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もうお前を離さない168

「千!両!花火ぃぃぃぃぃ!!」
真田の槍が、炎を噴いた。

翌日早朝。宇都宮領に進撃を開始した武田軍の後方に、真田の姿があった。後方にいたのだが、乱入してきた虎と相対していたのだ。
槍の一本が虎に突き刺さる。幸村はその槍を横になぎ、肉を抉る。
虎の咆哮が響き渡り、真田は宙で一回転した後、離れた所に着した。
「うおぉぉぉぉぉ!」
真田は高く跳躍すると虎に向かって槍を振り下ろした。大口を開けた虎の歯茎に刺さった槍を再びなぐ。勢い良く吹き出した血が真田の顔に掛かり、真田は咄嗟に虎を蹴り距離を取った。
「く…っ!」
血を拭う間もなく迫ってきた虎に、真田は咄嗟にその下に潜り込んだ。頭の上で槍を構え、ぐっと力を込める。
「火焔車ァ!!」
真田は虎を吹き飛ばした。飛んだ先で虎はぴくりとも動かなくなった。
「っ、はぁっ、はぁ…っ」
真田は拳で顔の血を拭った。染みる目を無理に開き、辺りの様子を伺う。
「ゆっ、幸村様ぁぁ?!」
「返り血でござる!心配は無用…っ。他の隊に虎は?!」
「一番隊と三番隊から報告が来ておりまする!」
「くっ…。…佐助!!」
「はいはいっと!」
空に影がさしたと同時に、猿飛が真田の隣に着地した。真田は鉢巻を外し目元だけを拭うと、猿飛を振り返った。
「このままではキリがない。実際やってみて分かったがあの虎、容易には倒せぬ。宇都宮の元へ直接向かう!!」
「幸村様!馬鹿な事を申さないでくだされ!」
「馬鹿は承知、されどこれでも考えておりまする!!!!」
真田の怒鳴り声に止めを入れた家臣は黙る。真田は家臣を睨むように見た。槍を持つ手はかすかに震えている。
「虎に食われて死ぬなど、そのような不名誉な死を、武田の誰にもさせたくはありもうさぬ!虎を止めるには飼い主に止めさせるしかない!」
「幸村様!貴方は大将なのですぞ!!」
「そうでござる!大将だからこそっ味方の兵の誰にも、斯様な死に方をさせる訳にはいかぬのでござる!!」
「っ…」
「…。佐助、…頼む」
「…はいよっ!」
猿飛はにっ、と笑うと真田の右手を掴み、跳躍すると烏のように黒い自分の愛鳥に掴まり空を飛びはじめた。
真田は猿飛を見上げる。
「…佐助は反対しないのだな」
「んー?反対してほしかったわけ?」
「そ、そんな事はない!…お前なら反対すると思っていただけだ」
「そりゃまぁー、大将なんだよ?って事は言いたいけど、大将だという立場を理解した上での判断ならいいやって思ったんだよ」
「…佐助」
「いやーしかし思った以上に濃い霧だよね。門の灯りと黎凪ちゃんの陣図だけが頼りだよ」
「…佐助。………、ありがとう」
「…はっ?え…はいっ?」
「む…あそこだな」
「…真田の大将。ヤバくなったらすぐ言えよ?」
「承知!」
真田はそう応えると猿飛の手を離し、霧の中に落ちていった。

 「あの武田軍とはいえ、この霧の迷いを突破できはしない!」
「宇都宮広綱殿とお見受けする!」
「…………………ん?」
本陣にいた宇都宮は空から聞こえた声に上を見上げた。
と、宇都宮から少し離れた場所に、真田が勢い良く着地した。
「某、武田軍が大将真田幸村と申す者!!いざ尋常に、勝負!!」
「なっ…?!」
真田は宇都宮が戸惑っている間に地面を蹴り、宇都宮に迫った。
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