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もうお前を離さない230

「あれからずっと…考えてしまうのだ。俺が、もっと、強ければ…と」
「…、………」
「考えたとて意味のない事は分かっておる。だが、どうしても思ってしまうのだ…」
「大将…」
「…、無事であれば、よいのだが」
真田はそう言って空を見上げた。憎たらしいほどの青空だった。



 宮野は床に寝そべり空を見上げていた。どんよりと曇った空は、今すぐにでも雨が降り出しそうだ。
「宮野ど…。宮野殿っ?!」
「あ、どうも東照権現」
「な…何しているんだ…?」
「空見てたんです。鎖の長さ上、寝そべらないと空見えなくて」
「な、なるほど…」
「何か御用で?もてなしは何も出来ませんが」
宮野はやや億劫そうに起き上がると、やってきた徳川を向いて胡坐をかいた。徳川は苦笑しながら宮野の向かいに座った。
「…、退屈か?」
「まぁ、何もやることないですからね。傷もそんなに痛くないし」
「ふふ、そうか…」
徳川はぐぐ、と体を伸ばす宮野に小さく笑った後、目を伏せた。
「…、宮野殿。あれから少し、考えてみたんだ」
「ほっほぅ。答えは出ましたか?」
「…いいや、出ない。宮野殿の意見を聞きたいのだが」
「はい?私の?」
「…確かにワシは矛盾している。だがワシはそれを受け入れているつもりだった。…、そう指摘する者も、ワシがそれから逃げていると言ってきた者も、今まで1人も居なかったしな。…宮野殿に、ワシはどのように見えているんだ?」
「…、………」
宮野は黙って徳川を見た。徳川は宮野の不躾な視線にくすりと苦笑を浮かべる。
宮野はんー、と小さく呻いた。
「…どのように、ですか。…、いつも思うのが、他に方法はないのか、ですけど」
「…!」
「太閤を殺したのだって、どうして豊臣から離反して宣戦布告するとかではなく裏切りなんてやり方をしたのか。どうして三成さんはどう足掻いても説得出来ないと諦めてしまったのか」
「!」
「決意があんなに大きいのに、諦めやすいですよね、貴方って」
「…、………」
徳川は宮野の言葉に、苦笑を浮かべたまま俯いた。
「…、本当は貴方は、諦めたくないんじゃないんですか?」
「え……?」
驚いて徳川は顔を上げた。宮野は床に手をつき、じっと徳川を見ていた。
「私は、諦めたくないものはどう足掻いても何を捨てても諦めたくない。諦めない」
「……!」
「私は、それだけ決めたら諦めたくないんですよ。例え、それが自分の正義と反したって」
「…宮野殿……」
「徳川家康。…また言うみたいですが、一度全部忘れて考え直してみたらどうです?」
「全部…忘れて……?」
宮野は徳川を見て薄く笑った。母親のような、優しい笑みを浮かべたのだ。
「貴方は全てを抱えようとして、抱えきれなくて、その分貴方の中から貴方がいなくなっているような気がするんです。…、いつか、皆消えちゃいますよ?」
「…ワシが…消えている…?」
「辛いとか悲しいとか悔しいとか、そういった気持ちに全部蓋をしてる。それに蓋をするべきだと思ってる。でも私は、そうじゃないと思うんです。貴方がやりたいと思うこと、それが一番重要だと。…それだったら、私は自分自身に嘘を吐くべきじゃないと思います」
「…そう……見えるのか?」
「えぇ。貴方は自分が見えているようで見失ってる、私はそう思いますよ」
宮野はそう言って徳川を見据えた。
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