スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

葱と牛蒡とツインテール6

その日の午後、伊達軍は城を出て、出陣していった。
しきは鍬を片手にそれを遠くから見ていた。
「…小田原攻めじゃ、なければいいんだけど…」
しきはぼそりと呟く。
小田原攻めでは、伊達軍は豊臣軍家臣の石田三成一人に大敗する。政宗にとっても小十郎にとっても、苦い結果となる戦なのだ。
しきは、はぁ、とため息をつくと作業を再開した。

 その夜。トネの家に村衆数人が集まり、政宗不在の間の警備をどうするか話し合っていた。それなりの人員は勿論残しての出陣ではあったが、織田信長が討たれた事により、周辺諸国の同行が少しばかり怪しい状態ではあるらしい。
しきは家の外に出て、空を見上げていた。電気もなにもないため、きれいな空が見えた。
「…綺麗な星空…東京じゃ見れないからなぁ」
しきはぼそりとそう呟いて、ふ、と薄く笑った。その様子に、話し合いに来ていたと思われる、若い男がしきに近寄った。
「…おめぇさん、空さ見上げてどうしたっぺ?」
「え、あぁいや…綺麗な空だな、と思って」
「きれい??…いつも通りの空だっぺ」
「ふふ、そうですね」
「?」
しきは、なんでもありません、と言ってどこか楽しそうに笑った。
若い女とはあまり関わり合うことがなかったらしい、男の顔がぼっと赤くなったのだが、しきに対する小十郎同様、しきは気がつかないようだ。
その時、がらり、と音をさせてトネの家から別の男が顔を覗かせた。
「おい、孫六!お前弓番だかっな!」
「えーー?!俺ぁ一番弓がだめだべ!」
「……弓……」
しきはぴくり、と反応した。弓と矢を投げ渡された孫六という名前だったらしい男は、しきの声にしきを振り返った。
「…わぁ、弓道の弓より少し小さい」
「???弓…やれるべか?」
「えぇまぁ、下手ではなかったですけど…」
「んならば、おめぇさやってくれ!俺ぁ弓はてんで駄目なんだ」
「えっ?!」
ぐぃ、と弓を押し付けられ、しきは驚いて思わず受け取ってしまった。騒ぎに、家の傍らに立っていた若い男が二人を見た。
どことなく視線が痛い。
「孫六。身元も知れない女に村の守役をやらせるってぇのはどうなんだ?」
「うっ」
「…伊達軍の人ですか」
しきは若い男が発した言葉に、ふ、と思いつきそう尋ねた。男はなにも答えない。
イラ、としたしきは、受け取った弓に矢をつがえ、素早く引くと男に向けた。
「ちょ、ちょちょ?!」
「小十郎…様は、私がどこかの軍の回し者だと思っているんでしょう?疑われ続けるのは、まぁ、仕方がないとは思いつつもやはり腹がたちます。さて、どうしたら信用していただけますかね?」
「…………」
「トネさん!村の警備、私もやります!」
しきは構えをとくと、家のなかのトネに向かって声を張り上げた。回りの男たちは驚いたようにしきを見る。
しきはにこっ、と笑みを浮かべた。そこには一切の悪気が見えない。
「私、昔弓を習っていたので、弓は得意な方なんです!まぁ実際人を射た事はないんですけど…お世話になっているお礼に、是非」
「…どうするべ?」
「弓さ使える奴そうはいねぇし、居候さしてる嬢ちゃんも気まずいんだろ、やらせてもいいんでねぇか?」
「!ありがとうございます」
しきは嬉しそうに笑い、苦い顔をしている男に、ぺろ、と舌を出して見せた。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2013年04月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30