2013-10-26 17:37
「た、たすけ…」
「…俺様の話聞いてる?殺そうなんて言ってないよ。別に他の薬師に明かすつもりもない。まぁ、あんたが話さないって言うなら、多少手荒な手段に出ざるを得ないんだけど、ね…?」
薬師はぶるぶると震えながらも、傍にあった巻物を手にとった。佐助にも見えるように巻物をひろげる。佐助は巻物に目を落とし、す、と目を細めた。格段変なところはない。
「………言っちゃあ悪いけど、この手のでは良く見る調合だね」
「えっ……」
「まぁ、俺様もよく知らないのも混じってるけどさ。さて、じゃあこれだ」
佐助はかぱ、と香の蓋を開けて薬師の前においた。薬師は未だ震える手でそれを取る。
「それはあんたが作った他のとは若干違う何かがあるはずだ。分かる?」
「…色が濃い…この香はこんな赤い色ではなく、もっと薄い、桜色をしているんです、ほら、」
薬師は慌てたように傍らにあった別の香を手にとった。確かに色が違う。
佐助ははぁ、とため息をついた。
「こんなに違うのに気がつかないもん?それとも、出した後になんか紛れた?」
「…そ、それは分かりませんが……多分、地黄や牡丹皮が多く入ったのではないかと…それにしたって、そんな若返るのは妙ですが……」
「…地黄や牡丹皮は本来経口するもんだろ」
「!く、詳しいのですね…ま、まぁそうですが……」
「…そんな言葉ぶりだと、どうやったら元に戻るか、は期待できそうにないね」
佐助は疲れたように頭を垂れ、苦無を懐にしまって立ち上がった。薬師はぽかんとしていたが、はっとしたように、佐助を引き止めた。
「こ、こういうのは、薬師として正しくないのかもしれませんが、しょ、所詮は子供だましです…一回やって永久に聞く訳じゃあありません……」
「…、ま、確かにね」
佐助はそう言って肩をすくめる。薬師は手の香を見下ろした後、佐助を見る。
「こ、この香、一応使うのには期間を開けなくてはならなくて……14日ほど経つと効果が切れるんです、だ、だからひょっとしたら……」
「…つまり、時間が経てば戻るって?」
「そ、そう感じることはありませんでしたか?」
「………」
佐助は黙ったまま胸元に手をやった。大したことではないからと気にしていなかったが、二日ほど前からなんとなく体が痛むのを感じていた。確証はないが、吉継の歩き方にも若干の変化が出ている。
ーー………まさか、成長痛?
佐助の脳裏にそんな言葉が過った。だがそれはおくびにも出さず、心配そうにこちらを見る薬師にへらっ、と笑ってみせた。
「さぁ?ま、手段がないなら用はないや。せいぜい調合には気をつけなよ」
佐助はそう言うと、ひらひらと手を振って薬師の家を出ていった。
「…っはぁ、はぁっ」
その頃小十郎は、途中で気がついた何者かの気配から逃げていた。物陰に隠れて息を整えるが、気配は消えない。
「…くそっ、」
誰の手のものなのかなど全く分からない。また、同じような者が佐助の元へと向かっているとも限らない。
小十郎は逃げ回りながら佐助も探していた。