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もうお前を離さない171

「…せめて貴方には…恩返しをしたい、だから…どうか死なないでください…」
村越は祈るように小さくそう呟いた。



 「紅蓮脚ッ!!」
真田は槍を地面に突き刺しそれを中心にぐるぐると体を回した。放たれた炎が霧を払う。その中に宇都宮の姿を認め、真田は強く地面を蹴り上がると宇都宮に斬り掛かった。
「んぎ…ッ」
全体重をかけた攻撃に、宇都宮の腕がぷるぷると震えた。
「…ッはっ!」
そのまま力を込めようとした真田だったが、霧の中から虎が飛び出し、それを避ける為に咄嗟に宇都宮の上から離れた。
「くっ…また虎か…ッ」
真田は着地した場所で右腕の上腕を手で押さえた。少し前にも同じように虎が飛び出し、牙がかすって出血していたのだ。
真田は鉢巻きを外すとそれを傷口に巻き付け、歯できつく縛った。
「実は俺、寒がりなんだよ」
「…。某に言われても困りまする」
突然の宇都宮の言葉に、真田は馬鹿の子という宮野の言葉を思い出し、僅かばかり納得してしまった。
真田はふるふると頭を振ると地面を蹴りあがった。飛び掛かってきた虎の脳天に槍を突き刺し、勢い良く振り払った。
「…ッ」
勢い良く吹き出した血に怯んだ宇都宮に、真田は虎の亡骸を蹴りその距離を縮めると宇都宮に飛び掛かった。
「ッ、!」
「貴殿の負けにござる」
真田は宇都宮を押し倒し、腹の上に座って両足で両腕を踏みつけて動きを止めた。片方の槍で宇都宮の槍を地面に縫い付け、もう片方は宇都宮の首に突き付けた。
「…ッ…」
宇都宮の首を、冷や汗がつたう。宇都宮はしばしそのまま固まった後、静かに槍から手を離した。


 「真田の大将!!」
「佐助」
霧が晴れ、虎が飼い主である宇都宮に集まってきた頃、猿飛が真田の隣に着地した。猿飛の顔が僅かに青ざめているのを見て、真田は首を傾げた。
「真田の大将、なんだよその腕!」
「腕…?…ぬおぉぅ?!」
真田の鉢巻きを巻いた部分がガチガチに固まっていたのだ。真田は慌てて解こうとするが離れない。
「な、なんなのだぁぁっ?!」
「…血か?これ…なんでこんな固まってんのさ?!」
「湯!湯をかければ溶けるだろう?!どなたかぁぁぁぁ湯ぉぉぉ!」
「落ち着いて真田の大将!!」
「…アイツ等馬鹿か…?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人に、虎に囲まれた宇都宮は呆れたように呟いた。宇都宮は虎の耳の裏を掻く。
「宇都宮広綱殿」
「………………」
「貴殿には、共に上田に来ていただきたい」
真田は固まった血の部分を手で抑えながら、宇都宮の前に立ってそう告げた。宇都宮は目線だけを上げ真田に向けた。
「…何の為に?俺の処分についてか?」
「それもありまする」
「…それも…?」
「…佐助」
「はいはいっと。じゃ、ちょいと失礼しますよ」
「………………」
宇都宮は大人しく後ろ手に縛られながら、不思議そうに背を向けた真田を見ていた。



 「…ん、うまい」
宮野はじゃがいもを口に放り込み、小さくそう呟いた。炊事場には宮野しかいない。
その宮野に近づく影があった。
「―――――ッ?!」
ぞわり、と肌が騒めき、宮野は咄嗟に手元の包丁をそちらに向けて投げた。烏の羽根のような、黒い羽根が飛び散る。
「?!」
膨れ上がった殺気に宮野は壁を背に振り返った。炊事場には誰もいない。
「なんだ…?!」
宮野が小さく呟いた時、すぐ横で風が吹いた。
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