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貴方も私も人じゃない82

鎮流はその後、近くの井戸まで行って手拭いを濡らしてきた。秋頃の季節であるためか、水はほんのり冷たかった。
「半兵衛様、入ります」
鎮流は濡らした手拭いと羽織を手に部屋へと戻った。半兵衛は一応収まったらしい、ぜぇぜぇと僅かに息を上げていたが、血を吐くことは止まったようだ。横にさせた後も少し吐いたらしく、洋服と髪の一部が赤くなっていた。
「……鎮流君、もう大丈夫だよ」
「駄目です。しばらく安静にしていてください。それから、冷たいかもしれませんが、胸を冷やしてください」
「冷やす…?どうして、」
「いいから起き上がらないでください!」
起き上がろうとする半兵衛を強引に引き留め、鎮流は汚れた服を脱がせて羽織の1つを羽織らせた。僅かにはだけさせた胸に手拭いを置いて持たせ、仰向けに寝かせる。そして手拭いで塗れないようにしながら他の羽織を毛布のように半兵衛の体にかけた。余った部分は小さく丸めて、枕代わりになるようにした。
なすがままにされながら、半兵衛はくすりと笑った。
「…これが応急処置かい?」
「……何もしないよりかはいくぶんマシかと。喀血…呼吸器からの出血の時は体を温め、胸を冷やせと習ったことがあります」
「ふぅん、そう」
半兵衛は笑ったままごろり、と横に向けていた首を上に向けた。鎮流はす、と目を細める。
「…おそらく半兵衛様が患っておいでの病は、近くにいるはずの三成様や秀吉様、他の兵に同様の症状が見られないことから見ても、私のいた所でいうところの肺炎だと思われます」
「はいえん…?」
「肺…胸部にある、呼吸する時に主に使われる内臓のことです。肺炎というのは、その部位が炎症を起こしている病気です」
「…、いまいちよく分からないけど、腫れてる、ってことかな?」
「簡単に言えば、そう言えます。理屈は私にもよく分かりませんが、基本的に病気は温めた方がよいのです。今は血を吐いたので冷やしていますが、普段はなるべく冷やさないようにしてください」
「……、ふふ、分かったよ」
半兵衛はそう言って笑うと、ふぅ、と息をついた。
鎮流は鎮流で、他に持ってきていた手拭いで床の血を拭っていた。肺からの出血だけあって、かなりの鮮血だった。
「…ッ」
僅かに香る鉄臭い臭いに、僅かに吐き気を催す。鎮流は拭いていない方の手で口元を覆った。
ーー気持ち悪い。血って、普通でもこんなに鼻につくの…?
「…、血は見慣れないかい?」
「いえ…そういうわけでありません、お気になさらず」
「すまないね、そんなことまでさせて」
「…、血の掃除は女は手慣れたものですよ、半兵衛様」
「…、そう」
いたずらっぽくそう言った鎮流に半兵衛はすまなそうに眉尻を下げ、目を伏せた。


 それから少しして。
「半兵衛」
「!秀吉…」
不意に秀吉が半兵衛の元を訪れた。鎮流は血の始末をした手拭いを始末しにいっており、部屋にいない。僅かに半兵衛は焦ったが、人払いの話を聞いていたのか、すぐには入ってこない。
半兵衛は起き上がり、体にかけられていた羽織を部屋の隅へと置いた。そして、ふと小机に置かれた食事に気がつき、その中の味噌汁の椀を手に取ると窓から外へその中身を捨てた。
「入って構わないよ、秀吉」
半兵衛は手拭いを小机に起き、開いていた胸元を整えるとそう声をかけた。
からり、と小さな音を立てて扉が開き、秀吉が中に入ってきた。
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