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賽と狂犬、希望と亡霊11

そうして翌日。まだ薄暗い中で、左近にとっての初戦となる戦が始まった。
吉継の言った通り、左近の元に配属されたなかなか普通に指揮を下そうとすれば骨を降りそうな顔揃えだった。自分の腕に自信を持つもの、左近を見下しているもの、そもそも誰であろうと指示など聞く気がなさそうなもの、そのバリエーションは様々だ。
左近はその面子の前に立った。吉継にああ言われた時点で、左近にまともな策を考えるつもりはなかった。彼ら問題児は吉継にとって左近と同じような存在なのだろうと考えた。
なら、自分が気にくわない上司に従わねばならない時、従う気になる命令とはなにか。
そう考え、答えを出した。
「どーも。隊長になっちまった島左近だ」
左近の声かけに一応の反応を示す。その辺りは彼らがまだ豊臣軍にいられる所以なのだろう。
隊長という立場であることは確かなので、下手に下手に出ることはしない。そうしなければ、さらに嘗められるだけだ。左近にとっても、自信のない隊長など従う気になどならない相手だったからだ。
左近はにっ、と笑って両手をあげた。自分の余裕を見せるように。戦に負けるつもりなどないと、そう言うかのように。
「俺からする指示はたった1つだけだ」
「1つだけ、だと?」
すぐにそう返した男に、やはり左近は笑って返す。
「俺は細かい指示をするつもりはない。おたくさんらだって、いきなり来た奴の指示なんて聞きたくないだろ?」
「…否定はしねぇな」
「だから俺が出すのはある意味指示じゃあない。俺と、賭けをしよう」
「賭け…?」
不思議そうな顔を浮かべる面子に、左近は刀を抜いてそれを立てて持った。

「今度の戦は俺との勝負だ。仕組みは単純さ、俺より多く敵兵を殺せた奴の勝ち!俺が勝ったら俺は今後正式におたくらの隊長として、指示を飛ばすようになる。俺に勝てたら、俺が三成様にそいつを俺の代わりに隊長にするよう進言して俺はそいつの下につく」

ざわ、とざわめく反応に、左近は心のなかでガッツポーズをした。
ーよし、やっぱり乗った!
問題児などと言い方をされる時点で、血気盛んな者が多いであろうことが簡単に予想できた。だからこその提案だ。
いまだざわめく面子に向かい、左近は挑発的に笑って見せた。
「悪くない話だろ?」
「…隊長になりたい訳ではない自分には、利点がない」
「ふーん?ま、いいけど、なら不戦勝で俺の勝ち、だな?」
「……ッ」
「反対するやつは?」
どこまでも挑発的に。
どこまでも馬鹿にしたように。
俺に勝てる奴なんているわけがない、そう言うかのように、どこまでも不遜に。
「やってやろうじゃねぇか!」
そうすれば、簡単にこの荒くれものの集団は乗ってきた。
左近はにやりと笑う。
まずはじめの賭けに、左近は勝った。
「ぃよし!なら戦の開始と共に勝負開始だ!殺した数は自己申告の形にする。おたくさんらの力と自尊心、俺に見せてくれよ!」
「貴様こそ、後で泣いて詫びても許さんからなァ!」
「ははっ、ありえねーっしょ!」
左近はそう返し、残る片方の刀も引き抜き、両手でくるくると回転させて構えた。
それと同時に、遠くから開戦を知らせる法螺貝の音が響き渡った。
「さぁ!張った張った!」
左近はそう言うと己が部下に背を向け、省みることなく、振り返ることなく地面を蹴って先頭を駆けた。
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