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賽と狂犬、希望と亡霊1


思えばそれを手にしたのは何時のことだったろうか。
賭け事を好み始めたのは、何時のことだったろうか。

2つの小さな賽子を握りしめる。角が掌に食い込み、やや痛む。
「賽は振られちまったとくりゃ、丁か半かふたつにひとつ!いざ、出たトコ勝負ッ!」
そんな口上を口にして、戦に臨むようになったのは、何時からだったろうか。


時折燃え盛る火が脳裏に浮かんだ。渡れなかった橋。逃げ出したのは自分だ。後悔しているのか。未だ恐怖しているのか。
それもいつしか、思い出せなくなった。覚えていないのか、思い出そうとしなくなっただけなのか。それすらも今の自分には分からない。
「おいこら清興!お前ツケをさっさと払えってんだ!」
「あーはいはい、分かってるって!」
馴染みの賭場で飛ばされた声にも笑って答える。彼らの目には、自分は博打にめり込む、しようのない若者に見えていることだろう。屈託のない笑顔を浮かべ、軽口を叩く、如何にもな若者。
「なぁアンタ、ひとつ俺と勝負しねぇか?命を賭けた、真剣勝負って奴を、さ」
そんな彼が、ふとしたところで死に急ぐように命懸けの喧嘩を売るのも、このところの習慣かのようになっている。
絶望の前にはどうあがいたところでどうしようもない。全てが無意味だ。そんな絶望があるのだ、この世はなんと惨めなことか。
そうした思いが彼を狂気に走らせた。

男の名前は、島清興。
狂犬のような男。



【賽と狂犬、希望と亡霊】



この世に「ただいる」だけになったのは、何時だったろうか。
虚無にとりつかれたのは、何時からだったろうか。

「一息つく間もなし、か…。休めとは聞いていない以上、仕方がない…」
逆さに2つの刃がついた薙刀を持ち上げる。玉虫色の鎧に身を包んだ上に、同じ色の兜をかぶる。敵を討つことになんの感傷も抱かない。
織田軍尖兵。そう呼ばれるようになったのは何時からだったか。

誰かに誘いにのせられ主君に謀反を起こし、失敗した。一世一代の賭けに負けた。
惚れていた女に想い1つ伝えることができなかった。それどころか、その女は政略結婚として他の男のもとへ嫁いでいった。
自分は何のために生きてきたのか。何のために生まれてきたのか。
そうした思いが、この世の自分を仮のものだと思わせた。
「ええい、使えぬ男よ…!」
「全く気味の悪い…」
織田軍の他兵の嘲りは、自分には何も響かない。今の世は絶望のみの仮の世界。織田軍に道具として使われる世界。
別の世があるのなら、そこが自分が生きるべき世界。自身の存在すらも仮のもの。だからこそ、ただその場にいるだけ、そのように生きる。希望も野望も、何もかも自分にとっては不要のもの。

男の名前は、柴田勝家。
亡霊のような男。



互いの道が重なったことはない。
出会ったことがあったわけでもない。
それでも交差した、似て非なる2つの道。
その先にあるものとは、一体。
繰り返す輪廻の時の中で、ふと重なった気まぐれが紡ぐ物語。
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