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日輪の神様へ3

ザアァ―――

波の音のみが部屋の中に響く。長曾我部はずっと黙ったままだ。稲荷は少し離れた所に座り、尻尾をいじりながらそんな長曾我部を見ていた。
「…。いつまでそうしておるのだ?」
「ん?あぁ、悪ぃな、アンタにゃ退屈だったな」
来た時は高く上っていた太陽が海に近づいた頃、稲荷は口を開いた。長曾我部ははっとしたように稲荷を振り返り、苦笑した。
「我は構わぬ。人の時などわずかな物よ。我にとって今までの時は瞬き程度の物…だが、人は船を日が沈んだ後に出さぬぞ」
「…今夜は波が荒れる。来る前から出すつもりはねぇよ。…今日はここに居座る」
「重ねて尋ねるが、貴様自身の領地はよいのか」
「四国を攻めるにゃ水路以外に道はねぇ。もし攻めるような野郎がいたら、ここから富嶽で撃ち落とすまでよ」
「なんと。大した火力だな」
「はっ、神様に誉めてもらえるたぁ、光栄だな。まぁそれに、富嶽にも必要最低限の野郎共しか連れてきてねぇしな」
「…、心にも無い事を人は平気で口にするな」
「十割本気で思っているワケじゃねぇだけよ」
しばらく問答を交わした後、稲荷は立ち上がると長曾我部の向かいに座りなおした。長曾我部は訝しげな視線を向ける。
「…この者はしばらく目覚めぬであろうな」
「?!なん…だと?」
びくんと長曾我部の肩が跳ねた。長曾我部は声色は落ち着いているものの、殺気立った視線を稲荷に向けた。稲荷は尻尾をぶるんと揺らす。
「確かに死んではおらぬ、眠っておるだけだ。だが、普通の眠りではないようだぞ」
「普通じゃねぇって…じゃあどういう眠りだっていうんだよ」
稲荷は僅かに目を見開き、ほぅ、と呟いた。その反応に長曾我部は眉間を寄せる。
「貴様、その気質からして怒鳴るかと思ったが案外静かだな」
「…ッ…いちいち言い方が嫌味ったらしい奴だな、稲荷さんはよぉ…。…病人の前で騒げねぇだろ」
「多少騒いだくらいでこやつは目覚めぬ」
「うるせぇ!…富嶽打ち壊すぞ」
「!」
まさか、とは思ったが長曾我部の目はどこまでも真っ直ぐなので、流石に稲荷は閉口した。社を壊されては堪らない。
長曾我部は稲荷が閉口したのを見て、目線を毛利へと落とした。
「…我は生まれて数千年経つが」
「どうりで尻尾が九本もあるわけだ」
「これだけ生きても、人の感情は理解できぬ」
「そうかい」
長曾我部の返答に、稲荷はぶるんとまた尻尾を振った。
「貴様が己を犠牲にしてまでこの男を守る理由は何だ?」
「俺は利害で動いてるんじゃねぇ。言っただろう?俺は元就が守りたいものを守りたいだけよ」
「それが理解できぬ。いつ目覚めるやも知れぬ者の為に、その少ない人の一生の時を割くのか?」
「あぁ。俺にとってこいつはそれだけ大事だからな」
長曾我部は稲荷の言葉に迷いなく答え、ふわりと笑うと毛利の頭をそっと撫でた。稲荷はゆらゆら揺らしていた尻尾を、静かに止めた。

 「長曾我部殿、食事の方は…?長曾我部殿の分は用意出来ましたが…その、…」
それからしばらくして、毛利軍の兵士が姿を見せた。兵士はどこかおどおどとしながら稲荷を見る。
その様子に稲荷はぴくんと耳を立てた。
「厚揚げが食べたい」
「アンタ飯食うのか?」
「当たり前ぞ」
「…、だとよ」
「しょ、承知しました!」
兵士はそう言うと、逃げるように帰って行った。
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