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貴方も私も人じゃない77

鎮流はぽすん、と床に座り、結い直すために解いた髪を指で弄んだ。鎮流が座ったことで、源三も斜め前に正座で座る。
「…、存外私はここが楽しいわ。まだ命の危機に瀕していないからそんなことが言えるのかもしれないけれど、生殺しにされるより遥かに居心地がいい」
「……それほどまでに、あの家がお嫌いでしたか」
「嫌いというわけではないわ。お父様は尊敬しているし。…ただ、あそこでは私はただのパペットなのよ」
「…人形、でございますか」
鎮流は、ぱっ、と持っていた髪を離した。髪はパラパラと力なく落ちる。
「…私は生きていたいの。普通の女でも許されているように、自分の意思で、自分の道を決めて挑みたい」
「………………」
「それが、ここなら出来るかもしれない。…だから私は、チャレンジしてみたい。来るときにも言ったでしょう?豊臣秀吉様を見て何を感じたかは知らないけれど…私はやめないわ」
源三は鎮流の言葉にどこか悲痛な面持ちで眉間を寄せたが、それでも鎮流の言葉に目を伏せ、小さく頷いた。
「………、承知、いたしました。出過ぎたことを申しました、申し訳ありません」
「別に構わないわ。危険に見えているのも分からないでもないもの。……、私は行くわ」
「…、はい」
鎮流はそう言うと手早く髪を結い上げ、腰をあげた。

 「ん、もういいのかな?」
半兵衛に言われた通りの場所へ向かうと、欄干に腰を持たれかけさせながら地図を見ている半兵衛がいた。鎮流は、はい、と返し半兵衛の方へと向かう。
半兵衛はばさりと地図を折り畳んだ。
「彼とは話はついたの?」
「え?あ…はい、一応は」
「一応?」
「あまり納得はしていなかったようですが、最終的に決めるのは私なので」
「………、彼は逆らえない?」
「そういうわけではありませんが、私が源三に従わなければならないわけでもありませんので」
「…なるほどね。君と彼の関係は複雑なようだ」
半兵衛はす、と目を細め、何か思案しながら呟くようにそう言った。半兵衛は腰をあげると、にこ、と笑みを作った。
「ありがとう。じゃあ、秀吉の所に行こうか」
「はい、分かりました」
半兵衛はそう言うと地図を小脇に抱え、先にたって歩き始めた。


 「待たせたね秀吉。始めようか」
秀吉が待つ部屋は天守閣にあった。半兵衛の後について部屋に入れば、その部屋の特殊さが目についた。
その部屋は他の部屋と違い洋風に設えてあった。壁には世界地図がかかっており、少し離れた場所には地球儀も置いてある。机の上にはいくつかの書き込まれた日本地図が散乱しており、戦略を立てるのに使うのか、碁石も置かれていた。部屋のなかには様々な調度品や刀類も置かれていたが、あまり使われている様子はなさそうだ。
秀吉はその部屋の中心にある椅子に座っていた。
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