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もしこの道を進めたなら24

「……これはあいつを追い詰めたなぁ………」
「?どうした?」
「いいや、何でもないよ」
「……何でィ、なんかあったのか?」
元親はそう言って首をかしげた。家康は誤魔化すように明るく、にやっ、と笑う。
「いや、ワシがそこまで信頼されてるとは思ってなくてな!」
「!はっは、何でぇそりゃ!」
元親は家康の言葉にわずかに目を丸くし、ぶっ、と吹き出すとケラケラと笑った。
そんな元親に、疑り深い男でなくてよかった、と家康は密かにそう思った。勘のいい、人を疑う者だったら、家康の演技にもすぐ気付いていただろう。
ひとしきり笑い終わった元親は家康の顔を覗き込む。
「にしたって、どうしてそんなもしもを?アンタらしくもねぇもしもじゃねぇか」
「ん?んん…ちょっと三成と昔話に花を咲かせていて、裏切りの話になってな。豊臣時代にちょっとあったんだ」
「ははっ、まァこういう言い方よくねぇのかもしれねぇが、豊臣はそういうもん多くても不思議じゃねぇからなぁ」
「………秀吉公も半兵衛殿も、何か急ぐように進められていたからな…今ならその理由は分かるが…」
「へぇ?まっ、どんな理由があれ、俺は納得できねぇけどな」
「………そうだな」
元親の言葉を聞きながら、家康はす、と目を細めた。

ー奴の犯した罪を、なぜ誰も咎めない!?

戦の最中、三成がそう言っていたと、誰かが酒の席で口していたのを不意に思い出した。
誰もにとって、家康の裏切りは罪ではなかった。それを間違いだ、卑怯だと罵るものはいなかった。だからこそ、元西軍の者でもそう嘆く三成を、笑っていたのだ。

ーよっぽどその友って野郎が最低な野郎だったんだろうな、とは思うな

「……………」
元親の言葉が頭の中で反響し、家康は苦しげに目を伏せる。
「………三成……………」
家康の小さな呟き声は、街の人々の雑踏に飲まれ、隣の元親の耳にも届くことはなかった。


 「じゃあな!また近いうちに三河に邪魔させてもらうぜ!」
「あぁ、またな!」
家康に会うという目的を達成した元親は、食料を調達すると四国へと帰っていった。家康は港でその元親の一行を見送った。
船が見えなくなったところで、振っていた腕を下ろす。空を見れば、夕焼けに赤く染まっていた。
「……、帰るか」
家康はぽつりとそう呟くと、踵を返した。
人もまばらになった道を、大阪城に向けてとことこと家康は歩き出した。
「…本当なら、ワシは卑怯だと罵られても当然のことをした…だが」
だが、自分の今までの行いと豊臣の行いを見る周りの目が、それを卑怯だと見なかった。
豊臣は裏切られて当然だと見られ、家康の裏切りは正当な行為だと見られた。
三成にとって、これほど屈辱的なことはなかっただろう。
「…ワシは三成と同じ土俵には、立っていなかったんだなぁ……」
家康は寂しげにそう呟いた。

どれだけ三成に絶望を与えたのだろう。自分が三成を説得できないと諦め、目を逸らしていた間、三成はどれだけ苦しんでいたのだろう。
誰にも主君を裏切られた苦しみを理解してもらえず、それどころか当然だと冷たい目で見られる。

「………、………」
「何をぼんやりとしている、家康」
思わず立ち止まってしまった家康の後ろから、三成の声がした。
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