2011-6-4 14:36
「あったあった」
から、と兜割りが音を立てる。宮野は落ちていた兜割りを拾い上げ、ふぅと安堵の息を吐いた。
この兜割り、実は伊達龍也からの貰い物だった。鞘と柄に、黒地に赤い雲の模様が描かれている兜割り。
宮野は兜割りを眺めて小さく笑う。
「やっぱり、これじゃないと落ち着かないな」
くるくると手の中で兜割りを回し、ちん、と音を立てて兜割りを鞘に納めた。
「さて。幸村の方はどうなったかな」
宮野は脇差の代わりに腰紐に兜割りを挟み、本陣の方へ小走りに帰っていた。
「…………………」
その様子をじっと見ていた忍が、ひゅっと小さく音を立てて姿を消した。
「手当てがまだ済んでおらぬ者はおられませぬかーっ」
「あれ、幸村?」
「おぉ、見つかったか?」
「見つかった、けど…あれ、もう軍議終わったの?」
軍議をしていたはずの真田が、陣営を回りながらそんな風に声をかけて歩いて回っていた。
真田は宮野の姿を見ると、にこりと笑った。
「先ほどな」
「早いね…」
「異論が出なかった故」
「あっ、なるほど。…よかったじゃん幸村!反対する人がいなかったって事でしょ?」
「うむ!」
真田は宮野の言葉に照れくさそうに笑った。宮野も自然と笑みを浮かべ、真田の背をぽすぽすと叩く。
「そう…それで、宇都宮を攻め入る前にせねばならぬ事もある故、城を発つのは五日後になった」
「五日…そっか。伊達の強襲で、死者はいなくても怪我人はたくさん出たしね…」
宮野はそう小さく呟いて辺りを見る。陣営はまだ血生臭く、辺りには包帯を巻いた兵が何人もいる。
「あぁ…。黎凪も、腕はもう大丈夫か?」
「うん、大丈夫。痺れてただけだから」
宮野は真田の問いに、ひらひらと腕を振り、そして小さく息をついた。
「しっかし…命をかけた勝負が好きな人の気持ち分かんない。何がいいんだか…」
「心が熱く燃えたぎるのだ!」
「私は緊張と恐怖でそれどこじゃなかったよ…。最早無心」
「むぅ。それは初めてであったからではないのか?」
「…多分男と女の違いもあると思う、うん」
「そういうものか?」
「多分ね」
2人は並んで歩く。真田は怪我人を見つける度に声をかけ、労いの言葉を口にしていた。
「宇都宮攻めの時は城に残り、養生してくだされ」
「し、しかし…っ」
「腕は武士の命でござる!無理をすれば動かせなくなるやもしれませぬ…それゆえ、どうかお頼み申す」
「!!あ、頭をお上げくだされ!分かり申した、残りまする!」
といった具合に、説得している、ともいえなくもない。宮野は苦笑しながらそんな真田の後ろを歩いていった。
「…幸村ぁ」
「なんだ?」
「幸村こそ、体大丈夫なの?」
「…大丈夫だ」
「何その間。…そういえばHell dragon食らってたよね」
「……………………」
ぴたりっ、と一瞬真田の動きが止まる。
2人の間に沈黙が流れた。周りもしんと静かになる。
「…Go to bed」
「…、は?」
「アンタが万全じゃなきゃ意味ないでしょぉがぁぁぁぁ!!ほらさっさと、寝る!!」
「ぬおぉっ離せ黎凪っ!」
宮野はがしっ、と真田の両腕をわしづかみ、ずるずると引きずった。真田は肘を掴まれているために腕をうまいこと振りほどけず、ずるずると引きずられていった。
「ダメ!!ほっといたら絶対休まないから!!あーもう佐助さんも大変だなぁっ!!!!」
宮野ははぁ、と深いため息をついて真田を引きずった。