スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

もうお前を離さない174

「…ッ黎凪!黎凪、しっかりしろ!」
風魔の気配が完全に消えたのを確認した真田は、素早く膝をつくと腕の中の宮野を地面に下ろしその体を揺すった。
猿飛はやれやれとため息をつく。
「真田の大将、あんだけ強く鳩尾打たれたらすぐ目ぇ覚まさないって。ほら、とりあえず縄解いたげなよ?」
「む…そ、そうだな…。…とりあえず、陣営に戻るか」
「そうだな。…風魔小太郎…」
猿飛は小さく呟き、風魔が消えた方向を一瞥した。

 「…ん?」
急に聞こえてきた騒めきに目を伏せていた宇都宮は目を開いた。宇都宮は捕虜とはいえ大将であるため、真田用の陣幕の中にいた。その為外の様子は分からない。
しばらく待っているとばさりと音をさせながら真田が入ってきた。
「…?女?」
真田が抱いている宮野の姿を見て宇都宮は目をぱちくりとさせた。
「お、おぉっ宇都宮殿っ!騒がしくなり申し訳ござらぬっ!」
「…敗軍の将に対する態度じゃないだろ…」
真田は宇都宮の呆れた声は聞こえなかったらしく、宇都宮の隣、焚き火の側に座した。自分の膝を枕に宮野の体を横たえる。
「…その女…の子、どうしたんだ?いなかったよな?」
「…先程妙な胸騒ぎがした故辺りを散策しておったら、攫われてきたのでござる」
フレンドリーな宇都宮の口調を気にするでもなく、真田は真面目に言葉を返した。
宇都宮はふーん、と呟く。
「攫われ?武田の大将、えーと…」
「真田幸村にござる」
「真田幸村、あんたが知っていて攫われたって事は、どこぞの姫君なのか?」
「…。某の想い人にござる」
真田はどう言おうかしばし迷った後、事実を端的に告げた。宇都宮の目がまん丸になる。
「へっ?…あぁ、恋人って事か?…えっ?恋人いるのか?」
「うっ…まぁ、そういう事になりまする…。…見つけた時居ったのは、北条殿の忍でござった…」
「北条のじいさんが攫ったと?」
「…時に、北条殿は徳川殿と手を結ぼうと動いているとか」
「あぁ、そういやそうだな」
「!真でござるか?」
宇都宮はぐるぐると首を回し、縛られたままの手で頬杖をついた。
「最近妙に北条の方が騒がしかったから、何かしら動いているのだろうとは思っていた。こっちじゃなくて西の方にばかり向いていたから、三方ヶ原を目指してたんだろ」
「三方ヶ原…徳川殿の拠点…」
「…あんたが俺を連れてきたのは東国の動きを知りたかったからか?」
「いえ……佐竹殿の事でござる」
射ぬくような視線に真田はふるふると首を横に振ると、正直に本当の事を明かした。宇都宮は意外そうに目をみはる。
「…。あの不器用な男なら伊達に討たれたと聞いた」
「!!」
「討たれたとは言っても死んだ訳ではないらしい。今の俺のような状況にあるはずだ」
「それはまた、何故」
「…。伊達があの凶王を目指してるって噂は知ってるか?」
宇都宮の言葉に真田は目を伏せた。
「………真にござる」
上田城で相対した時の事を思い出し、真田は小さく拳を作った。宇都宮は何かを悟ったのか、目を細めた。
「…そうなのか。まぁ、そんな事俺には関係ないが、佐竹を殺したらその部下が黙っちゃいないだろ。伊達が凶王を討ちたいんなら、取り敢えずは生かしておいて配下にするって形にしておいた方が奥州を留守にしても問題ない。不器用な佐竹なら、嘘は言えないだろうしな」
「…成る程……」
真田は小さくそう呟いた。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2011年06月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30