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もしこの道を進めたなら16

「…今でも時々思うよ。あの時ワシが説得出来ていれば、少なくとも……刑部を死なせることはなかったんじゃないかって」
「…それは、本当に後悔だな」
政宗の言葉に家康は困ったように笑い、どうしようもないけどな、と言った。
政宗はふぅ、と煙を吐き出した。
「…だが正直、自分の事だが諦めた事を責める気にもなれないな……」
「Ah?」
「ワシだって完璧なわけじゃない。…三成と敵同士になるなんて、考えたくもないよ」
「!」
政宗ははっとしたように家康を見た。家康は寂しそうな笑みを浮かべている。
家康のそのような表情は、あまり見たことがなかった気がする。
隠していたのだろうか。
「…あいつはそんな素振り見せなかったぜ」
「そうだろうな。決めたからにはそんな事を言うわけにはいかないだろう?」
「まぁ、そりゃそうだろうけどよ」
「…ワシに会ってみたいな……どんな気持ちだったのか、純粋に聞きたい」
「いくらあんたでも、言わねぇと思うぜ」
「…言わないんじゃなくて、言えない。……そう思ってるだろ?」
「……………」

分かってるなら言うんじゃねぇよ。
政宗は心の中で小さくそう呟いた。



 「…」
それから少しして、夕餉を終えた家康は縁側で空を見上げていた。天気が良い空には、ほとんどが欠けた、逆三日月型の月が輝いている。
忠勝はそんな家康の斜め後ろに座っている。
「…なぁ、忠勝」
「…!」
「ワシは、な。多分、三成とは戦いたくなかったんだ」
ぽつり、と家康の口からそんな言葉が漏れた。忠勝はしゅー、と音を立てただけで、家康の言葉を待つ。
家康はふふっ、と小さく笑った。
「おかしな話だろう?秀吉公と戦うと決めたのに、三成とは戦いたくないなんて。……でもそんな気がするんだ。今日、あの日の前までの三成と同じ三成を見て、な」
「…………………」
「あの戦の間、ずっと何かモヤモヤとしていた。それが何なのか、今でも分からない。三成のいう、ワシが無くしたものに、それは関係あるのかもしれないな…」
「…………!」
家康はごろん、と縁側に横になった。風は薄ら寒いが、普段より低い位置にいる分気にはならなかった。
「服も着ずに何をしている、家康!」
「!三成、」
ちょうどそこへ、着流しに着替えたらしい、ラフな格好の三成が姿を見せた。それでも刀は手放さないらしい、腰紐に引っ下げている。
三成は持っていた盆を縁側に置き、そのとなりに座った。どうやら長居するようだ、と判断した家康はのっそりと体を起こした。
「その見苦しい上半身を何とかしろ」
「見苦しいまで言わなくてもいいだろー?」
「見苦しいから見苦しいと言った迄だ」
「分かったよ」
家康はしぶしぶと部屋に落ちていた薄手の羽織を羽織った。三成はどうやら晩酌をしにきたらしい、盆の上には盃が2つ乗っていた。
「真田が土産によこした。付き合え」
「真田が?まぁ、お前酒に強いくせに好きじゃないからなぁ」
「御託はいい、さっさと飲め」
「っと、と」
放るように渡された盃を慌てて受け取り、家康は苦笑しながらそれに口をつけた。
こうして落ち着いて静かに酒を飲むのは、ひどく久しぶりのような気がした。酒を飲むといえば、近頃は宴会の時だけだった。
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