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貴方も私も人じゃない61

半兵衛は鎮流にくるりと背中を向け、机の上に散乱した地図や紙を整理し始めた。
「君も早く休みたまえ、一部味方に引き入れるとなると明日も忙しくなる」
「………半兵衛様、1つお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「なんだい?」

「半兵衛様は、肺…胸を患っておいでではありませんか」

半兵衛は少しの間黙った後、ふふ、と笑った。
「急に何を言い出すんだい?僕はこんなにもピンピンしているじゃないか」
「…時折、呼吸する音が掠れておいでです。それに…家康様は気が付かなかったようですが、歯に、血が」
「…………」
「まだあります。昼間敵方の城で走った後、少し咳き込んでおいででしたが、その咳の音も…」
「…もういい」
そう思う理由を列挙する鎮流に、半兵衛はぽつり、と静かに告げた。鎮流は半兵衛の言葉に口を閉ざした。
半兵衛は鎮流を振り返った。困ったように薄く笑みを浮かべている。
「…まぁ、君なら別に構わないよ。ただ、他の子には内緒だよ。秀吉にもね」
「…」
「そう…確かに僕は患っている。だから僕には時間がない。君を弟子に迎えたのも、そうした理由もある。君にここまで見抜かれるとは思わなかったけどね」
半兵衛は困ったようにそう言って肩を竦めた。
ただの色白だと思っていた半兵衛の姿が、違ったように見えてくる。鎮流は目を細めた。
「…、昔、私自身が少しばかり患った事があるので」
「そう。僕のは治らない病なそうでね。時々血も吐く」
「…!それは…」
「多分、早々他人には移らないとは思うけど、僕が血吐いたら近付かないでね。君に移ったら君を弟子にした意味がなくなる」
半兵衛はそう言うと、ぽん、と鎮流の肩を叩き、机の上の整頓に戻った。
鎮流はしばらくそんな半兵衛を見つめた後、口を開いた。
「…どうして、そこまで命をおかけになるのですか」
「…秀吉が、秀吉が天下を取ることが、僕の夢だからだよ。女の子の君には解し難いかな?」
半兵衛は鎮流の言葉に意外そうに鎮流を振り返り、だが格段嫌そうな顔はしていなかった。鎮流は眉間を寄せる。
「…分からなくは、ないといったところでしょうか。私は…そこまでどなたかに希望や夢を、抱いたことがありませんので…」
「…秀吉は素晴らしいよ。彼はこの国の希望だ。きっと君も彼に希望を見出すよ」
「…それほどまでに、でございますか」
「あぁ」
「…私の世界の、統治する立場の者はろくな者がおりませんでしたので…」
「へぇ、それはそれは…ならば尚のこと、秀吉は君のお気にめすだろう。君を秀吉に会わせる日が楽しみだよ。……片すのを手伝ってくれるかい?」
「………、はい」
鎮流は垣間見えた半兵衛の覚悟に、驚きと畏怖の思いを感じながらも、それは告げずに半兵衛が差し出した書簡を受け取った。
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