スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

もうお前を離さない218

「……ッ」
「………止めろ…ッ」
「?」
痛みに顔をしかめていた村越は、石田の震えた声に殴られた頬を押さえて石田を見た。石田の手は先ほど以上に震え、湯呑は少し離れた所で割れていた。
「止めろ…ッあの人を過去にするな…ッ!!」
「…ッ」
村越はツキン、と胸の奥で音がした気がした。そっと村越は石田に近寄る。
「…三成さん」
「…ッ………」
「そう思うのは、貴方も過去になってしまっていると感じているからです」
「ッ止めろ!!」
「でも、秀吉さんも半兵衛さんも、まだ貴方の中に生きているじゃないですか」
「…!…ッ!!そんな有りがちな言葉などいらない!」
「有りがちな言葉しか私は使えません!でも三成さん!有りがちだという事は、それだけそういう人が多いって事じゃないんですか!!」
2人の声が段々に大きくなる。傍にいた兵士達は巻き込まれるのを恐れ、少し離れた所から恐る恐る様子を伺っている。
石田はぎっ、と村越を睨み叫んだ。
「だからなんだ!私もそうだとでも言いたいのか?!」
「違います!有りがちな言葉であるのが悪い事ですか?!ならば、貴方はどんな言葉が欲しいんですか!!貴方は実際は、そんな特別な言葉は望んでないはずです!!」
「なんだと?!」

「悲しいなら、辛いなら泣けばいい!泣いて泣いて、全部吐き出せば良いじゃないですか!なんで貴方は、それをため込んで隠してしまうんですか!!」

「…ッ隠してなどっ「いいえ隠してます!!貴方の目はどこまでも澄んでいて、憎しみが渦巻いていて、そして悲しみに溢れてます!」
が、と村越は石田の着物の襟を掴み引き寄せた。
「…ッ私にだって、その程度の事なら分かります。貴方が悲しめていない事くらい!」
「悲しみなどとっくに無くした!そんなものは残っていない、そう言ったはずだ!」
「悲しみは無くなりません!!悲しみがないなら、どうして憎いんですか!悲しみがないなら憎しみなんて生まれないでしょう!」
「噤め!貴様に何が分かる!」
「噤めだとか黙れだとか聞き飽きました!人の話を聞いてください!!」
「貴様の話で聞くことなどない!!」
「!!!!……三成さんの馬鹿ぁぁ!!」
「!!」
ぱしん、と。
乾いた音がして石田の顔が横に揺れた。石田の頬を叩いた村越は、その勢いのままその場から走り去ってしまった。
残された石田は叩かれた頬を掌で押さえた。
「…ちっ…」
「…おいお前さん」
「!官兵衛…何の用だ。昨晩の事で私を愚弄しに来たか!」
「はぁ?あぁ、確かに昨日のお前さんは滑稽だったがよ…ってこら!水が入ってる盥を投げんな!」
ぶん、と勢い良く飛んできた盥を慌てて避けた黒田は、やれやれといった様子で呆れたようにため息をついた。
「今はそんな事どうでもいい、お前さん、あの女子泣かせたのか?」
「…泣かせた?」
「そうだ、今泣きながら飛び出してったろ」
「…また泣いたのか」
「まただぁ?!な、お前さん…!女子泣かせてどうすんだよ!」
「…貴様には関係ない」
ぷいとそっぽを向いた石田に、黒田は深々とため息をつく。そして石田の顔を見てどこか拍子抜けした顔になり、それから苦笑した。
「…関係はないだろうがよ。…そうだな、お前さんが女子を泣かすのもまぁ、な。…でもよ、お前さん、なんでそんな顔しとるんだ」
「…顔…?」
「そうだなぁ…今のお前さんの顔は、半兵衛に叱られた時と似てんなぁ」
「?!!?貴様何が言いたい!」
「後悔して、どう謝ればいいか分からないって顔してるって言ってんだよ」
「!!」
黒田の言葉に石田は目を見開いた。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2011年08月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31