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賽と狂犬、希望と亡霊6

「……………」
「…喧しいッ!」
「ー!!!」
「話を続ける。刑部!」
「……………あい」
翌日、左近は非常に気まずい思いをしていた。
あの後、三成は左近をそのまま豊臣の陣営へ連れて帰り、「それは誰よ」と聞かれるまで紹介すらしなかった。その時から気まずさはあったが、今は群を抜いて気まずい。突然現れて当然のように軍議に同席している左近も、向こうにしてみればそれはそれは怪しい存在だろう。ひそひそ話が始まるのも頷けるものだ。三成の一括でそれは止まったが、刑部と呼ばれた男は三成と親しいのかあるいは階級が同じなのか、しぶしぶといったように返事をしつつも不躾に三成に視線を送っていた。
「?なんだ刑部」
「…いや何、何でもないわ」
だが三成はその視線に籠められた想いには気付かなかったようだ、訝しげにそう尋ね、男ははぁとあからさまにため息をついていた。
「(………三成様って、もしかしてスゲー人っつーより、スゲー鈍感…?)」
左近はとんでもない事になりそうだ、と思いながら、軍議が終わるのを待った。

 「三成」
「なんだ」
「なんだ、ではないわ」
軍議が終わると、早々に刑部と呼ばれた男が三成に近付いてきた。なんだと返す三成に彼は苛立ったような呆れたようなため息をつき、肩を竦めた。
三成はむ、としたように彼を見上げる。
「そやつよ。なんと申したか」
「あ、島左近っす…えーと、刑部さん」
左近の声に、彼、大谷吉継はぎろりと白い目を左近に向けた。ふん、と鼻をならし、視線を戻す。
「そうであったな。そう島よ、あやつは何なのよ。何故当たり前のように軍議に並べておる」
吉継は参加していた誰もが思っていたであろうことを直球でぶつける。三成は心底不思議そうに吉継を見上げる。
「私の配下にした、いるのは当然だ」
「配…どこで拾って来おったのよ、元いたところに返して参れ」
「ちょ、犬じゃねーんすよ?!」
「私が拾ったのだ、どうしようが私の勝手だろう」
どこまでも「何か問題が?」と言いたげな三成に、吉継ははぁとまたため息をついた。困ったように頭を抱えられては、左近も下手に口を出せない。
「まぁそうではあるがナ、太閤に許可は得ておらぬのであろ?」
「戻ったときに許可はいただく、それまでに武功を稼がせればいいだろう」
「ほう?稼がせるとな?そやつはそれほどまでに使い物になると申すか」
「当然だ。使えないならこの場になどいない」
「!」
お、と左近は意外そうに三成を見る。なぜ三成がああも簡単に自分を拾ってくれたのか、それは左近にとっても不思議なことではあったのだが、どうやら三成は左近の力量をある程度認めてくれていたらしい。
それを僅かに喜びながらも、じろじろと不審げな視線をこちらに飛ばす吉継に気取られたくはなかったので、必死に平静を保って見せた。
「…主が気に入りそうな男には見えなんだがな」
「話はそれだけか、刑部」
「そうさな。ま、主の言う通り本にあれが使える男ならば、説得にもなろうものよ」
「説得?なんのだ」
「…もうよいわ」
はぁ、と、吉継は幾度目かのため息をつき、ふよふよとその場を離れていった。一応、三成に反対はしないらしい。
「…えーっ、と、三成、様?」
「なんだ左近」
「あーいや…その、さっきの軍議で俺に隊をつける、なんて言ってたような言ってなかったような…」
「言ったが」
「それ!多分、刑部さんが一番文句言いたかったのそれだと思うんすよ!」
左近はずびし、と三成に指を突き付けた。
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