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葱と牛蒡とツインテール18

途中で兵が食事が運ばれてくる以外、牢の中に音はなかった。三成は黙って座したまま、しきの牢の扉に視線を向けている。しきはその視線に下手に動くこともできず、次第に疲労を溜めていった。



 それから一週間ほど経った。小十郎の牢に、珍しく三成が食事の膳を手に、姿を見せた。刀は腰ひもに引っ掛けて下げている。
「…見ねぇ顔だな。装備もいい…お前が、三成君とやらか」
「……。そうだ」
三成は小十郎の言葉にぴく、と反応した後、簡素にそう答えた。
「しきの牢の見張りをしているそうだな」
「そうだ」
「…手出ししちゃいねぇだろうな」
小十郎の言葉に食膳を置いた三成は顔をあげた。ふん、と鼻を鳴らす。
「そんな下品な事をするものか。その辺りの愚鈍な軍と一緒にするな」
「………」
「…だが、このところ静かになったな」
「何?」
三成がふ、と思い出したようにいった言葉に、小十郎は眉間を寄せた。三成はす、と立ち上がり、ちらりと小十郎を見下ろした。
「何もすることがないからな。貴様のような男ならばまだしも、ただの女には耐えがたいだろうな」
「!」
「貴様がさっさと豊臣に下ればいい話だ」
「!!あいつを連れてきたのはそれが目的か…!」
小十郎は驚いたように目を見開き、だがすぐに、ぎろりと三成をにらんだ。三成は再び、どこか楽しそうに鼻を鳴らした。
「半兵衛様はそんな下賤な考えをお持ちではない、言ってみただけだ」
「…てめぇ」
「半兵衛様を煩わせるな、さっさと豊臣に下れ」
三成は小十郎を振り返り、強い口調でそう言った。その視線は鋭く、直前の言葉が本音であることを語っていた。
小十郎は真っ直ぐその視線を睨み返す。
「…テメェが豊臣以外に仕えねぇように、俺も政宗様以外に仕えるつもりはねぇ。いくら待った所で、俺の答えは変わらねぇ!」
「!…、………」
三成は驚いたように小十郎を見、そしてどこか悔しげに目を細めた。小十郎は目をそらさない。
三成はく、と刀を引き抜き、鞘から抜き取ると小十郎の右目に切っ先を向けた。
「………」
「殺すか?」
「……貴様の気持ちは分からんでもない」
「そいつはありがてぇ」
「だが私はその考えを変えてやる」
「!」
小十郎は意外そうに三成を見た。三成の顔は何故か、酷く苦しげに歪んでいる。
「…んな顔してるような野郎に、テメェと同じ考えの俺を変えられんのか?」
「貴様が豊臣に下ることを半兵衛様が望まれるからだ…その為ならば、私は何だってするということだ」
「……絶対に無理だ、と言っておくぜ」
「………。だが、ひとつ忠告しておくぞ。あの女…そう長くは持たないぞ」
「……ッ」
三成は最後にそう言い捨てるように言うと、牢を出ていった。
残された小十郎は、ぐ、と唇を噛む。
「……借りを返してもいねぇのに、あいつを巻き込むわけにはいかねぇ…ちっ、どうしたもんか」

三成はずかずかと廊下を進む。小十郎のもとを訪れたのは、しきのことを伝えるためだった。気にしていないといえば、嘘になった。
「…半兵衛様を、卑怯者にするわけにはいかない……ッ」
三成の想いは、ただそれだけだった。
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