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もしこの道を進めたなら18

「………自分の言うことが綺麗事だという自覚でもあるのか?」
「…綺麗事だとまでは思ってないさ。理想論と言われても仕方が無いとは思ってる」
「そう貴様を揶揄する者がいなかったとでも言うのか?」
「言っただろう?面と向かって言ったのはお前くらいだって」
「……影で言う者はいる、ということか?」
三成の顔が不愉快げに歪む。
そんな三成の表情に、家康はまた、寂しげに笑う。
「そう言ってそんな顔をするのもお前くらいだ、ははは」
「馬鹿にしているのか貴様!!」
ちゃき、と小さな音がした。くすくすと笑いながらそちらに視線をやれば、三成が腰元で刀を構えていた。
家康はむくりと起き上がり、降参と言わんばかりに両手を上にあげた。
「そんなんじゃないよ。皆お前のように本音を言えるような、強さというか図太さというか…そういうのを持ち合わせてはいないってことだ」
「……?何が言いたい。言いたいことは簡潔明瞭に述べろ」
「もうワシには、そうずけずけ言ってくれる人間がいないってことだよ」
家康はぽつり、とそう言った。三成はなんとなく納得したように刀を下げたが、すぐに怪訝そうに首をかしげた。

「何故それが悲しい」

「えっ?」
家康は予想していなかった三成の言葉に驚いたように三成を振り返った。三成は冷奴用の箸をビシ、と家康に突き付ける。
「自分がどんな面をしているのか分からないのか?その情けない面はなんだ」
「…悲しい……のか?」
「私にはそう見えるが」
家康はぱちぱちと瞬きをした後、自分の顔に手を当て、ふいに吹き出した。
三成は声をあげて笑う家康にあっけに取られたように家康を見た。近くにいる忠勝も困惑していろんな音を立てている。
「…気が狂ったか」
「はは、はははっ……」
「……何故泣く」

家康は笑いながらぽろぽろと涙をこぼしていた。忠勝はさらに困惑したか、さらに色々な音を立てる。
三成は刀を傍らに置き、家康の隣に座り直した。
「家康」
「は、は…ぁ、う…っ。ワシ、は……っ」
「…無理に話すな。どうせ夜は長い、嗚咽混じりの訳のわからない言葉を解読するくらいなら貴様が泣き止むのを待つ」
「………ぅ…………あ、ぁ…………」
家康は両手で顔を覆い、うずくまるように体を丸めた。三成はその隣で、話かけることもなくただ盃をあおった。忠勝は慌てたように二人を見たが、三成に任せることにしたのか、黙ってその場に待機した。


 「…………すまん」
「構わん。だが待ってる間に飲みすぎた、早くしろ」
家康はぐい、と目もとを拭ってそう言った。三成は家康を見ないまま先を促した。
家康は俯いたまま、小さく笑った。
「…よく分かったよ。ワシは、寂しいんだ」
「…またみっともない事を。貴様には本多がいるだろう。徳川第一の絆だと、豪語していただろう」
「…………お前はまた、別格なんだよ」
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