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凶姫と龍人46

エントランスの乱闘は、家康がいなくなった事に気がつかないまま、続く。
「ぎゃあああ!なんでこうなるんじゃあああ」
官兵衛は悲鳴に近い声を上げながら、十数人の村人から逃げていた。邪魔だったのか、体に繋がっていた鉄球は体の上に乗せている。
「!暗」
「刑部ぅぅ!高みの見物とは相変わらず嫌みな奴じゃなぁぁぁあ!」
「…いや、別にそんなつもりはないが、確かにそうよなぁ、ヒヒヒ」
「ちくしょう余計なこと言うんじゃなかったッ」
官兵衛は苛立ちながらも、ある部屋に逃げ込んだ。村人達が乱暴に踏みいった為、入り口の傍にあった棚から食器がいくつか落ちる。
村人達は不気味な笑みを浮かべながら官兵衛に近寄る。
「…誰かは知らないが、部屋には静かに立ち入るものだよ」
部屋の奥から、そんな静かな声が聞こえる。官兵衛は走って乱れた息を整え、小さく笑う。
「業火よ!」
憐れ、官兵衛に誘い込まれた村人達が入ってしまったのは、久秀のテリトリーである厨房だったのだ。久秀のかまどから、派手な火がふく。
「ぎゃあああ!」
村人達は服に火がつき、悲鳴を上げながら慌てて逃げていった。
「ふいーー助かった…」
「全く、無粋な者を連れてこないでくれたまえ。卿が衝突しそうになったその棚、全て売れば国のひとつは買えるものなのだからね」
「一料理人なのにお前さんがそんなコレクションを持てる理由が分からんわ」
「ははははは、愉快、愉快」
「おお、無事であったか」
「よし!村人どもが撤退してったぞ!!」
ばたばたと騒がしい中、吉継と小十郎が厨房に入ってきた。無事、村人を追い返すことに成功したらしい。
わぁわぁと次々に家具達は厨房に集まり、歓声をあげた。自分のテリトリーに入られた久秀はむすっ、としていたが、ふ、と窓を見て眉間を寄せた。
「…………来る時にいた、黄色い男…そして出羽守がいないな」


 家康と最上は静かに階段を上がり、政宗を探していた。家康は狩りの時に使う槍を腰に構えながら、城の中を進む。
「……なぁ最上、伊達の部屋はどこか知らないのか?」
「何せこれだけの城だからねぇ、我輩が教えていたといっても、彼の部屋ではなかったから知らないのだよ」
「…お前、教え子でも容赦ないんだな?」
「我輩とて、教えたくて教えていたわけではないからねぇ」
最上の言葉に、そうか、と返し、家康はたどり着いた部屋の扉を開けた。
西の外れの部屋。政宗の部屋だ。
「!」
家康は、部屋の奥に政宗の姿を見つけた。政宗は扉の開いた音に、ちら、と家康達を見たが、すぐに逸らした。
闘志の感じられない政宗に、家康は苛立った。
「…ワシとは闘うに値しないとでも、いうつもりか」
「?い、家康君?」
家康はぎりっ、と歯を鳴らすと、槍を肩上に構え、政宗目掛け投げつけた。
勢いよく飛んでいった槍は政宗の腕をかすり、壁に突き刺さる。
政宗は血が吹き出した腕をちら、と見ただけで、やはり反応を返さなかった。
家康はその態度に目を見開き、苛立ちに顔を歪めた。強く地面を蹴り、政宗に駆け寄ると、座っていた政宗の襟首を掴み、近くの窓から外のバルコニーへと投げ飛ばした。
「どうした!闘え!」
そう怒鳴る家康を政宗は疲れたように見据え、ため息をついた。

凶姫と龍人45

「なんだってんだ、敵襲って!」
「大方、石田が村に戻った事で某かのことがあったのだろう」
「姫さんにゃあ悪いが、あの村の野郎はいけすかねぇと思ってたけど!」
吉継と官兵衛の知らせを聞き、城の中はばたばたと対応に追われていた。
走って正面玄関に向かう元親は、ちっ、と舌を打つ。すたたた、との走る足音に、先に着いていた小十郎が振り返った。
「遅ぇぞ西海!毛利!」
「無茶言うなよ!反対側いたんだぜ?!」
「まぁよいわ、どういった状況よ」
「大方前と同じ連中よな。ただ、今回は大将がおる。黄色いノースリーブの癖にロングコートを着ている妙な奴よ」
「若い奴だな。…石田が言ってた、イエヤスって奴じゃあないのかねぇ」
官兵衛の言葉に、元親と元就は窓から外を覗きこんだ。確かに、先頭に家康の姿がある。
「どうする?正面からの戦いになったら、政宗様がああいう状態の今、勝ち目はねぇぞ」
「げぇ、奥のやつら持ってるの丸太だぜ。ぶち破る気マンマンじゃねぇか」
「……大谷よ、こういうのはどうぞ?」
「ヒヒ、流石は主よな、実に面白きな」
「そこで楽しんでるお前さんら、策があるならさっさと言え!」

「扉を破れ!破った同時に突っ込むぞ!」
家康の言葉に、うおお、と声が上がり、士気があがる。家康はふと視線を感じ、城を見上げた。西側の塔の一室が、僅かに青く光る。
「……そうか、お前はそこにいるのか。待っていろ、伊達政宗。三成はワシのものだ…!」
家康は真っ直ぐその部屋を睨むように見据え、薄気味の悪い笑みを浮かべた。

「……………」
政宗は部屋から正門を破ろうとしている群衆を、その中にいる家康を見下ろした。
ふっ、と自嘲気味な笑みを浮かべる。
「…俺は石田に会って変わった。長い時も、俺を変えた。だけどテメェ等は何も変わらねぇ。変わらねぇどころか、退化しやがった。……俺がそんなに嫌いなら、ここまで来て殺してみろ。俺はもう、疲れた」
政宗はそう言うと疲れたように目を閉じ、薔薇の乗る机のとなりの椅子に腰かけた。

バァン。
派手な音がして、正門が破られた。どど、と村人が一気に入り込む。
エントランスは誰もおらず、暗く静かで、両脇に家具が散在していた。
「……な、なんだか妙な気配だね」
「そうだな、ピリピリする。さぁ降りてこい伊達。決着をつけてやる」
つかつかと家康は歩を進める。その後ろに、村人が続く。
集団がエントランスの中央まで進んだ、その時。

「今だ!」

元親の声を皮切りに、エントランスがぱっと明るくなり、両脇に積み上がっていた家具が一斉に村人に襲いかかった。
「!」
家康は僅かに目を見開く。村人は、家具が動く、という異常事態に一気にパニックに陥った。
「ひゃっひゃっひゃ。幸よ、福よ、塵と消え!」
吉継は楽しそうに笑いながら、湯を入れたティーカップを宙に飛ばし、湯を撒き散らす。
「撃てやぐへっ!何すんだ毛利ィ!」
「こんな狭い場所でぺぺやーを使うでないわ」
「ぺぺやーってなんだよ?!うおっあぶね!」
村人の攻撃から逃げつつ、元親は器用に炎を飛ばし、元就は、そうやって大丈夫なのか、自分の羽を千切っては矢のように放っている。
「来タレ…集エ…夢ヲ見ヨ…」
市はそう言いながら、二階から飛び下り何人かの村人が下敷きになった。意外と容赦がない。
「なんだこれは…あやかしか何かか!」
家康は苛立ちに、ちっ、と舌打ちをすると、騒動の中を駆け、抜け出した。

凶姫と龍人44

「私のせいだ…半兵衛様、私はどうすれば……!」
「落ち着いて。ここを出る策を考えよう」
己がしてしまったことに気が付いた三成はへなへなと崩れ落ち、顔を真っ青にさせた。半兵衛はその隣に膝をつき、肩を抱き抱える。
「…いくらなんでも、傷付けるわけにはいかない。どうしたものか……」
半兵衛は小さく呟くと、窓から見える人影に小さく舌打ちした。

 「なんとっいうっことでっござろうっ」
そんな修羅場を迎えている二人のいる家の屋根で、幸村がそう呟いた。異変を察知し、煙突から上に登ったのだ。
幸村はピョンピョンと跳びはね、すたたたたた、と駆けて器用に屋根から降り、家に立て掛けてあった板の間から様子をうかがった。
「ぬぅ……今の某に打ち勝つすべは無しぃぃっ!どうすればよいのだぁぁっ」
幸村はぬおおおお、と叫んだ。叫んでも如何せん体が小さいので回りの村人には聞こえない。
と、その時、幸村の視界に大きな人影が映った。
「……ぬ?何事よ」
「!と、豊臣さん…ッ」
本を仕入れ、村に戻ってきた秀吉だった。三成と半兵衛の家を囲む村人たちの不穏な様子に、不愉快そうに眉間を寄せる。
「…何故このような事になっておるのだ」
「い、いや、これは……」
どうやら彼は、三成の味方の人間であるらしい。
そう判断した幸村は、すおお、と深く息を吸った。
「三成殿の想いが、踏みにじられるでごーざーるぅぅぅぅう!」
「!」
幸村の叫びは無事秀吉に届き、秀吉は僅かに目を見開いた。なんだ今の声は、と言いながらも顔が青ざめた村人に、秀吉はぐ、と拳を握った。
「……失せよ!」

どかーん
「?!!?!な、なんだ?!」
そんな音が聞こえ、地がぶるぶると震えた。家の中の二人は驚いて飛び上がる。
少しして、ばんっ、と勢いよく扉が開いた。
「半兵衛!」
「!!!秀吉!!」
「ひひひ秀吉様ァ!」
ぱぁっ、と半兵衛と三成の顔が明るくなった。無事な様子の二人に秀吉もほっと息をつく。
秀吉の肩に、ひょこっ、と幸村が顔を出した。
「三成殿!」
「幸村!貴様いつの間に……」
「この奇っ怪なカップが、貴様等の状況を教えてくれてな。村を離れておる間に、何やら妙なことになっているな」
「あぁ、話すと長くなる、今は割愛させてくれ。三成君!」
半兵衛は秀吉の手を借り立ち上がると、三成を振り返った。三成もぐ、と拳を握り、立ち上がる。
「僕も一緒に行こう。秀吉はここに残っていてくれないかな?彼らがどう動くか、予想がつかない!」
「……うむ、分かった」
半兵衛のただならぬ様子に秀吉は頷き、気を付けよ、と言うと先に家を出た。
半兵衛は一旦部屋の奥に戻り、自分で作り上げた剣を取り上げ腰に下げると、三成と幸村を伴い家を飛び出た。



 「…?何じゃ、何やら森の方がざわめいとるぞ」
「む?そういえばそうよな…」
静かな城の中で、ぴくり、と官兵衛が尻尾を揺らし、窓辺に駆け寄った。相変わらず上にいた吉継も一緒に覗き込む。
その二人の視界に、たくさんの松明が目にはいった。
「なんてこった、敵襲じゃ!」
官兵衛はうげぇ、と嫌そうな声をあげた。

凶姫と龍人43

「…貴方は反対じゃないのか、半兵衛殿」
「生憎だけど家康君。僕は古い噂よりも政宗君の先祖よりも、彼を好いた三成君の心を信じるよ」
「!!」
半兵衛の言葉に家康は目を見開いた。焦ったように半兵衛から視線をそらす。
三成はあわあわとしながら半兵衛と家康とをみやった。
「…家康君。最上君達は過去を抹消したいだけだよ。確かにかつてのあの城の住人は屑ばかりだった。だがそうだとしても、偶然にも政宗君が受けた制裁を利用し、彼を蔑んだ彼らの行いも十分屑だ。それを自覚しているんだろうよ」
「………半兵衛殿。悪いが、貴方の言葉は聞けない」
「!家康ッ」
家康は半兵衛の言葉に拳を握りしめ、だが、静かにそう言い放った。三成の焦った声色にも反応しない。
家康はフードを被り半兵衛を見据えた。
「…すまないな、半兵衛殿。ワシは最上達に付く。それが、この村の想いだ」
「…何をする気だ家康ッ」
物騒なことを言い出した家康に三成は詰め寄るが、家康に冷たい笑みを向けられ、足が止まった。
「……待っていてくれ、三成。お前を利用させなんかしない」
「家康、貴様……?!」
「大人しくしていてくれよ?ワシは、お前を傷付けたくはないんだ」
「!!三成君!」
半兵衛は慌てて三成の腕を引いて自分に引き寄せた。三成もそこで、手に手に斧や棒を持った村人が家を囲んでいることに気がついた。
家康はただただ、冷たく笑みを浮かべる。
「…家を出ようと、しないでくれよ」
「やめろ家康…あの男に手を出すなッ!!」
「やめるのは三成だ」
家康は苦笑混じりにそう言い、冷たい笑みを浮かべたまま、三成を見据える。
どこか、泣きそうな笑顔にも見えた。
「…そんなことを言ったら、ワシに拍車をかけるだけだぞ」
「………!!家康!」
家康は最後にそう言うと三成に背を向け、家から出ていった。

「行くぞ!この村の人間を利用しようとした、化け物を追い出すぞ!」

家康の言葉に、集まっていた村の男衆が声をあげる。家康はその声を聞きながら、どこか不気味な笑みを浮かべていた。
「……三成は、ワシのものだ」
そしてそう、小さく呟いた。


 「………ッ」
同じ頃、部屋に閉じ籠っていた政宗は、右目に痛みを感じ、押さえた。
少しして、痛みが収まり押さえた右手をしばらく見つめた後、静かに立ち上がり部屋を出た。
「!政宗様、」
部屋の前で待機していた小十郎は、驚いたように政宗を見上げた。
「小十郎。妙な気配だ、何か来たか」
政宗は小十郎と目をあわせようとはせずに、ただそう尋ねた。小十郎は眉間を寄せる。
「?いえ、そのようなことは…」
「………。門を閉じろ、何か来る」
「…?!、はっ!」
小十郎は不可解そうに政宗を見ていたが、神妙な様子にすぐに姿勢を正し、一礼すると走っていった。
政宗は、部屋の扉の隣にある窓から、三成の住む村の方向を見た。夜なのに、僅かに明るい。
政宗は、ちっ、と舌打ちを打つ。
「……イライラさせてくれるぜ。昔のことを思い出させやがる。糞野郎の……gentlemanよ」
政宗は一人そう言うと、部屋に戻った。

凶姫と龍人42

その夜、事態は急変する。
「三成。ちょっといいか?」
家康が三成を訪ねてきた。三成は夜分に珍しいと思いながらも家にあげた。
半兵衛は早めに床についていて、幸村は家康の姿を見て素早く戸棚に隠れた。
「何の用だ家康。貴様がこんな夜分に来るのも珍しいな。半兵衛様はお休みに…」
がたん。
三成の言葉が途切れた。家康が腕をとり、壁に叩きつけるように押し付けたからだ。
「いっ、た……ッ、何をする家康ッ!!」
「三成。伊達政宗のことで聞きたいことがある」
「……貴様…何故伊達の下の名を…」
「三成。お前は、どれくらいあの男のことを知っているんだ?」
「何故貴様に言う必要がある。離せ」
家康の声色に不穏なものを感じた三成は静かにそう返した。家康はどこか苦しげに眉間を寄せ、すまん、と言って手を離した。
三成は家康に座るように促したが、家康はそれを断った。
「…三成。お前の返答次第では、長居はできない」
「なんだと?貴様ぁ、今度は何を考えている?」
「三成。あの男は竜のような肌をしているそうだな」
家康には珍しく、三成の問いを無視して家康はそう尋ねた。三成は僅かに眉間を寄せる。
「……それがどうした」
「そのような肌になった経緯は、知っているのか」
「老婆に扮した魔女に不遜で傲慢な態度をとって怒らせたのだろう」
「…知ってたのか。三成お前、あの男の事が好きだろう」
「…ッ!」
家康の突然の言葉に三成はう、と詰まった。家康はそんな三成ににこりと笑う。目は、笑っていなかったが。
「お前が、そんな過去を持つ男を好きになるとはなぁ」
「…老婆に扮し、見ず知らずの人間を試すような魔女も魔女だ、質の悪いッ。それに、そんな過ちは誰にだってある。私とて、こんな外見でなかったのならば、昔の伊達やこの町の女共の仲間入りをしていただろう」
「…」
「…それに、今の伊達は、いい奴だ。過去のことを反省し、変わっている。だから好いたのだ」
「…三成、今から言うことは忠告だ」
「?!貴様、聞いていたのか!?」
家康は三成の言葉に反応を返さず、そう言った。三成は憤慨するが、今までに見たことのない冷たい瞳の家康に、僅かに後ずさった。
「…三成、奴を好きになるのはやめろ」
「ッ!何故貴様にそんなことを命令されねばならないッ!貴様には関係ないだろう!」
「なら、どうあっても奴を好きだと、信じるって言うんだな?」
「何が言いたい、貴様ァッ!」

「…家康君、最上君に何か言われたかな?」

凛、とした声が響いた。半兵衛だ。
半兵衛の言葉に、家康の肩が僅かに跳ねた。三成は不可解そうに半兵衛を見る。
肩にかけたカーディガンを揺らしながら、半兵衛は二人の方に歩み寄った。
「三成君、君がいた城にはね、胡散臭い噂が一杯あるんだ。政宗君も中々無礼な人間だけど、その前はもっと悪い人ばかりだったようだしね」
「!」
「……人付き合いのないというのに、流石は半兵衛殿だな…」
家康は困ったような怒っているような、微妙な表情を浮かべた。三成は困惑しながら半兵衛に駆け寄った。
「どういうことです、半兵衛様!」
「家康君、最上君はあの城の噂を作った原因を君に教えたんだろう?なかなか酷いものだ、君が三成君と彼の交際を危惧するのも無理はない」
「は、半兵衛様?!」
「…………」
家康は黙ったまま半兵衛を見据えた。
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