわぁぁぁっ!!」
三成は体を丸め、ぎゅ、と強く目をつぶった。

「Shit!!」

痛みの代わりに訪れたのは、鋭い声。
「?!だ、伊達政宗!!?!?」
狼の牙は、三成に届く前に立ちふさがった政宗の腕に深々と突き刺さっていた。
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