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もうお前を離さない155

「あったあった」
から、と兜割りが音を立てる。宮野は落ちていた兜割りを拾い上げ、ふぅと安堵の息を吐いた。
この兜割り、実は伊達龍也からの貰い物だった。鞘と柄に、黒地に赤い雲の模様が描かれている兜割り。
宮野は兜割りを眺めて小さく笑う。
「やっぱり、これじゃないと落ち着かないな」
くるくると手の中で兜割りを回し、ちん、と音を立てて兜割りを鞘に納めた。
「さて。幸村の方はどうなったかな」
宮野は脇差の代わりに腰紐に兜割りを挟み、本陣の方へ小走りに帰っていた。
「…………………」
その様子をじっと見ていた忍が、ひゅっと小さく音を立てて姿を消した。

 「手当てがまだ済んでおらぬ者はおられませぬかーっ」
「あれ、幸村?」
「おぉ、見つかったか?」
「見つかった、けど…あれ、もう軍議終わったの?」
軍議をしていたはずの真田が、陣営を回りながらそんな風に声をかけて歩いて回っていた。
真田は宮野の姿を見ると、にこりと笑った。
「先ほどな」
「早いね…」
「異論が出なかった故」
「あっ、なるほど。…よかったじゃん幸村!反対する人がいなかったって事でしょ?」
「うむ!」
真田は宮野の言葉に照れくさそうに笑った。宮野も自然と笑みを浮かべ、真田の背をぽすぽすと叩く。
「そう…それで、宇都宮を攻め入る前にせねばならぬ事もある故、城を発つのは五日後になった」
「五日…そっか。伊達の強襲で、死者はいなくても怪我人はたくさん出たしね…」
宮野はそう小さく呟いて辺りを見る。陣営はまだ血生臭く、辺りには包帯を巻いた兵が何人もいる。
「あぁ…。黎凪も、腕はもう大丈夫か?」
「うん、大丈夫。痺れてただけだから」
宮野は真田の問いに、ひらひらと腕を振り、そして小さく息をついた。
「しっかし…命をかけた勝負が好きな人の気持ち分かんない。何がいいんだか…」
「心が熱く燃えたぎるのだ!」
「私は緊張と恐怖でそれどこじゃなかったよ…。最早無心」
「むぅ。それは初めてであったからではないのか?」
「…多分男と女の違いもあると思う、うん」
「そういうものか?」
「多分ね」
2人は並んで歩く。真田は怪我人を見つける度に声をかけ、労いの言葉を口にしていた。
「宇都宮攻めの時は城に残り、養生してくだされ」
「し、しかし…っ」
「腕は武士の命でござる!無理をすれば動かせなくなるやもしれませぬ…それゆえ、どうかお頼み申す」
「!!あ、頭をお上げくだされ!分かり申した、残りまする!」
といった具合に、説得している、ともいえなくもない。宮野は苦笑しながらそんな真田の後ろを歩いていった。
「…幸村ぁ」
「なんだ?」
「幸村こそ、体大丈夫なの?」
「…大丈夫だ」
「何その間。…そういえばHell dragon食らってたよね」
「……………………」
ぴたりっ、と一瞬真田の動きが止まる。
2人の間に沈黙が流れた。周りもしんと静かになる。
「…Go to bed」
「…、は?」
「アンタが万全じゃなきゃ意味ないでしょぉがぁぁぁぁ!!ほらさっさと、寝る!!」
「ぬおぉっ離せ黎凪っ!」
宮野はがしっ、と真田の両腕をわしづかみ、ずるずると引きずった。真田は肘を掴まれているために腕をうまいこと振りほどけず、ずるずると引きずられていった。
「ダメ!!ほっといたら絶対休まないから!!あーもう佐助さんも大変だなぁっ!!!!」
宮野ははぁ、と深いため息をついて真田を引きずった。
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