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賽と狂犬、希望と亡霊14

「…伊達政宗……」
同時刻、賤ヶ岳。
勝家は、軍議で出てきた聞きなれぬ名前に、ポツリとその名を復唱した。
なんでも、織田の後衛である勝家ら賤ヶ岳の隊に向けて、その伊達政宗という男が進行してきているらしい。
勝家が漏らした声に、他の将が驚いたように勝家を見た。
「どうした勝家?貴様でも興が沸いたか?」
「…いえ、そのようなこと、私に許されることですらありませんが故に…」
「ふん…相変わらず辛気くさい男よ」
男は勝家の返答につまらなそうにそう返し、興味を無くしたように視線を戻していった。
勝家にとって、相手が誰であろうと本当に興味はない。
ただ、いくら後衛にすぎないとはいえ、織田軍相手に隠れることなくこちらに向かってくる男、というものには存在には興味があった。
「……愚かなことを…」
思い返すのは哀れな男。
同じように織田に挑み、あっけなく負けた男を。
「…ふっ……」
そう思い返すのも馬鹿馬鹿しい。無駄なことだ。
勝家はそう胸の裡で呟き、他の将らが言い交わす作戦を頭に叩き込むべく、聞くことに徹した。彼らは作戦が失敗すると勝家に対し怒りを露にする。別に怒りを向けられることなど何とも思わないが、光秀に報告され仕置きとなると些か面倒だ。だからここは成功させておくに限る。
「…………………」
勝家は政宗への興味をとうになくし、ただ聞くに徹するだけとなった。



 「そんな男は知らん」
「えぇっ?!」
一方の左近は、仕事を速急に終わらせ三成に報告しにきたついでに、政宗のことを三成に尋ねてみた。
敵に対し優位に立つには相手の情報を知っていることが一番である。だからこそ三成に聞きに来たのだが、ご覧の通り一太刀の元に斬り捨てられてしまった。
左近はぱくぱくと口を動かす。
「え、ちょ、次の戦の大将首っすよ!?」
「…あぁ、そういえばそんな名前だったか」
「そんな名前っす!!」
「ふん、どうせ死ぬ男だ名前を覚えることに何の意味がある」
「!」
三成は左近の剣幕に疲れたような呆れたようなため息を漏らし、そう言った。左近は三成の言葉に一瞬はっとした表情を浮かべたが、すぐに我に返った。
「いや、名前は大事っすよ!三成様だって、例えば、例えばの話っすよ?秀吉様を倒した相手に名前など覚えてないって言われたら、」
「秀吉様を倒すものなどいるものかァァアアアッ!!」
「だから!例えばの!話っす!!!」
「………ふん。秀吉様の御名を知らぬなど許されることではない」
「それはあちらさんも同じじゃないっすか?」
「奥州の子蛇程度を秀吉様と同列に並べるな」
「あーっ!だから例えの話ですってば!!」
左近は、はぁ、と小さくため息をついた。
どうにも三成には融通が効かない。いや、それは分かりきっていたことではあったが、例え話も駄目となると些か説明が難しい。
「…」
うーんうーん、と、どう説明したものかと悩む左近に三成は目を細めた。そして、ふ、と三成も考え込むように指を口元に当てた。
「…ふん。貴様の例えは腹立たしいが、分からないことはない」
「へ?」

「だが私にとって敵の御首などどうでもいいものだ。私にとって秀吉様が全てだからな。だが、貴様がそう言うなら、私の代わりに貴様が覚えておけ」

「…!はいっ!」
左近は驚いたように三成を見たが、すぐに嬉しそうにそう返答した。
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