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葱と牛蒡とツインテール4

一人残されたしきは、少しして自分があの小十郎と会話していたことに気がつき、もだもだと悶えたのだった。

 「…手伝うと言っておきながら早々にぶっ倒れてすいません…」
結局その後なかなか復帰できず、その日は終わってしまった。夕飯時にしきはトネに謝る。トネはどこか楽しげにけらけらと笑った。
「おめぇさ、んなに小十郎様さ怖かっただか?」
「まさか!!イケメンすぎて死にそうでした」
「いけめん?死にそうて、おめぇさ大丈夫か?!」
「あ、はい大丈夫です、死にそうなのは私の心です」
「…よく分かんねぇが、大丈夫ならまぁいいだ」
しきのことを不思議そうに見ながらもトネは納得した。しきはきょとんとしながらも、もぐもぐと食事を続けた。
「…しっかし、もうじきまた、物騒になるかもしれねぇだなぁ」
「え?」
「小十郎様さ何も言わねぇが、もうじききっと戦だぁ。また南さ行くんだろうなぁ」
「南……」
トネにそう言われ、しきはふ、と考えた。
今自分は、物語ではどの辺りの時期にいるのだろう、と。
「…ねぇトネさん、最近起こって衝撃だったことって何かある??」
「んん?そだなぁ…噂じゃあ、京の方のお殿様さ倒された聞いたなぁ」
「京…第六天魔王?」
「あー、そんな名前だったかなぁ」
第六天魔王が倒された。
それだけでは今一特定材料に欠ける。
「(こういうトリップものだとトリップ先は大抵ゲームだけど、ゲームで信長が死んだってどの辺だ…?)」
「まぁ、小十郎様や伊達様のお陰で、ここまで戦さ来ることはないなぁ」
「そう…」
しきはかまどの火をじ、と見つめた。
戦。ここに来たということは、それと無縁で生きていくことはできないはずだ。
しきはぐ、と箸を握った。
「…戦、か……」

 翌日。しきは畑仕事を手伝いながら、ふ、と城の方を見た。小さな煙が上がっている。
「…炊事場の煙かな。お昼時って訳でもないし…ってことは、もうじき出陣…?」
「よく分かったな」
「ひゃあああああっっ!」
独り言のつもりだったのに、思わぬ返事が、しかも小十郎に答えられ、しきは飛び上がった。
小十郎は昨日の装いではなく、きちっと戦装束を着込んでいた。
「こここ小十郎さま!!居たんですか!!」
「悪いか」
「いえいえいえそんなことは!!た、ただ出陣ならなんでこんなとこに…」
「お前には関係のないことだ。それにしても、煙だけでよく分かったな」
小十郎はしきを軽くあしらうと、どこか不審そうにしきを見、そう言った。
「え、あー…ほら、煙は出陣前の腹ごしらえのしるしってよくあるじゃないですか」
「女のお前が、そんなに戦場にいたのか?」
小十郎の視線がどんどん険しくなる。しきは墓穴を掘った事に気がつき、はっ、と慌てた。
この世界にはテレビがないのだ。そんなもの、実際に見なければ知っているはずがない。
「って、聞きました!!」
「………」
「……信用出来ないのは分かりますけど…なら逆に聞きますけど、私そんな忍っぽく見えます??」
「忍には見えねぇが、くるくる回った妙な髪型といい、ただの農民の女にも見えはしねぇ」
「……………」
小十郎の言葉にしきは返答に困った。
確かにしきは農民でもない。そもそもこの時代、この世界の人間でもない。
だが、それを言ったところで信用してもらえるはずがない。
「…ま、命が惜しいなら下手な真似はしねぇことだ」
「う……」
「言っておくが、俺は女にも容赦はしねぇぞ。よく覚えとけ」
小十郎はそう言うと、しきの隣を通り、城へと歩いていった。
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