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葱と牛蒡とツインテール7

そうしてしきは、村の警備に参加することとなった。警備といっても、夜街道沿いを武装して非常事態に備えているだけと言えばそれだけだ。
しきは、くっ、と鏃のついていない矢をつがえ、木に書いた的を狙った。
ひゅん、と弓がしなり、矢は中央を少しだけずれた所に当たった。槍を持っていた孫六はそれに、おお、と声をあげる。
「おめぇ、しきさいったな、すんげぇんだな」
「いやいや、私なんてまだまだ。やらなくなって2年くらい経ちますし…」
「2年やらんでその腕か?なおのことすげぇべ」
「まぁ、こうやって狙う事自体は、私片目なので、昔からやってたので…」
えへへ、としきは苦笑した。孫六は感心したように息をつく。
そんなしきを、若い男は離れたところから見ていた。しきは笑顔を張り付けたまま、男をふり返り、近付いた。
「私はしきといいます。あなたは?」
「…………左馬乃介」
男は冷めた目でしきを見つめ、そう端的に答えた。
「左馬乃介さんですか。どうぞ、よろしくお願いします」
「………お前、女にしては頭がいいらしい。小十郎様が心配なさるのも無理はない」
「!」
今まで黙って何も言わなかった男、左馬乃介は不意にそう言った。しきはむ、とした顔で左馬乃介を睨む。
「これは俺の考えだが、馬鹿な女のふりをしていればまだ疑われずにすんだんじゃねぇのか」
「…話す前から疑われてました、変に馬鹿なふりをすれば余計怪しいのでは?」
「それもそうだな」
「…それに。私、そんな演技出来ないんで。もう、そういうの、疲れました」
「…………?」
左馬乃介は不思議そうにしきを見た。しきはぷいっと視線をそらし、きゅ、と音をさせて弓を構えた。空に矢の先を向ける。
「…誰もいないのなら、疑われる立場なら、もう、自分を偽ってまでして、過ごす必要はない。私は私です、それを私は、捨てたくない」
「…………」
しきはそう言うと、弓を下ろした。左馬乃介は何も言わなかった。




 それから5日ほど経ったとき、伊達軍が戻ってきた。しきや村の衆が思っていたよりも早い帰還だった。
しきは、大した損傷もない伊達軍の行軍を見て、ようやく自分が今、何時にいるのかを理解した。
背景設定はアニメのそれ。時は、アニメ放送第二期開始直後。
すなわち、今回の出陣は、川中島への出陣。豊臣の奇襲により、帰ってきたのだ、と。
「…アニメ、かぁ…アニメの夢小説はあんまり見たことないな…」
しきはぽつり、と呟き、だがそれ以上の興味は特に示さず、畑仕事に戻った。

 「何?村の警備に参加しただと?」
「はい、それと、妙なことも」
それから少しして、小十郎は残していった左馬乃介から報告を聞き、眉間を寄せた。何かしら行動を起こすだろうと考えてはいたが、予想とは違っていたのだ。
小十郎は左馬乃介に先を促す。
「は…馬鹿なふりをすれば疑われなかったのでは、とかまをかけて見たんですが、そんな演技はできない、そういうのは疲れた、偽ってまで生きたくない、自分は自分だ、それを捨てたくない、と…」
「…自分を……?」
「はい…」
「………分かった、手間をかけたな。戻っていいぞ」
小十郎はそう言って左馬乃介を戻らせると、腕を組み、目を伏せた。
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