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もしこの道を進めたなら17

「こうして味を楽しむ余裕がある状態で酒を飲むのは久しぶりだなぁ」
「随分と多忙なようだな」
「ワシ一応、天下人だからな」
「なるほどな」
家康は普段よりも早いペースで盃をあけた。三成は特に止めることはせず、好きに飲ませている。ふぅ、と家康は僅かに赤くなった顔で、三成がつまみにと持ってきた小さく切られた冷奴をひょいと口に放り込む。
「……三成」
「なんだ」
「少し考えてみたんだ。ワシは…多分お前と戦いたくなかったんだと思う」
「…………」
三成は黙って家康に先を促した。家康はふ、と息を吐き出して空を見上げる。空には変わらず月が輝いている。
「…それは後悔ではないのか」
「後悔ではない、と思う…」
「……誰かに明かしたことはあるのか」
「ないよ。だってさっき忠勝に我慢しているように見えると言われて思いついたことだし…話せるような状況でもなかった」
「話せる人間がいなかった…わけではないのか」
家康は三成の言葉にふふ、と笑った。酒の力か、どうにも気分が浮かれているようだ。
「………いるのかもしれないけど、言えねぇなぁ」
「…貴様飲みすぎではないのか」
口調が変わった家康に三成は眉間を寄せ、家康から盃を取り上げようと手を伸ばした。
盃を持つ家康と三成の指が触れる。
家康は大人しく盃を取られながらも、三成の指を触った。
「…あっちではな。ワシは、弱みがあってはいけないんだよ」
「…………」
「だから、口が裂けてもこんな弱気な事はきっと話せない」
「…ある意味当然だ。頂点に君臨するものが弱いことなど許されない」
三成は家康の手を振り払い、盃を盆の上に戻した。家康はごろんとその場で横になり、腕で額を覆うように腕を上にやった。
三成はふん、と鼻を鳴らした。
「秀吉様は決して今の貴様のような腑抜けた姿を見せることはなかった」
「…そうだな」
「それが貴様が屠った秀吉様が持っておられた覚悟の先の姿だ。貴様が否定した秀吉様こそが、今の貴様に必要な指標だ」
「…本気で言っているのか……?」
「私が嘘をつくとでも思うのか?」
家康は三成の言葉にちら、と三成を見て、またふふ、と小さく笑った。

かつて三成に言われた言葉が、思い出された。辛辣な言葉を吐く三成に、家康が忠告した時のことだ。
ーでは心にもない言葉を吐けばいいのか?貴様はそうやって生きるのか?

「…そうだな、お前は心にもない言葉を言える人間じゃあない……」
「………」
「…ワシは別に、そんなつもりで言ったんじゃあなかったんだ……」
「関係のない話を持ち出すな。そして貴様の過去の私と勝手に会話をするな」
即座に家康の事を見抜く三成に家康はどこか楽しそうに笑う。三成はそんな家康に、再びふん、と鼻を鳴らした。
「お前は、なんでそんなワシの事が分かるんだ?」
「…貴様が私に絡んでくるからだろう」
「何故かな、ワシの事を一番見抜いているのは、お前のような気がしてならないんだ」
「知った事か。確かに私は貴様の吐く綺麗事には耳を傾けないがな」
「…ワシの言う事を面と向かって綺麗事と言うのは、お前くらいだよ三成」
三成は家康の言葉にわずかに驚いたように家康を振り返った。
家康はどこか寂しそうに笑っていた。
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