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もうお前を離さない153

「…佐竹は政宗殿の領地の近く…確たる話は聞いておらぬが、恐らくもう、政宗殿が倒されたはず。そして…上杉殿は東軍につく事はない、と」
「なるほど。…いいんじゃない?」
「!そ、そうか?」
「佐竹が本当に伊達に倒されたのか、は確認する必要があるとは思う。上杉謙信公は武田信玄公の好敵手、いくらなんでも幸村の留守に攻め入るような卑怯な人じゃない。軍神の名が廃る。だから上杉が東軍につかない…っていうのはまぁちょっと突発的だけど、ちゃんとそういう考えた上でなら、いいと思うよ」
「……黎凪は…少し慣れておるな」
「班長とか委員長とか、ちっちゃーい組織の上ならよくやってたからね。じゃんけん弱いんだ、私」
「そ、そうか」
宮野はふふ、と笑うと立ち上がった。
「じゃあ私、日が暮れちゃう前に落とした兜割り探してくるから」
「…うむ」
宮野と真田は、そこで一旦別れた。



 その頃石田軍は。
「刑部」
「如何にした三成?」
「…あの女どこへ行った?」
石田はキョロキョロと辺りを見渡している。
日が暮れる前の休憩のようだ。大谷はくっくと肩を揺らす。
「村越ならば釜炊き当番の所におったが?」
「…そうか」
「…三成、気になるならば行けばよかろ、恐らくあちらからは参らぬであろうからなァ…」
「なっ?!気になるなど…ッ」
「今一度話してみてはどうなのだ?」
刀を持つ手をぷるぷるとふるわせながら石田は大谷をぎろりと睨んだ。慣れている大谷は気にも止めずに傍らの数珠を持ち上げる。
「三成、主はどうしたいのだ。分からぬという答えは許さぬぞ」
「………あの女が妙に気になるのは事実だ。だが何故気になるのかが分からない」
石田ははぁと息を吐き出して、大谷の隣に座った。大谷も輿を下に下ろす。
石田は刀を抱えるように、自分の体に立て掛けた。
「宮野とかいう女子が申しておった事はどうなのだ?」
「…家康に例えていた奴か」
「そうそう、それよそれ」
「……分からない事もない、といった所だ」
「ほぅ」
2人の傍には誰もいない。静かな、そして僅かに冷たい風が石田の刀の紐を揺らした。
石田はがり、と親指を噛んだ。
「…だがそうすると解せない。あの女、何がそんなに許せないというのだ?!」
「……………」
がんっ、と地面に叩きつけた刀が音を立てる。石田は苛立ったように右の拳を思い切り額に叩きつけた。
「その上、あの女は自分が何かを奪ったような物言いをする!奪われたのならばまだ分かるっ!!だがあの女は…ッ!!」
「……あぁ…」
「っなんだ刑部その間抜けた声は!!」
「…主ら…似ておるなァ……」
「…は?」
激昂していた石田は一変、間の抜けた表情になる。刀が手から離れ、がしゃんと音を立てた。
「…あの女子、おそらく…、裏切られたのであろ」
「…!」
「その裏切りが、己に起因していた、さしずめそんな所であろ。故に、己が許せぬのであろ…主のようにな」
「………………」
「似た者同士…故に気に掛かったのであろ」
「………。…、」
石田は黙って刀を拾い上げると、先と同じように体に立て掛け、しばらく考えこむように刀を押し上げたり下げたりしていたが、不意に腰を上げた。
「……行くのか?」
「…………、あぁ」
石田は静かにそう言うと、くるりと大谷に背を向け足早に釜炊き場に向かっていった。
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