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貴方も私も人じゃない66


どきり、と僅かに胸が高鳴った気がした。

今までそんな柔らかい笑みはーー一切の悪意のない、純粋な柔らかい笑みは、向けられたことがなかった。

鎮流は僅かに目を見開き、少し驚いたように自分の胸元を抑えた。胸はまだ、平常より速い速度で脈打っている。
「…?」
「?どうした?」
「…、いえ、なんでもありません。気のせいでした。…、私にしてみれば、家康様の価値観も面白く思います」
「ん?そうか?ははっ、ありがとう!………で、何の話をしていたんだっけな?」
「……そうですね、何でしたでしょうか」
「……ははっ、忘れてしまったな!別な話でもしようか!」
「はい」
二人はくすくすと楽しそうに笑いあった後、何を話していたか忘れてまた新しい話に移っていった。


夕暮れになった。流石に話すのにも飽きてきた頃、敵兵方に動きがあった。ぽつりぽつりと、だがそれなりの数の兵が二人の待つ門へとやってきた。その数は、広間に集まっていた兵の半数は越えていた。
家康は僅かに意外そうに彼らを見る。
「…思ったよりも多いな」
「そうですか?私は三分の二ほど来るかと思っておりました」
「?なんでだ?」
各自で点呼を始めた兵達を見ながら、鎮流は指を口許に添えた。
「爺やを昨日の内に、この城の者達の家族が暮らしているであろう村に行かせていました」
「源三殿にか?か、彼は意外と行動的なんだな…というより、昨日じゃまだ戦は終わって、」
「戦に巻き込まれないであろう道は選別いたしました。それに、あれでいて爺やは足腰が強いですから。話を元に戻しても?」
「ん、あぁ。どうだったんだ」
鎮流は指を添えたまま、ふらり、と首を倒した。薄く目を細め、僅かに口角をあげる。
それは笑っているようにも、憐れんでいる様にも見えた。
どちらにせよあまりいい表情ではない。指があるからか、家康には見えていないようだ。
「若手、ほとんどいなかったそうですよ。老人と女だけ。田畑も荒れ、その様子ではろくに作物も育たないだろうと」
「…?つまり」
「?分かりませんか?」
「す……すまん」
「稼ぎ手はここにいる若い男達しかいないということです。ですが、稼ぎ場である軍は崩壊してしまった。ではどうやって家族を養うのか。…、下手に新たに探すより、より強い軍に所属した方が確実です」
「……、なるほどな」
鎮流はそう家康に告げると添えていた指を下ろした。点呼を取り、適当な間隔で整列した兵達の前に向かう。
「そのご決断、感謝いたします。迷いは、ございませんか?」
「我ら一同、皆覚悟を持ってこの場に参りました。迷いはございません」
「…、そのお言葉を信じましょう。では、ご案内いたします」
鎮流はそう言うと、本陣に向け踵を返した。
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