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もうお前を離さない221

「…何もないわ……」
「…の、ようですね」
「…ごめんなさい…」
「や、貴方に謝られても…柄と鞘は上物だったから、拾われて売られちゃったかな…」
「みんなみんな市のせい…」
「お市さん、突っ込みにいい加減飽きてきたんですが」
宮野は小さくため息をつくと裾をぱんぱんと払って市を振り返った。宮野は捕虜となった後も戦闘衣のままで、今は腕と胸を覆っていた上着を脱いでいただけだった為、防具となっていた部分が屈んだ時にどうしても地面についてしまうのだ。
「さ、お市さん、帰りますよ」
「え…?どこに…?」
「どこに、って、東軍の陣営ですよ。流石に走って逃げられる程体力ないんで」
「…炎色さんは、逃げたいの?なら、市が逃がしてあげるわ…」
市の言葉に宮野は困ったように笑う。
宮野はことりと首を傾げる市に視線を合わせた。
「…、私を逃がしたら、光色さんに怒られちゃいますよ?」
「…いや…怒らないで……市、いい子にするから……」
「なら、私を連れて帰るんです。来たときと同じように。ね?」
「分かったわ…市、いい子だもの……」
「うわわわっ。落ちる落ちる」
再びずるりと闇の手が飛び出し、宮野は突然持ち上げられたためにまたあわあわとしていた。
そこへ、単騎追い付いた伊達が姿を見せる。
「…?」
「あ、独眼竜」
「大丈夫…市、いい子だもの……」
「…話が見えねぇんだが」
「兜割り見つかりませんでした。だから帰ります」
「…はっ?」
「どうしたの…?貴方は帰らないの……?」
「あ…いや、帰る、が……」
伊達をちらと見ただけでふらふらと歩いていく市に、伊達は慌てて馬の頭を返した。宮野は手の上で可能な限り体を起こし、自分より下にいる伊達を見た。
「すいませんね。お手間を取らせて」
「No problem,but…お前、何故逃げなかった?」
「走って逃げられる程体力残ってないし、そう言ったら逃がしてあげるって言われましたけどお市さん巻き込む訳にはいきませんし」
「…、随分仲良しこよししてんだな」
「まさか。他人を巻き込むのが嫌なだけですよ。それに、お市さんみたいな人きっと三成さんは嫌いでしょうから、斬られかねませんしね」
「石田…だと?なんで奴が出てくる?」
「うわ、とっ、と!」
闇の手がぐらりと揺れて宮野は慌てて手にしがみついた。不可解げな伊達の視線に宮野は苦笑する。
「逃げた後にお市さんも一緒に居たらいずれ三成さんに出会ってしまうし、東軍方に返して無傷で済むとは思わない。なら、私が帰るのが一番安全なんですよ」
「…安全、ねぇ」
「それに、貴方に追い掛けられて逃げられる気もしませんし、逃げた事で幸村に宣戦布告されても困りますしね」
幸村まだ傷治ってませんから。宮野はそう言って苦笑した。伊達は目を細め、宮野を睨むように見上げた後、小さくため息をついた。
「変な野郎だぜ。折角逃げ出せるchanceだってのによ」
「ふふ…、でも、私にはちょっと達成したい夢があるので」
「夢…だと?」

「徳川家康と石田三成。2人の決着をどちらかの死以外での形で着けること」

「…ッ!!!?」
「まぁ、元々私はその為に来たようなものですしね」
「…?」
「誰も後悔しない終わり方なんて、この大きな戦ではないでしょうけど、可能なかぎり、後悔させないで、そして片方の滅亡以外で、この戦を終わらせたい、そう思ってるんですよ、私は」
宮野はそう言って再び笑った。
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