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凶姫と龍人29

「…ぷ」
「?どうした」
「…いいや、小十郎みてぇな男だと思ってよ」
「…小十郎……あ、時計の男か?」
「あぁ。この男にそっくりだぜ」
「そうか…相当な堅物なのだな」
「まぁな」
政宗はそう言うとイタズラっぽくケラケラと笑った。三成もつられて小さく笑う。
ぱらり、と次のページを捲る。政宗が細長い指で文字を指差した。
「この漢字は?」
「これは、やり、だ」
「やり……」
政宗は口のなかで呟いた。三成は前のページを何ページか見直した。
「武器の名前は大体出揃ったか?」
「かたな、ひなわじゅう、てっぽう、ゆみや、なぎなた、やり、か」
「あぁ。物覚えがいいんだな」
「そうか?Thanks」
「なぁ、気になっていたんだが、貴様が時々口にする、さんくす、とかいうのはなんの言葉だ?」
「Ah?あぁ、Englishっつってな、外つ国の言葉だ」
政宗は少し意外そうに三成を見たあと、に、と笑ってそう言った。三成は僅かに驚いたように政宗を見る。
「外つ国の言葉が分かるのか?」
「一時期ウチに来てた家庭教師が知っててな。面白かったから教わってた事があんだよ」
「さんくす、というのは、ありがとう、だったな」
「おぅ。…なんなら、教えてやろうか?」
「!頼む」
「じゃ、この話終わったらな」
「そうだな」
二人はそう言うと視線を本に戻した。三成が音読を再開する。
その様子を見ていた幸村はばたんと倒れた。
「はれんちなりぃぃぃぃぃ………」
「…長いゆえ茶でもと思うたが、邪魔できぬな……」
隣にいた吉継は幸村を包帯で持ち上げ官兵衛の上に置き、困ったようにそう呟いた。
「どうするよ」
「…恐らく今の話が終わればちょうど夕飯時よ。話が済むまで我はここにいる故、主は幸村を連れて帰れ。落としたら…分かっておるなァ?」
「はいはい、ったく、お前さん親バカだな」
「ヒヒッ。主こそさっさと妻でもめとったらどうなのだ?」
「この姿で嫁が貰えるかッッ!!余計な世話じゃ!」
官兵衛はふん!と言うと吉継に背を向け、背中でもだもだとしている幸村を落とさないように気を付けながら食堂に戻っていった。
吉継は三成と政宗に視線を向ける。
「…やれ、これはひょっとするとひょっとするかもしれぬなぁ」
吉継はそう小さく呟くと、ヒヒ、と笑い声をもらした。



 その頃村では。
「半兵衛殿!よかった、漸く会えた」
家康は半兵衛の姿を見つけ、駆け寄った。半兵衛は今まで家に閉じ籠っていて、話しかけられなかったのだ。
木箱を持った半兵衛は不愉快そうに家康を一瞥した後、家康を無視してすたすた歩きだした。家康は気にする事なく後を追う。
「一週間前な。例の城に行ってきた」
「………。は?」
ぴたり、と半兵衛の足が止まる。家康は半兵衛の目の前にたった。
「話すことを拒否されてしまったが、アイツは悪い奴じゃないな!」
「………彼がどういう人間かなんて事には興味はないよ。僕は彼の行為で彼を判断するからね」
半兵衛は興味なさげにそう言うと歩みを再開した。
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