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もうお前を離さない154

「三成さ…まっ?!!」
「……っあ」
「来い」
石田は釜炊きの中に乱入すると、握り飯を作るのを手伝っていた村越の腕を掴み、半ば無理矢理に連れ出した。
ざわ、と釜炊き場にいた兵達が何事だと騒めいたが、石田は気にせずに村越を引っ張る。
陣営から離れた所で立ち止まると、村越は戸惑ったように石田を見上げた。
「あ、あの…?」
「………………」
「……………?」
連れ出したはいいものの、話す事を考えていなかった石田は何も言えず黙ってしまう。
「…、あの…失礼な事を、尋ねてもいいですか」
「な、……なんだ」
だから、突然村越がそう言ったので、驚き舌を噛みそうになってしまったのだった。
なんとか了承の意を返すと、村越はじ、と石田を見た。その目は僅かに迷っている。
「石田さんは…泣かないんですか?」
「…………………。は?」
質問の意味が分からず、間が空いてから石田は思ったままの声を出せた。村越は目を逸らさず石田を見ている。
「ずっと…泣きそうな顔してますよ」
「…?!…ッ戯れるな」
「戯れ…?でも、」
「ッふざけるなっ!!」
ぱぁん、と派手に音が響く。
伸ばされた手が目元に触れ、石田は咄嗟にそれを叩き払っていた。村越は驚いたように叩かれた手を押さえている。
石田は気まずい空気に目を逸らし、ぼそりと謝った。
「……すまん」
「…ッ泣いたっていいんですよ」
「っ貴様まだ言うか」
「誰も責めたり怒ったりしません!」
突然村越が激昂した。石田は驚いて村越を見た。そして―更に驚いた。
「…何故貴様が泣く」
村越は――泣いていた。
だがそれを指摘すると、すぐにぶんぶんと勢い良く頭を横に振った。
「…ぅ…な、泣いてませんっ!」
「ならばそれはなんだ」
「汗です!」
「…貴様は目から汗が出るのか」
「そうですよっ!」
「…馬鹿か貴様は」
「…ぅ…すみませんねっ」
村越はごしごしと目元を拭い、石田を見上げた。
「貴方は本当は…悲しみたいんじゃないんですかって…聞きたかったんですっ」
「…悲しみたいだと?…涙はとうの昔に枯れ果てた」
「…っ」
「あの日私は殺されたのだ。私の中には家康への憎悪しかない。…悲しみなど…もう残っていない」
「………。そう…ですか。……あの、石田さん」
「なんだ」
「答えてくださって、ありがとうございます。でも、あの…私に何の用だったんですか?」
「………………。刑部が」
「大谷さんが?」
「分からぬのなら話してみろと」
「はっ?」
村越はきょとりとして石田をまじまじと見た後、小さく笑った。村越が笑う所を初めてみた石田は、わずかに目を細める。
「分からない…っていうのは、私を拾った理由ですか?」
「そうだ。そして、よく似ているとも言われた」
「似ているっ?私と石田さんが?」
「…刑部が、貴様は裏切られたのだろうと」
「…っ」
「そしてそれが貴様に起因していたのだろうと、言っていた。…そうなのか」
「……、誰にも…話すつもりはなかったんですけど。…世話になっている以上…貴方に隠し事はできませんね」
石田の言葉を黙って聞いていた村越は哀しげに笑いながら、一旦俯き、そして石田を見上げた。
「…お話します。でも、その代わり…他の人には言わないでください」
「……いいだろう」
村越は小さく息を吸い込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
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