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凶姫と龍人41

「それに、あれはなかなか我輩に似て狡猾な男だよ。田中君に優しくしたのも、彼女を何らかの形で利用しようとしているかもしれないよ?」
「利用だと?!」
憎んでいるという最上の言葉に曖昧な表情を浮かべていた家康だったが、続いた言葉に血相を変えた。名前を訂正するのも忘れている。
最上はやけに神妙な様子で頷いた。
家康は戸惑いながらも、僅かに首をかしげた。
「………なぁ、何故そんなにあいつのことを知ってるんだ?」
「何故?それはだね、家康君」
ー我輩があれの家庭教師だったからだよ



 「幸村が!おらぬぞ!」
「ぎゃああああああ!痛い!」
同じ頃、城では騒ぎになっていた。吉継が官兵衛の背中に飛び降り、官兵衛が悲鳴をあげた。
「いだっ!痛いぞ刑部!」
吉継がぴょんぴょんと飛び回り、官兵衛はその度に悲鳴をあげる。ばぁん!と、扉が派手な音がして開かれた。
「うるっせぇぞ大谷ィ!静かにしやがれ!」
姿を見せたのは小十郎だ。昨日は長曽我部が騒ぎ、疲労が蓄積しているようだ。
「いででで…幸村がいないんだとよ」
「あぁ?真田が?探し損ねてるんじゃねぇのか?」
「我が左様な間違いをすると?」
「……それもそうか」
「……あの子なら、闇色さんと一緒よ………」
市の言葉に三人は驚いたように振り返る。市はずももも、と闇の手に乗って滑るように移動している。
「昨日…闇色さんを待ってて寝ちゃって…闇色さんの荷物に紛れて…一緒に行っちゃったわ…うふふ」
「…何故止めなんだ…」
「ごめんなさい、市も寝ちゃったの、うふふ……」
「そ、そうか…(こいつこんな奴だったか?)」
市は笑いながらくるくると回る。小十郎は曖昧にそう返し、ちら、と吉継に視線を向けた。吉継はむす、とした表情を作る。
「…主、敢えてそうしたのではないか?」
「うふふ、だって…そうした方が…闇色さんが戻ってくる理由になるじゃない…?」
「「「!」」」
三人は市の言葉に目を見開いた。市はうふふ、と楽しそうに笑う。
吉継はやれやれ、とため息をついた。
「…主も意外と賢しきことよな」
「うふふ、そう…?」
「…………しかし、まさか返されてしまうとは…」
小十郎は、何度目とも分からない言葉を呟いた。その言葉に官兵衛は肩を竦め、市は僅かに肩を落とす。
吉継は、ふぅ、とため息をついた。
「主らしくもないことよ。王子が決めたことに、そうぐだぐだと言うとはの」
「なっ!ぐだぐだだと?!」
「あーあーもーもー喧嘩すんな!」
官兵衛はがーっと叫び、小十郎をわふわふと押し倒した。
「ぶへっ!な、何すんだ穴熊ッ!俺が悪ィのか、俺がァ!」
「刑部に上取られてんだから手出せねぇのわかるじゃろうが」
「ヒッヒ、主もよい子よ、ヨイコ」
「おぞましいことを言うんじゃないわっっ」
ぞわぞわっと体を震わせ、官兵衛は小十郎の上から降りた。小十郎は時計の針を直しながら、ふん、と息を吐く。
「…政宗様は、不器用な方なのだ」
「……まぁ元より期待できぬ事であったのだ、今更落ち込みなどせぬわ。王子も王子で、それはそれでよかったのではないかの」
「……テメェの腹のうちは分からねぇな、大谷」
「左様か」
だか、感謝する。
小十郎はそう、ぼそりと呟いた。

凶姫と龍人40

「…半兵衛様?」
「……短い期間だったけど…柔らかくなったね」
「え?」
三成は半兵衛の言葉にきょとん、とした表情を浮かべた。半兵衛は、ふふ、と小さく笑った。
「あのお城に行って、過ごして……君は柔らかくなった。家康君が悪いやつではないと言っていたけど、政宗君とやらも悪い人間ではないみたいだね」
「え、ええ、と……」
半兵衛の言葉に三成の顔が、ぼんっ、と赤くなる。半兵衛はくすくすと声をあげて笑う。
「君はどうなんだい?彼のこと、どう思ってるの?」
「えっ?!わ、私は……うう」
「あはは、顔真っ赤だよ」
「お、お止めくださいっ!」
「好きになっちゃったかな?」
半兵衛は赤くなる三成に、半ば確信を得ながらそう尋ねた。三成の顔はさらに赤くなり、消え入りそうな様子で、だが、小さく頷いた。
半兵衛は、そう、と呟き、優しく三成の頭を撫でた。
「…なら、君が僕を気にせずに行けるよう、僕も早く調子を戻さないとね」
「!半兵衛様、」
「君が僕や秀吉以外を好きになることはなかったから、僕のことは気にせず…と、言いたいところだけど、君はそれじゃ納得しなさそうだからね」
「は、半兵衛様……」
三成は真っ赤な顔のまま、小さく頭を下げた。
「ふふ。じゃあ、いただきます。…おや、これは初めてみるスープだな」
「は、はいっ。あの城の料理長に教えてもらいました」
「……うん、おいしいね」
「なんとぉ!松永殿が普通にお教えなさるとは…」
「なにそれ?」


その頃、家康は森のなかで悶々としていた。忠勝が心配そうに鼻を鳴らし、すりすりと家康に顔をすり寄せる。
「……すまんな、忠勝」
家康はふ、と薄く笑い、ぽんぽんと撫でた。
「…三成はきっと、彼奴が好きになったんだろうな…はは」
家康は力なくそう言うと、小さく頭を垂れた。
「おや?こんなところで会うとは奇遇だね、家康君!」
「!」
そこへ、最上が現れた。そこで家康は、最上と共に城に行った時のことを思い出した。
ー貴公はまだ若いからねぇ
「最上!」
「?!ななな、何かね!」
「お前、この前ここにある城に行った時言っていたよな、ワシはまだ若いから、と」
「うん?そ、そうだねぇ」
「あれはどういう意味なんだ?あの男…伊達について、何か知っているのか?」
「!」
家康が政宗の名を口にすると、最上の顔色が変わった。顔から笑顔が消える。
最上のその様子に、家康も表情を険しくさせた。
「…なぁ、知っているのか」
「…何故貴公があれの名前を知っているのかね?」
「やっぱり知ってるんだな。昨日の夜、三成が帰ってきたんだ。城から出してもらえたらしい」
「!………、そうなのかね」
「なぁ、何を知っているんだ?最上」
最上は家康をちらりと見た後、視線を城がある方へと向けた。
「…随分と、昔の話になるのだがね。そう、彼がまだ、普通の人であった時の事になるねぇ」
「普通の人……?」
「我輩ほどの年の者であれば、大抵あの城のことは知っているよ。城の主の伊達政宗は、それはそれは傲慢な男子でね。それが災いして、魔女に容姿を変えられ、あの城に引きこもるようになった。…ま、村の者が気味悪さに嫌ったのでね」
「そう…だったのか。だが、三成がそんな傲慢な人間に惚れるはずがない、今はきっとそんなことはないんだろう」
「さて、それはどうだろうね」
「え?」
最上の言葉に家康は最上を見た。最上はどこか遠い目をしていて、家康を見ない。
「あの時…あれも我輩に気がついていたようだが、恐らくあれは我輩を、我輩たちを憎んでいるだろうね。…佐藤君を逃がしたのも、気まぐれかもしれないよ」
「石田三成な。…憎んでいる、か……」
家康は最上の言葉に僅かに目を伏せた。

凶姫と龍人39

翌日。
「やぁ、おはよう」
「あらおはよう、家康」
家康が村の者と挨拶を交わしながら通りを歩いていた。そこに、卵やらなにやら買いに来ていた三成が通りかかった。
家康はにこにこと笑みを浮かべ、手をあげる。
「やぁ、三成おはよう!」
「あぁ」
「……………んっ?三成?!」
さらりと挨拶した後三成はいないはずであることを思い出した家康は、数秒固まった後、勢いよく三成を振り返った。
三成は鬱陶しそうに家康を一瞥する。
「朝から喧しいぞ、家康」
「三成!お、お前いつ?!いつ帰ってきたんだ!」
「昨晩だ」
「昨晩?!どうやってあの城から脱出してきたんだ?!」
「脱出?人聞きの悪いことを言うな」
三成はやれやれ、とため息をつき家康に向き直ると、側にあった噴水に座るように促した。
家康は促されるまま噴水の縁に腰を下ろした。
「あの城の主が私を城から出してくれた、ただそれだけのことだ。約束を違え、逃げ出すようなことなどしていない」
「あの男が?…そうか、やっぱりいい男だったんだな!」
「そうだな」
家康はどこか嬉しそうにそう言ったが、間髪入れずに返された三成の言葉にわずかに驚いたように三成を見た。
三成は着ていたマントに手を触れ、薄く笑んだ。家康の顔が僅かに曇り、笑顔も僅かにひきつった。
「…三成、お前こんなマント持ってなかったよな。これは?」
「伊達…あの城の主に貰ったものだ」
「……仲、良くなったのか?」
「あぁ!奴は私と似ている。だからこそ、私を理解してくれた。…伊達は、いい男だ」
そう言った三成の頬は僅かに朱に染まっていて。
家康は笑みを浮かべ、そうか、と相槌を打ちながらも、みしりと音がするほど拳を握りしめた。
「半兵衛様、只今戻りました!」
三成は家康と別れ、早々に家に帰った。ベットの上にいた半兵衛は、三成の声に体を起こした。
「お帰り、三成君」
「おはようございまする、三成殿!」
「今何か作りますので、少しお待ちください」
「うん、ありがとう」
いそいそと台所に向かう半兵衛はふふ、と小さく声をあげて笑う。白湯を持っていっていた幸村は、半兵衛の笑い声に不思議そうに半兵衛を見上げた。
「如何なされた、竹中殿」
「うん?うん…。…ねぇ、幸村君。そちらでの三成君は、どうだった?」
半兵衛の問いに幸村はきょとんとした様子を見せたが、にこっと満面の笑みを浮かべた。
「三成殿でござるか?とてもお優しく、政宗殿を恐れることなく接してくださり、某とても嬉しゅうござりもうした!」
「そう…。君は、三成君が好きかい?」
「すっ?!は、破廉恥なっ!」
「破廉恥?まぁいいや、君は、三成君が来て、どうだった?」
幸村は半兵衛の問いにふたたびきょとんとした様子を見せた後、嬉しそうに笑った。
「某、あの城より出たことがなく、某たちがこのような姿になってから久しく御客人もおらず、寂しゅうござった。されど、長い時の寂しさも、三成殿と過ごした時が遠くへとやってくださりもうした!某も義父上も政宗殿も、皆三成殿を好いておりまするよ!」
「……そう。それは、よかった」
半兵衛は幸村の答えに優しく笑みを浮かべた。
「半兵衛様、お待たせしまし…半兵衛様?」
スープ皿を持って半兵衛の傍らに来た三成は、機嫌のよさそうな半兵衛を見て首をかしげた。

凶姫と龍人38

「よぅ、政宗!いー雰囲気だったじゃねぇか!」
三成と入れ違いに、元親が部屋に入ってきた。政宗の様子に気がついてはいない。
「あいつを帰した」
「帰した?そりゃあいいこった!……って、え?帰したぁ?!」
うきうきとしていた元親は、政宗の言葉にワンテンポ遅れて驚いたように政宗を見た。
政宗は視線を空に向けたまま、薔薇のケースに手を添えた。
「…な、ななな、なんだって帰しちまったんだ。あの姫さんがいなくちゃ、呪いは、」
「分かってんだよ」
「じゃあなんで!」
元親の問いに、政宗はしっかりと視線を元親に向けた。
憂いを含みつつも鋭い光を放つ政宗の目に、元親は言葉をつぐんだ。
「………あいつを…愛しているからだ」



「半兵衛様!」
「…?!三成君…?」
天君を駆けさせた三成は、月が南の空から西の空に傾く頃、家に到達していた。
ばん、と勢いよく開いた扉に、半兵衛は驚いたように振り返った。相当驚いたのか、その体勢の格好のまま固まっている。
三成は顔色は悪いものの、問題はなさそうな半兵衛の姿にほっと息をついた。
「半兵衛様…!石田三成、只今戻りました!」
「…。!三成君、一体どうやって?!」
半兵衛は玄関で頭を下げた三成に漸く我に帰り、慌てて駆け寄った。三成は顔をあげて、どこか楽しそうに笑う。
「伊達が、帰してくれました」
「伊達?…あの男の事かい?」
「はい!伊達政宗という名なのです」
「何故…?」
喜びながらも戸惑いにそう尋ねた半兵衛の問いに、三成は目を伏せた。きゅ、と着ていた蒼いマントを握りしめた。
「……それは、私にも」
「……………そう」
「三成殿ーッ!」
二人の間に僅かな沈黙が流れたとき、不意にそんな大声が三成が肩に掛けていたカバンから響いた。
ぎょっとした二人がカバンを見ると、モゾモゾと布が動いて、ぴょこっ、と幸村が姿を見せた。
「幸村!」
三成は驚いて幸村を手のひらに乗せて視線の位置まで持ち上げた。半兵衛も驚いたように幸村を見る。
幸村はぷるぷると頭を振った後、三成を視界に見つけ満面の笑みを浮かべた。
「三成殿!」
「幸村、どうしてここに!」
「三成殿が帰り支度をしておりました故、気になり待っている間に寝てしまいもうした!」
「君は、確かあの時の…」
「おお!貴殿は確か、竹中半兵衛殿!…ということは、ここは麓の村、ということでござるか?!」
半兵衛の存在に気がついた幸村は、漸く自分が置かれた状況を理解し、ひいぃ、と小さく呟いた。
「義父上に怒られるでござるぅぅ……」
「……、安心しろ、いずれあの城に戻る時に連れていってやる」
「!」
半兵衛は三成の言葉に僅かに目を見開き、だがすぐに、小さく、安心したような笑みを浮かべた。
「そう、三成殿!何故城を出てしまったのでござるか?政宗殿や某達が、嫌いになってしまったのでござるか?」
幸村の不安げな声色に、三成は柔らかく笑みを浮かべて幸村を撫でた。
「いいや、嫌いになどなっていない。私はお前達の事が好きだぞ。城を出たのは、伊達の許しが出たからだ」
「そうなのでござるか?何故?」
「半兵衛様の事を、伊達も案じてくれたということだ。…気がつかなくてすまなかったな、幸村」
「いえ!某は三成殿のお側におることが出来るのも嬉しいでござる!」
「そうか、ありがとう」
三成は、幸村の言葉に嬉し恥ずかしそうに笑った。

凶姫と龍人37

曲も終わり夜も更け、政宗と三成は星の見えるバルコニーへと移動した。僅かに寒く長居には向かないが、空気がすんでるのもあって夜空は綺麗に輝いていた。
「…綺麗な空だ」
バルコニーの手すりに腰掛け、三成はそう呟いた。つられて政宗も空を見上げる。
「ん?あぁ、そうだな。星座は疎いからよく知らねぇけど」
「星座か。冬場には冬の大三角という三角形があるらしいぞ」
「星がありすぎてどれで三角形作るのか分かりゃしねぇや」
政宗は肩を竦めて苦笑混じりにそう言うと、三成の側に座った。
政宗はすぅ、と小さく深呼吸をし、三成を振り返った。
「………なぁ、石田。ここの生活……楽しいか?」
「…?……あぁ、楽しいぞ」
三成は突然の政宗の問いかけに驚いたように政宗を見たが、ふわりと笑みを浮かべそう答えた。僅かに政宗の顔色が明るくなる。
「…あの、よ……」
政宗は顔を赤くさせながら続きを言おうとしたが、三成が僅かに顔を俯かせたのに気がつき、言葉を止めた。
「……どうした?」
「…あ、いや…その、半兵衛様のことが、少し、気になって……」
遠慮がちに答えた三成に、政宗ははっとして押し黙った。だがすぐに、はっと思い付いたように三成の手をつかんだ。
「いいもんがある。ついてきな」

政宗は自分の部屋に三成をつれていった。そして、薔薇の隣にあった手鏡を渡した。
「この鏡は、自分が見たいと思うもんを写してくれる。こいつなら、あのネコ毛も見えるはずだ」
「本当か?…半兵衛様の様子を見せてくれ!」
三成は政宗の言葉に両手でその手鏡を握りしめ、そう言った。青色の光を放ち、鏡面に半兵衛の姿が映った。
「!!!!」
幸か不幸か、その時の半兵衛は台所で激しく咳き込んでいた。鏡面に映ったのは後ろ姿だったが、手の間から血が垂れているのが見てとれた。
さっ、と三成の顔が青ざめ、政宗はその様子に顔を曇らせた。
「…どうした」
「は、半兵衛様が…!血を…!病状が悪化してる……ッ」
政宗は三成の言葉に目を見開き、傍らの薔薇のケースに手を触れた。薔薇はほとんどが枯れ、花弁も半分が散っている。
政宗は少しの間目を閉じ、そして開いた。
「…行ってやれ」
「…………え?」
「もうアンタは自由だ。ここから解放してやる」
「……だ、だが…!」
「俺がいいって言ってんだ。…帰ってやんな」
政宗は三成の目を見てそう言うと薄く笑み、すぐに目をそらした。
三成は何か言いたげに政宗を見たが、ばっ、と政宗に頭を下げた。
「…ありがとう」
「礼なんざ言うなよ。…その鏡、持っていきな」
政宗は鏡をテーブルに置こうとした三成にそう言った。不思議そうに自分を見る三成の手を取り、鏡を握らせる。
「…それでたまには、ここの生活を思い出してくれ。な?」
「……分かった。すまない、ありがとう。…半兵衛様、刹那の間お待ちを!」
三成は政宗の言葉に鏡を抱き締め、そしてドレスを翻し部屋から出ていった。一人残された政宗は壁に背を預け、静かに空をあおぐ。
少しして、城門から三成をのせた天君が出ていくのが見えた。政宗は部屋からそれを見送り、静かに目を閉じた。
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