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もうお前を離さない238

「錨」
「り、利害」
「今川焼」
「きー…機雷」
「苺」
「ご、語彙」
「囲碁」
「誤解っ」
「生き甲斐」
「いっ…言い合い!」
「椅子」
「推移っ」
「…炒り豆」
「姪」
「遺戒」
「えーと…言い違い」
「唯々諾々」
「杭」
「…おい石田ぁ…」
「一途。何だ長曾我部」
「一体いつまでそのしりとりとやらを続けるつもりなんだ?」
しりとりを始めて早半時が経過した。蚊帳の外であり、とはいえ外に出るタイミングを逃した長曾我部は機巧の設計をしていたが、いい加減飽きたらしい、げんなりした顔で石田を見た。石田は大分酔いが楽になったらしく、起き上がって床に座っていた。
「どちらかが負けるまで。そういう勝負だ」
「はぁ…」
「ずー…図解」
「粋」
「き…奇怪」
「…イタチ」
「…ち?!まさかのち!!」
「ふん」
終わりそうにないしりとりに、長曾我部は人知れずため息を吐いたのだった。


 それから再び半時が経ち、長曾我部の船が四国に到着した。
「アーニキー!!」
そして、長曾我部が上陸した途端に走り寄ってきた長曾我部の部活の男がいた。手には文のような物を持っており、顔は酷く焦っている。
「どうした?」
「何の騒ぎだ長曾我部」
長曾我部の後に船を降りた石田は部下の声に眉間を寄せる。部下は長曾我部に手の文を差し出した。
「今東国がやばいことになってますぜ!」
「?……………何ッ」
「?」
長曾我部は文を読み、目を驚愕で見開いた。長曾我部は不思議そうに自分を見る石田に文を手渡した。
「…、アンタ宛てだ、悪ぃ先に読んじまった」
「……貴様…」
石田はぎろりと一度長曾我部を睨んだ後、文に目を落とした。
「…真田と上杉との戦闘中に…家康が奇襲をしただと?!」
「…真田の忍の報告だ。真田幸村は味方の裏切りもあって負傷、撤退。撤退自体は見事なもんで真田幸村の身代わりをした1人が家康方の捕虜になったらしい、って話だ。それも、女らしい」
「女…?……まさか…」
「?」
「…その上、北条から敵襲が…!?」

がらんっ。
「!!」
「わ、ま、待って…!」
突然した物音に石田は勢い良く振り返った。そこで刀を拾い上げる村越と目が合った。びくり、と村越の肩が跳ねた。
「わ、私…その……」
「…聞いたか」
「き、聞いてませんよ!!すいません刀落としちゃって!失礼しますっ」
「待て村越!」
背を向けた村越を石田は呼び止めた。ぐしゃ、と文を握りしめ、石田は村越に歩み寄った。
「…帰るぞ」
「…え…?」
「さっさと帰るぞ。…今貴様に出来ることはそれだけだろう」
「!」
石田は長曾我部を振り返った。
「長曾我部。大阪に向けてどれくらいで出せる?」
「え、あぁ…大阪に行くならここじゃねぇ港から出た方が速い。その港に移動すりゃすぐに」
「ならさっさと移動するぞ」
石田はそう言うなりてきぱきと指示を出し始めた。
村越は暫く呆然と石田の姿を見つめた後ぎゅうと刀を握りしめ、僅かに俯いた。
「…?おい、大丈夫か?」
「………長曾我部さん」
「な、なんだ?」
「…、いえ、なんでもありません。…そうですね。私が今ここで不安になったって意味がない…行かなくちゃ…!」
「…!」
「失礼します」
村越は長曾我部に頭を下げると、刀を腰に差し、船の積み荷を降ろしている作業を手伝いに走った。

もうお前を離さない237

「…胸騒ぎがしたとも言っていたな」
「…はい………」
「…、どちらにせよ、船の上ではどうしようもない。四国に着くまで耐えろ」
「…そうですね。無事を信じて待つ事にします」
村越はそう言うと小さく笑い立ち上がった。
「何か欲しいものありますか?というより三成さん、具足脱いだらどうです?」
「何もいらん。…、いや、脱ぐのを手伝え」
石田はそう言いながら小手の防具を外した。村越は再び腰を下ろして腕の防具を外すのを手伝った。
「…、船酔いなら寝て乗り過ごしたらどうでしょう?」
「…そう簡単に眠れるか」
「そうですか?…、よしと。何かあったら呼んでください、私外にいますから」
「……………」
そう言った村越に石田は暫く黙った。鎧を全て取り終わった時、石田は村越を見上げ、言った。
「…貴様と話していたら気が紛れたか少し楽になった。中にいて話相手になれ」
「!!本当ですか!?じゃあじゃあ、何の話します?」
ぱっと表情を明るくした村越は嬉々とした様子で石田の枕元に座った。石田はぼすんと横になる。
「貴様の好きにしろ」
「えっ!…じゃあ、しりとりしませんか?!」
「ふん…いいだろう」
「…では、何からにします?あ、大谷さんのぶ、からにしましょう!」
「…貴様の言葉の選び方は相変わらず分からん。…、武器」
「き…気合い!」
「…真田のような事を言うな」
「あ…そうですね。ははっ」
「い、か…。…雷」
「ち…地図」
「頭蓋」
しりとりを始めた2人を、窓からそっと覗いている人物がいた。
大谷だ。
大谷は2人のやりとりを見てヒッヒと小さく笑うと視線を外しその場を離れた。
「…ッ」
船室から離れてきたところで長曾我部に鉢合わせたが、大谷はちらと視線を飛ばしただけでそのままふよふよと離れていった。
長曾我部は立ち止まってそんな大谷を目で追った後、石田の船室に近づいた。
中からはこんな声が聞こえてきている。
「ち、ち、ち…!父!」
「近道」
「あーもうぅぅっ!!」
「貴様の番だ、早くしろ」
「ち…?!致死!」
「質」
「ちー……千歳!」
「設置」
「またち!」
「…何やってんだ?」
しりとりに白熱している2人に、扉を開けた長曾我部はぽかんと2人を見た。2人の視線が同時に長曾我部にむく。
「長曾我部さん。…あ、人名は駄目だったえーと…ち……」
「…何の用だ長曾我部」
「いや、用っていうか…船酔い大丈夫なのか?」
「こいつと話していたら紛れた、だから話している」
「知恵!」
「叡智」
「早いぃ!!」
「…会話なのか?」
「しりとりだ」
「しりとり?」
石田は興味を無くしたかのように長曾我部から目を逸らした。長曾我部はしりとりがよく分からず、頭を捻っている。
「秩序!」
「幼稚」
「ち、ち、ち、知能!」
「、うさぎもち」
「地下!」
「価値」
「ち、ち…血合い!」
「命」
「地位!」
「生血」
「地域!」
「吉」
「ちー…違い棚!」
「な………仲立ち」
「……おい石田、何となくどういうもんなのかは分かったが卑怯じゃねぇか?」
なんでも、ち、で返す石田に長曾我部は見兼ねてそう言った。その言葉に、何故か村越が首を振った。
「なんでも、ち、で返すのも難しいんですよ。契り!」
「立地」
「今度は負けませんよ!力水!」
「ず…いいち」
「知己!」
「…気持ち」
「ちー…。!乳兄弟!」
「…………………」
「!!…十ー九ー八ー七ー」
「…ちっ。家」
「やたー!」
「…楽しいのかお前ら…」
置いてきぼりにされた長曾我部は頬杖をついて小さくため息を吐いた。

もうお前を離さない236

「?どうしました?」
「…村越。私には貴様が分からない」
「………。えっ?」
石田の言葉に村越は驚いて目を見開いた。
「貴様は私の事が好きなのかもしれないと言った。私の力になれるのなら利用されても構わないと言った」
「はぁ…。…。?!あの時の会話聞いてたんですか!!」
「何故だ?」
「何故…って……」
「何故私の為にそうまでしようとする?私は秀吉様のような器量も尊厳も力も何も持っていない。私は全てを失った、貴様に与えられる物などない。なのに何故そうまで…」
連続して言って気持ち悪くなったのか、石田はそこで言葉を切り枕に顔を埋めた。村越はぱちくりと目を瞬いた。
「…、私は、貰っていますよ?」
「…何…?」
「私は貴方に生きる目的を、居場所を、そして力を貰いました」
村越はそう言うと優しく笑って石田の頭を撫でた。石田は撫でられた事に驚き、枕に顔を埋めたまま顔を動かし村越を見た。
「今の私は三成さんがいなければ何一つ成り立ってません。…私はたくさんの物を貴方から貰った。…貴方に、命を貰った」
「………」
「だから私は貴方の力になりたい。貰った物以上の物を貴方に差し上げたい。…それに、例え三成さんに秀吉様のような力がなかったとしても、貴方には貴方の力がある」
「!」
「三成さんは居合いがとても強くて、どこまでも真っ直ぐで、自分の正しい道を信じられて、そしてどこまでも人を尊敬し尽くす事が出来る。秀吉様は…私はよくは知りませんが、戦い方が違うから三成さんの方が居合いは強い。私は、貴方という人間にたくさんの物を貰って、私はそんな貴方を尊敬してます。だから力になりたい、役に立ちたい。…、貴方がそんな風に気にする必要はなんてないんですよ」
村越は長い言葉を言い終えると笑みを浮かべたまま、呆然としている石田の頭を優しく撫で続けた。
「……な、な、な、、秀吉様が私に劣る事などある訳が無い!」
見るからに混乱している石田が最初に言ったのはそんな言葉だった。あまりの豊臣秀吉崇高ぶりに村越は小さく笑った。
「私は総合的にではなく部分的な事を言ってるんですよ。総合的には秀吉様の方が上だと思いますよ、だって、三成さんが尊敬される方ですもん」
「……そ、そうか。…貴様は変な奴だ」
「むぅ。三成さんだって、尊敬する人の為になら何でもしたいと思うでしょう?」
「当たり前だっ」
「じゃあ変だなんて言わないでくださいよ」
村越はそう言って苦笑すると撫でていた手を離した。石田は億劫そうに起き上がり、湯飲みの水を飲み干した。
湯飲みを傍らに起き、石田は村越を見下ろす。
「…貴様も物好きだな」
「貴方に出会ってしまったんですもの。仕方ありません?」
「……ふん」
「…ふふふ。あ、そうだ三成さん」
「…なんだ?」
ぷいとそっぽを向いてしまった石田に村越は思い出したように尋ねた。石田は振り返らないものの言葉は返す。村越は湯飲みを持ってきた盆を胸に抱えた。
「…あの…幸村さん、あの後どうなったかって、分かりますか?」
「…上杉挙兵の報の後という事か」
「あれからさっぱり…何も聞かないなと思って」
「……上杉挙兵の報は長曾我部を介して届いた情報だった。だから真田個人が今どういう状況にあるか、長曾我部が何も知らない以上私にも分からない」
「…、そうですか」
村越はかり、と僅かに盆に爪を立てた。

もうお前を離さない235

だが、いくばくもしない内に猿飛は戻ってきた。
「真田の大将ッ!!」
真田の後ろに猿飛は着地した。怪我をしたのか、右手で左の二の腕を押さえており、左手からはぽたぽたと血が垂れていた。
「?!どうしたのだ佐助!」
真田は慌てて猿飛に駆け寄る。

「北条が攻めてきた!!」

「!?」
猿飛の口からもたらされたのは、敵襲の知らせだった。



 その頃石田達は、長曾我部と合流し、船の上にいた。
村越は甲板に出て、流れる海を眺めていた。
「そんな風に海を見てっと酔っちまうぜ」
「!…えと、ち、長曾我部、さん」
「はははっ、言いにくいなら元親、でいいぜ?石田の事は三成呼びなんだろ?」
そんな村越に話し掛けたのは船長の長曾我部元親だ。村越は長曾我部を振り返る。
「三成、さんです」
「細けぇ事は気にすんな。…で、どうした、んな暗い顔しやがって」
「…幸村さんから返信ないなと思って」
村越は長曾我部の問いにそう答え、欄干に肘をつくとぼんやりと空を見上げた。天気は晴天、風もない。
長曾我部は手にした破槍を傍らに立て掛け、欄干にもたれかかるように肘を乗せた。
「真田幸村の事か。アンタ、仲良いのか?」
「親友が幸村さんの恋人なんです」
「………はっ?真田幸村に、恋人がいんのか?!」
「皆さんそういう反応されます」
「一番そういうのに無縁な男だと思ってたからよ」
長曾我部はそう苦笑すると体を起こした。
「そういえば、何かご用ですか?」
「おぅ、石田が船酔いしたらしくてよ。部屋に誰も寄せ付けないもんだから困っててな。アンタなら大丈夫だって大谷の野郎が言うもんだからよ」
「…大谷さんが?」
「だからアンタに水持ってって貰おうと思ってよ」
「分かりました、でも確証はありませんよ」
村越はそう言うと長曾我部は片手に持っていたらしい水の盆を受け取り石田の部屋へ向かった。
石田の部屋は普段長曾我部が機巧を設計するときに使用している部屋らしく、船の中ではあまり揺れない場所にあった。
村越は静かに扉をノックした。
「三成さん、村越です」
「……何の用だ…」
「長曾我部さんに頼まれて水持ってきました。飲みませんか?」
「…いらん……」
「…、少しでも飲んだ方楽になると思いますけど」
「…去る気はないのか」
「ありません」
「……好きにしろ、勝手に入れ」
呆れたようなため息の後に扉の鍵が開く音がした。村越は静かに部屋の中へと入った。石田はベットのようになっている寝所に、死んだように横たわっていた。
「三成さん船弱いんですね」
「貴様は平気なのか…」
枕に顔を埋めたまま石田が尋ねた。村越はくすりと笑う。
「まぁ。一時間くらい沖を泳いだこともあるので」
「…一時間…?」
「えっと…1日の24分の1です」
「…半時の間か…随分泳いだな」
「黎凪も同じ班で、黎凪は先頭泳いでたんですよ?」
「…誰だそれは…」
「…、幸村さんの所にいた」
「あぁ…あの女か…」
「なかなか楽しかったですよ。私、波好きなんで。三成さんは三半規管が弱いんですね」
「三半規管…?」
「人体の揺れを感じる場所ですよ」
「…そんなもの…斬滅してやる……ぅ……」
「斬滅したら立てなくなっちゃいますよ。はい、お水どうぞ」
石田は己に水の入った湯飲みを差し出す村越を、横になったままじぃと見た。

もうお前を離さない234

それから少しして、鶴姫と市は出ていった。やれやれと疲れたように息を吐き出した伊達に宮野は苦笑した。
「女のテンションにはついていけませんか」
「あぁ…。…アンタも苦手だろ?」
「分かります?」
「まぁな。伊達に領主はやってねぇ」
「ふふ…そうですね。……、独眼竜」
「なんだ?」
宮野は不意に空を見上げた。ネックレスをぎゅうと握り締める。
「…貴方だから、言えますが。…幸村は……大丈夫かな…?」
「…さぁな。…、俺は知らない」
伊達は目を細め、ただそう言った。



 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ…っ!」
「…なぁ先生、真田の大将は大丈夫なのか?」
「本来ならばまだ動けぬはずですが、驚くべき事に傷が塞がりかけておりましてな。まぁ過度な運動はよくありませぬが、あれくらいならば大丈夫でしょう」
「ふぅん…。…病は気から、ってのは本当に本当らしいな…」
同時刻。ぺこりと頭を下げた待医を横目に、猿飛は槍を手に上着も着ないで走り回る真田を見やった。走っているだけで大きなモーションはしていないが、見ている側はいつ傷が開くかとヒヤヒヤして仕方がない。
真田は走っていた足を止めると、腕の包帯を見やった。特に血がにじんだりはしていない。ふぅ、と息を吐きだして猿飛を振り返る。
「…?斯様な顔をして、如何にした佐助」
「…や、あのさぁ大将、…体大丈夫なの?」
「うむ。時折痛むが、大したことはない!」
「あ、そ…」
猿飛はふぅと息を吐きだすと手に持っていた手拭いを真田に手渡した。
真田は汗がしたたる顔を手拭いで拭いながら尋ねた。
「徳川・政宗殿の動きは?」
「昨日右目の旦那が奥州に発った事は話したよね。で、石田の旦那が薩摩からの帰路についた。だから、本多忠勝が右目の旦那の援護に出発するみたいだよ」
「!本多殿が…。…ご両人の陣より強き武人が減る、という事か」
「そういう事♪でもね…」
「?如何した」
「…、その事を教えてくれたうっつーの忍と今朝も会う予定だったんだけど…来なかった」
「!!!!…もしや、うっつー殿の忍であると発覚したと?」
「その可能性は高いね」
猿飛の言葉に真田は僅かに唇を噛んだ。猿飛は手持ちぶさたに掌で苦無をくるくると回した。
真田は不安げに東の空を見上げた。
「…黎凪……」
「…、よしっと。俺様ちょっくら侵入してくるわ」
「?!侵入!?」
驚く真田に猿飛はにやりと笑う。そして持っていた苦無をぴっ、と真田の面前に突き付けた。
「そっ。うっつーの忍の安否が分からない今、黎凪ちゃんの安否だけでも確かめないとだからさ」
猿飛はそう言うと地面を蹴り、屋根の上に飛び乗った。真田はどこか切羽詰まったような表情で猿飛を見上げた。
「…佐助!無理はするでないぞ!」
「了解ッ!!」
猿飛はそう返答すると屋根を強く蹴った。
残された真田は持っていた槍をぎゅ、と握り締めた。腕の傷が僅かに痛む。
「…黎凪…」
真田は目をキツく閉じると迷いを振り払うかのように槍を横に振るった。ずき、と傷が痛みを訴え、思わず槍を落としてしまう。
真田はその槍を拾いながら自嘲気味な笑みを浮かべた。片方の手で胸元の六文銭を掴む。
銭の中から、銀のカプセルを摘み上げる。日光を反射し、それはきらりと光った。
「…、無事でおれ、黎凪」
真田はそう呟くと祈るようにそれを握り締めた。
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