スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

凶姫と龍人41

「それに、あれはなかなか我輩に似て狡猾な男だよ。田中君に優しくしたのも、彼女を何らかの形で利用しようとしているかもしれないよ?」
「利用だと?!」
憎んでいるという最上の言葉に曖昧な表情を浮かべていた家康だったが、続いた言葉に血相を変えた。名前を訂正するのも忘れている。
最上はやけに神妙な様子で頷いた。
家康は戸惑いながらも、僅かに首をかしげた。
「………なぁ、何故そんなにあいつのことを知ってるんだ?」
「何故?それはだね、家康君」
ー我輩があれの家庭教師だったからだよ



 「幸村が!おらぬぞ!」
「ぎゃああああああ!痛い!」
同じ頃、城では騒ぎになっていた。吉継が官兵衛の背中に飛び降り、官兵衛が悲鳴をあげた。
「いだっ!痛いぞ刑部!」
吉継がぴょんぴょんと飛び回り、官兵衛はその度に悲鳴をあげる。ばぁん!と、扉が派手な音がして開かれた。
「うるっせぇぞ大谷ィ!静かにしやがれ!」
姿を見せたのは小十郎だ。昨日は長曽我部が騒ぎ、疲労が蓄積しているようだ。
「いででで…幸村がいないんだとよ」
「あぁ?真田が?探し損ねてるんじゃねぇのか?」
「我が左様な間違いをすると?」
「……それもそうか」
「……あの子なら、闇色さんと一緒よ………」
市の言葉に三人は驚いたように振り返る。市はずももも、と闇の手に乗って滑るように移動している。
「昨日…闇色さんを待ってて寝ちゃって…闇色さんの荷物に紛れて…一緒に行っちゃったわ…うふふ」
「…何故止めなんだ…」
「ごめんなさい、市も寝ちゃったの、うふふ……」
「そ、そうか…(こいつこんな奴だったか?)」
市は笑いながらくるくると回る。小十郎は曖昧にそう返し、ちら、と吉継に視線を向けた。吉継はむす、とした表情を作る。
「…主、敢えてそうしたのではないか?」
「うふふ、だって…そうした方が…闇色さんが戻ってくる理由になるじゃない…?」
「「「!」」」
三人は市の言葉に目を見開いた。市はうふふ、と楽しそうに笑う。
吉継はやれやれ、とため息をついた。
「…主も意外と賢しきことよな」
「うふふ、そう…?」
「…………しかし、まさか返されてしまうとは…」
小十郎は、何度目とも分からない言葉を呟いた。その言葉に官兵衛は肩を竦め、市は僅かに肩を落とす。
吉継は、ふぅ、とため息をついた。
「主らしくもないことよ。王子が決めたことに、そうぐだぐだと言うとはの」
「なっ!ぐだぐだだと?!」
「あーあーもーもー喧嘩すんな!」
官兵衛はがーっと叫び、小十郎をわふわふと押し倒した。
「ぶへっ!な、何すんだ穴熊ッ!俺が悪ィのか、俺がァ!」
「刑部に上取られてんだから手出せねぇのわかるじゃろうが」
「ヒッヒ、主もよい子よ、ヨイコ」
「おぞましいことを言うんじゃないわっっ」
ぞわぞわっと体を震わせ、官兵衛は小十郎の上から降りた。小十郎は時計の針を直しながら、ふん、と息を吐く。
「…政宗様は、不器用な方なのだ」
「……まぁ元より期待できぬ事であったのだ、今更落ち込みなどせぬわ。王子も王子で、それはそれでよかったのではないかの」
「……テメェの腹のうちは分からねぇな、大谷」
「左様か」
だか、感謝する。
小十郎はそう、ぼそりと呟いた。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2013年03月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31