2014-11-22 23:31
「…?」
三成はやはり不思議そうに左近を見た。左近はそんな三成に、やっぱりと言いたげに肩を落とした。
「あのー、三成様?いくらなんでも昨日現れたばっかの奴に従う、ってのは無理があるんじゃー…」
「………」
「三成様だって嫌でしょ?」
「…なるほど、そういうことか」
三成はようやく合点がいったと言いたげに何度か頷いた。左近は確信する。
ーこの人スゲー鈍感さんだ!
その武士としての実力や生き様に惚れぬいたのは事実ではあるが、思わぬギャップに驚かずにはいられない。
「だから刑部さんは、」
「?そうだとひて、なぜその程度のことを刑部は口にしない?しないということは別のことだろう」
「アアイイエエ?!」
「私は秀吉様と半兵衛様以外の下につくつもりはない。だから貴様に従うなど願い下げだ。だがその他のことなど知ったことか、命に殉じるのが配下の役目だろう」
「ええ!?いや、今嫌だって、」
「願い下げだが、従えと言うそれが秀吉様の命ならば従うに決まっているだろう、貴様は何をいっている」
「…ハイ、俺は何を言っているんでしょうね………」
「分かったのならばさっさと動け」
三成はそう言うとさっさとその場を立ち去ってしまった。ポツリ残された左近はしばし固まる。
「…流石三成様、スゲー!」
しばし固まった後、そう感心したように叫び、動き始めた。
三成も三成だが、左近も左近で変わった思考回路を持ち得ていたようだった。
吉継は左近を隊長にすることに大いに不安を覚えていた。だが三成の態度からして、その不安を伝えることは最早不可能と分かってしまったので、言及することは諦めた。
「…まぁよかろ。新参者を早々に処分できると考えるとしよ」
左近がどう出るのか。彼の興味を引くのはもはやその点に移行していた。
隊長を辞退したところで逆鱗に触れた三成に殺されるであろうし、出たところで半端な実力ではどうせ死ぬ。
ならば左近はどう動くのか。
「一番考えられるのは…「刑部さーん!」
前者か、と呟こうとしたところで、不意に左近の声が吉継の耳に届いた。
まさかそうも馴れ馴れしく呼び掛けらると思っていなかった吉継は、ぎょっとしたようにそちらを振り返った。表情は驚愕で大いに歪んでいる。
左近は勢いよく走り寄りながら、そんな吉継の表情には気が付かなかったかにこにことしたまま足を止めた。
「三成様が総指揮は刑部さんだっつってたんで…」
「……………」
「?刑部さーん?」
不思議そうな声色にようやく我に返る。
「…あ、あぁ。それが如何しやった」
「ん!俺そういう戦略とか考えんの苦手なんで、ひとつご教授願えないかなーって」
「…………は?主、もしや隊長話を受けるつもりなのか?」
「?断る選択肢あったんすか!?」
「いや無いが」
「っしょ?だから策の一つでももらえたらなーって!」
吉継は再度仰天したように左近を見た。普段のポーカーフェイスな彼からは想像できないほどの変わりようだ。
左近は吉継の包帯顔に見慣れていないからか、やはりその表情の変化には気が付かなかったようだ。
「…………」
「刑部さん?」
「………待て、三成にもだが主にもちと言いたいことが五万とある。ついてきやれ」
「?うっす!」
左近は大袈裟にため息をついた吉継を不思議そうに見ながらも、ついてこいと言われたのでついていった。