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もうお前を離さない178

「…何をする」
「…大丈夫です」
「何がだ」
「大丈夫ですよ」
村越は薄く笑いそう言って、ただ、石田の手を握り締めた。石田は振り払う事もせず村越を見下ろす。
「…私は裏切らない、とでも言いたいのか」
「えっ、そ、そう見えますか?確かに裏切るつもりなんてないですけど…」
「…貴様はあの女以上に訳が分からない」
「う…そうですか…すいません…」
「…。…私は寝る、貴様もさっさと休め」
「えっ?あ、はいっ!」
石田は村越の手を振り払うと背を向けすたすたと歩いていった。



 翌日、真田達は上田城に帰りついていた。真田は帰って早々宇都宮と猿飛と共に部屋に籠もって何やら話し込んでいた。また宮野も帰って早々炊事係の兵に囲まれ、ぎゃあぎゃあと騒ぎになっていた。
「…騒がしい所だな」
「む…確かにそうでござりまするな」
「黎凪ちゃん救出劇が騒ぎになってるみたいだよ?」
「…?またなにゆえ」
「炊事当番だった兵なんて目の前で攫われちまったから心の臓が止まるかと思ってたらしいぜ?そこに旦那が颯爽と助けてきたらそら騒ぎになるわ」
「…そんなものなのか?」
「そんなもんだよ!2人してボケないでくんない?!」
猿飛ははぁ…、と重くため息をついた。真田と宇都宮は顔を見合わせ、視線を元に戻した。
「…して、南部殿は未だ、陸奥に?」
「あぁ。元から天下に興味のない人だからな。それに、今は確か最上と戦の最中だ」
「最上義光…羽州の狐の名は聞き及んでおりまする」
「お邪魔しまーすよ」
話している所へ宮野がやってきた。手に持った盆には僅かに湯気のあがる茶碗が4つ。
宮野は1つを立っている猿飛に渡すと真田の隣に座った。
「どうぞ」
「あ…どーも」
「すまぬ」
「…何これ。…将棋の駒の向きから見て、最上と南部が戦ってるの?」
そこで宮野は広げられた日本地図を見て目をぱちくりさせた。各地に将棋の駒が散らばっている中、東北地方の2つの将棋の駒を見て宮野はそう尋ねた。
「うむ、そうらしい」
「最上ね…最上義光って確か伊達の伯父さんだよね」
「何?!」
「えぇぇ?!マジ?!」
「え…私の世界だとそうですよ?伊達同様異国かぶれですし、てっきりこっちでもそうだと…」
「異国かぶれ…なのか?」
「午前の玄米茶とか言ってなかったっけ。異国にはアフタヌーンティーって言うのがあるんだけど、それを直訳すると午後の紅茶なの。微妙に変えてるんだろうけど、やっぱ異国かぶれだと思うんだよねー…」
「じゃ、独眼竜が訳のわからない言葉を口にするのは伯父さんに触発された、ってワケ?」
「さぁ…そこまでは」
宮野は首をかしげそう言うと、自分が持ってきた茶を口に含んだ。宇都宮は不思議そうにそんな宮野を見ていたが、真田に視線を戻した。
「…俺が知っている事は全て話した、真田幸村」
「…ありがとうござりもうした」
「それで、俺はこれからどうなる?」
そう尋ねる宇都宮の目は―死を覚悟してあった。だというのに、顔には微笑すら浮かんでいる。
宮野は目を細めて宇都宮の顔をじ、と見つめ、真田を見た。
真田は目を閉じ息を吐きだした後、目を開く。
「送りの兵を用意いたす」
「…?」
「…貴殿は、所領にお帰りくだされ」
「?!」
宇都宮は驚愕に目を見開いた。
「な…帰れって…」
「今まで通り、貴殿はあの地を守られよ」
「ちょ、ちょっと待った真田の大将」
猿飛はぶんぶんと頭を振った。
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