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日輪の神様へ10

翌日。
「特に何も変わらぬな」
「そうだな…だが、嫌な気配はする」
「嫌な気配…。…確かに、大きな数の気配が動いている」
「だろう?」
「…人にしては大きな気配があるな。…赤と黒を基調とした鎧…武器は持っておらぬ、違うか?」
「そんな事分かんのか!…確かに鎧…赤と黒だったな…」
「腰紐の止め具が瓢箪であろう」
「いや、そこまでは知らねぇよ」
ザァァ―――
戦前だという事をのぞけば、非常にのどかな風景が広がる瀬戸海。稲荷は見張りとして富嶽の顔の上に座った長曾我部の隣に座っていた。長曾我部は膝の上に肘を着いて、思い詰めたように中国方面を見ていた。稲荷は退屈で仕方ない。
「鬼よ、しばし我と話せ」
「さっきから話してんじゃねぇか」
「昔の話なのだがな。ある国に、信心深い女子が居った。神はその女子が気に入り、召し抱えようとした。だが女子は断った。何故か?」
「アンタ、その切り返し好きだな。何故か?」
「やかましいわ。何故ならその女子には結婚を誓い合った男子が居ったからだ。だが神は気にせず無理矢理女子を連れていった。さて、もし貴様がこの男子だったら、貴様はどうする」
「はぁ?」
長曾我部はすっとんきょうな声をあげたのち、考え込むようにむー、と唸った。そして、体の向きをかえ、稲荷に向き合った。
「俺がその男の立場だったら迷いなく助けにいくけどよ、」
「!」
「ちなみに、その野郎はどうなったんだ?」
「神の怒りを買い、だがその無謀さは気に入り、八つ裂きにした後女子の記憶から消し、女子はもとの生活に戻った、と言っておったな」
「同業者かよ!」
長曾我部は肩を竦め、怖ぇなぁ、と呟いた。
「…まぁだが、記憶から消さたんなら別にいいか」
「何故だ?」
「俺の場合、その姫さんはまぁ、元就な訳だろう?…だったら、記憶から消えた方が、その後寂しくねぇだろう?」
稲荷は長曾我部の言葉に目をまん丸に見開き、ぐるると尻尾を回した。さながら風車のようだ、よく回る。
「…。ほとほと人は理解できぬ、覚えていてほしくないのか」
「記憶に残って元就を苦しめるくらいなら、記憶から消えてしまった方がいい。…まぁ、元就は怒るだろうけどよ」
「普通そうだろう。貴様だって忘れたくはないだろう?」
「忘れたくはねぇさ。…だけど、相手には忘れて欲しいとは思う。俺に縛られずに幸せになってほしいから」
「……………はぁ………」
「納得してねぇだろ。…まぁ、アンタ等と違い、人間は一生が短いだろう?その短い時間を、悲しみに潰させたくはねぇだろう?」
「…そうなのか。…では聞くが、もし貴様が助ける前に、想い人が瀕死の重傷を負っていたら、どうする?」
「……。考えたかぁねぇが…どうして欲しいか、聞くだろうな」
「では、聞いてもし、共に死んでほしいと言われたら貴様は死ぬか?」
「元就が望むなら、な」
「…。たまげた。では、自分の事を忘れて幸せになってくれと言われたら、貴様は忘れられるか?」
稲荷の言葉に長曾我部は再び考え込むように唸った。
「…どうだろうな。完璧には忘れられねぇけど忘れて欲しいなら、…善処はするけどよ。…んな事聞いてどうする」
「人間観察だ」
「…本当か?」
「それこそ、嘘など吐いてどうする」
「…アンタは人間じゃなくて俺を観察しているような気がするときがあるような気がしてよ…」
「…?」
「何でもねぇ。気にすんな」
長曾我部はくすりと笑って、視線を海に戻した。
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