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もうお前を離さない258

大谷はきょとんと己を見る村越に、あからさまにため息をついた。
「突然何を言いだしやる…主も知っておろう、奴は三成を裏切り、そして太閤を殺したのよ」
「…なんか、それだけじゃないような気がして…」
「…何?」
「…。すいません、質問変えます。裏切った、ってなんで分かったんですか?」
村越は少しばかり考え込む様子を見せた後、そう聞き返してきた。大谷は面倒そうに村越を見る。
「…簡単な事よ。三成が奴が太閤を殺した場に居合わせたまで」
「そ…そうだったんですか?!それで?」
「奴は逃げ、そして今に至るのよ」
「わぁ説明端折りましたね。…ん?逃げ…たんですか?」
「ヒヒッ、そうよ。徳川は何も言わず、戦国最強の背に乗って逃げたそうだ」
「…………………」
「満足か?三成の前でないからいいものの…斯様な下らぬ問は慎みやれ」
「…、すいません、ありがとうございます」
疲れたようにため息をつき、くるりと背を向けた大谷に村越はそう言った後、東の空を見上げた。空は相変わらず淀んでいる。
「…逃げた……」
村越は小さくそう呟くと空から目を離し、大谷の後を追った。



 その頃宮野は。
「うっわ…台風かな…酷い雨…」
三方ヶ原でも雨が降りだし、軒先ギリギリの所で空を見上げていた。いつの間にか、手枷はされなくなっていた。
「炎色さん…」
「!お、お市さん!?」
そんな雨の中から、ふらふらと市が歩いてきた。宮野はぎょっとし、慌ててお市を招き入れた。
自分の前に座らせ、自分が着ていた羽織を脱いでお市に被せた。
「炎色さん…裸…」
「はい見ないちょっと待ってー!」
宮野はじいと自分を見る市にばっと背を向けると、慌てて赤い上着を羽織った。ぎりぎり胸は隠れる。
宮野は隠れた事を確認すると、市を振り返った。
「…それで、どうしたんですかお市さん。風邪ひいちゃいますよ?」
宮野は被せた羽織で市の頭を拭きながらそう尋ねた。市はぼんやりと宮野を見る。
「…市を呼ぶ声が聞こえるの…」
「…え……?」
「遠くから市を…誰かが呼んでるの…市は、行った方がいいのかしら…?」
「……多分。お市さん次第だとは思いますけど。…、自分の生きる道は自分で決めた方がいいと思います」
「え…?」
「…、行きたいと思うなら、行ったほうがいいと思うなら、行けばいい。…私に止める権利はないですから」
「…?」
自分の体を拭きながらそう言う宮野に、市はことりと首を傾げた。
「…私には貴女を呼ぶ声なんか聞こえない。だから、私には判断しかねる。これは、貴女が判断しなければならないこと」
「……嘘だわ…」
「え…?」
「炎色さんは市を呼んでいるのが誰か知っている…でしょう…?」
「……………」
黙ってしまった宮野に市は小さく笑って宮野に擦り寄った。
「市…行ったほうがいいの…?」
「…。…私の口からは…言えません……こればっかりは…貴女が決めなきゃならない…」
口を開いた宮野だったが、そこから言葉は出なかった。ぐ、と宮野は唇を噛む。市は哀しげにその唇に触れた。
「…そんな顔しないで。分かったわ…市、自分で考えるわ…」
「…お市さん…」
「ごめんなさい炎色さん…市、炎色さんを悲しめるつもりなんてなかったの…ごめんなさい……」
「…謝らないでください、お市さんのせいじゃないですから」
宮野がそう言うと、市はぐりと宮野の肩に額を押しつけた。
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