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もうお前を離さない162

「…………何か用か」
「えっ…あ、あの」
ちん、と小さく鍔が音を音を立て、石田が呟いた言葉は凛と道場に響く。ゆっくりと石田が振り返れば、道場の入り口に竹細工で作られた籠を持った村越がいた。
村越は気付かれた事に動揺していたが、おずおずと道場内に入ってきた。石田は黙って村越を見る。
「…石田さん。…お昼ご飯の時に、来ませんでしたよね」
「それがなんだ」
「黎凪から、食欲の事は聞いてはいます、でも…上田、を出てから石田さん、一度も食べてないから……その…不安で……」
「……………」
「…だから、ちょっとでも…食べやすかったら入るかな、って…」
「?」
差し出された竹籠をちらと見下ろすと、中には一口大の小さな握り飯が入っていた。梅や根菜を混ぜたのか、色鮮やかな握り飯が綺麗に鎮座している。
「……………」
「一口サイズ…じゃないっ!一口大のお握りにしてみたんですけど…食べません…か?」
「………いらん」
「…そう…ですか」
見るからに落胆した様子を見せる村越にさすがに気まずさを感じた石田は、しばらく握り飯を見下ろしていたが、はぁと小さくため息をつくと梅色の握り飯を一つ手に取った。
「!!!!」
「…後は貴様が始末しろ」
石田は小さな握り飯を口に放り込み、道場の壁に持たれるように座った。
「はいっ!!」
村越は驚きで見開いた目を嬉しそうに細め笑うと、元気よく頷き石田の隣にちょこんと座った。
村越自身食べていなかったのか、黙々と食べていく。
「…石田さんは、変わらないですね」
「………何?」
「私の事…知ったのに、あなたは変わらない」
籠の中の握り飯を口に運びながら、村越はぽつりぽつりと話す。石田は無表情のまま、ちらと村越を見下ろし、だがすぐに前に視線を戻した。
「…貴様は変わると、そう思ったのか?」
「う…まぁ、はい…」
「…あの女もそうだったのか?」
「あの女…?…あ、いやっ、…黎凪は…全然…」
「ならばそんな固定概念は捨てることだ。当人が変わらんものを、なぜ私が変わらねばならん」
「…。石田さんは、強いんですね」
「……は?」
「…羨ましいです」
村越はそう呟くと、自嘲気味な笑みを浮かべて押し黙った。
石田は指に残った米粒を舐め取り立ち上がった。

「羨ましがる暇があるならば強くなれ」

「!」
「貴様は慰めが欲しいのか?あの話を私にしておいて、今更貴様は求めていないはずだ。…落ち込む暇があるなら乗り越えろ」
「…、そう…ですね」
「……そういえば。貴様、これからどうするつもりだ?」
「どうするつもり…といいますと…?」
石田は刀を胸元で持ち、村越を見下ろす。
「あの女に預かると言った以上、預かりはする。だが貴様、毛利との交渉の場についてくるつもりか?」
「…どうするべきでしょうか?」
「何?」
「私は預かられている身です。だから、石田さんの言う事に従います。ここに…えっと、大阪城?に残った方がいいなら、残ります。ついていった方がいいなら、ついていきます」
真っ直ぐ迷いなく、それが当たり前だとでも言いたげな村越の視線に石田は僅かに驚いたが、それもそうだと納得し少しの間考えた。
「…。…残しても面倒だ、ついてこい」
「!はい、分かりました!」
村越は石田の言葉に僅かばかり表情を明るくして頷いた。
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