スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

もうお前を離さない166

「しょーもないプライドーなんてごみのっひっにっすてってー」
「…宮野様?」
「あぁ、すいませんなんでしょう?」
「す、すいませぬ。今のは…歌、でございますか」
「あ、はい。そうです」
炊事場で昼餉の支度をしていた時の事だ。宮野は口ずさんでいた歌を止め、苦笑した。
「気が付いたら歌っているんですよね。くせみたいな感じで」
「その歌がお好きなのですか?」
「一番じゃないんですけど、好きな曲の中で歌いやすくて。一番好きな曲は歌詞が曖昧で、二番目に好きな曲はちょっと暗いんですよ」
宮野はたんたんとリズミカルに玉葱を切り刻み、それを沸騰した鍋に放り込んだ。ほぅ、と宮野に話し掛けた兵士は声を上げ、納得したように頷いた。
「そうなのでございまするか…一番目と二番目、いつか聞いてみたいものですな」
「宮野様は、歌がお上手でござりまする!」
「そうですか?ありがとうございます」
「宮野様の事をよく思っていない者がおるようですが…何かあったらすぐ我らに言ってくだされ!力になりまする!!」
「!…ありがとうございます、ではすぐ言わせてもらいますね、ふふっ」
わいわいと意外にも楽しげな雰囲気だ。猿飛の言う通り、仲はいいらしい。
宮野は玉葱を放り込んだ鍋の中を掻き回した。どうやら味噌汁を作っているようだ、玉葱以外に青菜や油揚げが鍋の中に漂っていた。
「某、玉葱の味噌汁は初めてでござりまする…!」
「玉葱…。茹でるとはいえ、辛そうでござるな…」
「そんな事ないですよ!玉葱は火を通すとその分甘くなるから辛くないんです。茹でると甘くなります」
「なんと!そうなのでござりまするか!」
「昔課題で実験してみたんですけど、焼くのが一番早く甘くなりますね」
鍋を火から下ろし味噌を溶かす。溶かしながら、宮野は小さくため息を吐いた。
「幸村大丈夫かなー…」



 その頃真田は。
「…真田の大将?」
「む、なんだ?」
「いや、黙り込んでるからどうしたのかと思ってさ」
「…某とて考え込む時があるのだ」
「何をそんな深刻に考えてんのさ?」
真田達は休憩の為林の中に留まっていた。真田は1人石に腰掛け、ぼんやりと前を見ていた。それを見兼ねた猿飛が声をかけたところだった。
真田は猿飛の言葉にふぅと小さく息を吐きだす。
「…大した事ではない…嫌な予感がしているだけなのだ」
「嫌な予感?」
「うむ…」
「…それは宇都宮攻めに関してか?」
「そうだ」
真田は再び息を吐きだすと立ち上がり、傍らの猿飛を振り返った。猿飛はじ、と真田を見る。真田もしばらく猿飛を見返していたが、ふいと視線を外した。
「気の迷いであればよいのだが」
「…そういやあの子、宇都宮は氷属性だとかなんとか言ってたね」
「属性云々はよう分からぬが、…氷と分類するからには、某は炎という事になるのであろうな」
「…炎と氷は、相性よくないな。炎は氷を解かすけど、氷の元の水は炎を消す…」
猿飛の言葉に真田は頷き、手元の槍を見下ろした。ぼぅ、と槍先にかすかな炎が灯る。
「…勢いが勝る方が勝つ、という事になりそうだな」
「そういう意味じゃ、大将に適う野郎はあんまいなそうだけどねぇ」
「…負けられぬ」
真田はぎゅう、と槍を握り締め、目を閉じた。
猿飛はそんな真田をじ、と見つめた後、目を伏せ、黒い影を散らして姿を消した。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2011年06月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30