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オカントリオの奇妙な旅路31

「た、たすけ…」
「…俺様の話聞いてる?殺そうなんて言ってないよ。別に他の薬師に明かすつもりもない。まぁ、あんたが話さないって言うなら、多少手荒な手段に出ざるを得ないんだけど、ね…?」
薬師はぶるぶると震えながらも、傍にあった巻物を手にとった。佐助にも見えるように巻物をひろげる。佐助は巻物に目を落とし、す、と目を細めた。格段変なところはない。
「………言っちゃあ悪いけど、この手のでは良く見る調合だね」
「えっ……」
「まぁ、俺様もよく知らないのも混じってるけどさ。さて、じゃあこれだ」
佐助はかぱ、と香の蓋を開けて薬師の前においた。薬師は未だ震える手でそれを取る。
「それはあんたが作った他のとは若干違う何かがあるはずだ。分かる?」
「…色が濃い…この香はこんな赤い色ではなく、もっと薄い、桜色をしているんです、ほら、」
薬師は慌てたように傍らにあった別の香を手にとった。確かに色が違う。
佐助ははぁ、とため息をついた。
「こんなに違うのに気がつかないもん?それとも、出した後になんか紛れた?」
「…そ、それは分かりませんが……多分、地黄や牡丹皮が多く入ったのではないかと…それにしたって、そんな若返るのは妙ですが……」
「…地黄や牡丹皮は本来経口するもんだろ」
「!く、詳しいのですね…ま、まぁそうですが……」
「…そんな言葉ぶりだと、どうやったら元に戻るか、は期待できそうにないね」
佐助は疲れたように頭を垂れ、苦無を懐にしまって立ち上がった。薬師はぽかんとしていたが、はっとしたように、佐助を引き止めた。
「こ、こういうのは、薬師として正しくないのかもしれませんが、しょ、所詮は子供だましです…一回やって永久に聞く訳じゃあありません……」
「…、ま、確かにね」
佐助はそう言って肩をすくめる。薬師は手の香を見下ろした後、佐助を見る。
「こ、この香、一応使うのには期間を開けなくてはならなくて……14日ほど経つと効果が切れるんです、だ、だからひょっとしたら……」
「…つまり、時間が経てば戻るって?」
「そ、そう感じることはありませんでしたか?」
「………」
佐助は黙ったまま胸元に手をやった。大したことではないからと気にしていなかったが、二日ほど前からなんとなく体が痛むのを感じていた。確証はないが、吉継の歩き方にも若干の変化が出ている。
ーー………まさか、成長痛?
佐助の脳裏にそんな言葉が過った。だがそれはおくびにも出さず、心配そうにこちらを見る薬師にへらっ、と笑ってみせた。
「さぁ?ま、手段がないなら用はないや。せいぜい調合には気をつけなよ」
佐助はそう言うと、ひらひらと手を振って薬師の家を出ていった。



 「…っはぁ、はぁっ」
その頃小十郎は、途中で気がついた何者かの気配から逃げていた。物陰に隠れて息を整えるが、気配は消えない。
「…くそっ、」
誰の手のものなのかなど全く分からない。また、同じような者が佐助の元へと向かっているとも限らない。
小十郎は逃げ回りながら佐助も探していた。

オカントリオの奇妙な旅路30

「何か困る事でもあるのか?」
「いえ、左様な事は」
「ならばよいな。…連れて参れ」
元就はそう言うとさっさと二人に背を向け、城へと歩いていってしまった。
吉継はお付の兵に促され、しぶしぶと立ち上がった。腰を浮かそうとした小十郎を、兵に気づかれないよう手で制す。
「…今宵は帰れそうにないの」
「……ッ」
独り言のように呟き、吉継は兵に連れられて元就のあとについていった。小十郎は周りの者が立ち上がるのに合わせて立ち上がり、ぐ、と拳を作った。
「…厄介な事になりやがった」
小十郎は僅かに苛立ちながらも、自分のするべきことをするために踵を返した。
そんな小十郎を遠くから見つめる影が2つ。
「…小十郎様によく似ておられないか?」
「政宗様の仮説が当たったのか…おうぞ」
二人は、政宗の配下の忍だった。
小十郎は後ろの気配に気がつかないまま、歩き出していた。



 「ほんと?見覚えおる?これ」
それから少しして、佐助は香の有力な情報を手に入れていた。薬師の男はじっくりと香の箱を見たあと、頷く。
「こいつァ、西に住んでるわけぇ薬師が使ってる入れもんだ。確か若返りの香ってのを作ってたとか」
「そうそうその人!今もいる?」
「おぉ、いるはずだぜ。にしても、大変だなぁ坊主ゥ、姉さんに振り回せれてよォ」
「へへっ、慣れっこだって!ありがと!」
佐助はにへっ、と笑ってそう言うと足早にその薬師の薬屋を飛び出し、教えてもらった薬師の元へと向かった。
 その薬師の家は小さなもので、この香に起死回生をかけたのだろうと思われるような佇まいだった。佐助はからり、と扉を開ける。
「…?なんか、用ですか」
なかにいた薬師はきょとんとしながら佐助を見た。佐助は先程の薬師の時まで浮かべていた笑みは浮かべず、す、と香の箱を顔の横に持ち上げた。
「この香の事なんだけど」
「あぁ、それは若返りの…京で人気が出てきてくれはってるようで…」
「これ、どうやって作ったの?」
「は…?そ、そんなの簡単に教えられるわけ、」
薬師は作り方を尋ねた佐助に慌ててそう答える。佐助ははぁ、とため息をついた後、ずかずかと薬師に近づいた。奥にいる家族らしい者達はおどおどと佐助を見ている。
佐助はどすっ、と薬師の隣に座った。肩を組むように薬師にもたれ掛かる。
「あ、あの…」
「この香は返してやる。だから他の香との違いを教えろ」
「は、え、」
「巫山戯た事言うガキだと思ってんだろうけど、俺様あんたと同じくらいの歳だよ」
「は?え、あの?」
まどろっこしい態度の薬師に佐助は再びはぁ、とため息をついた後、ひゅっ、と音をさせて苦無を薬師の首元に突きつけた。ひっ、と薬師は悲鳴をあげる。佐助は薬師の顔に顔を近づけた。
「俺様さぁ、そんな暇じゃねぇんだよ。何も全ての情報をよこせっつってんじゃない、何の成分か教えてくれりゃあいいんだよ。あんたが何を作ろうと俺様には知ったこっちゃない、だけどあんたの作ったもんのせいでこんなガキの姿に戻されて迷惑してんだ」
佐助はつつ、と苦無を滑らせた。

オカントリオの奇妙な旅路29

それから2日ほどして、3人は安芸に着いた。安芸の町は前田ほどのんびりとはしていなかったが、活気はあった。
「ほれ、しゃんとしせ」
吉継はヘロヘロとしている佐助と小十郎の手を引っ張る。やはり体力は吉継の方があるようだ。佐助ははぁ、と息をつく。
「流石に疲れたよ…!夜なべで歩くなんてさぁ!」
「奥州から京に行った時も夜なべで歩いたであろ。あの時ほど歩いてはおらぬぞ」
「あの時は色々おかしかったんだって、若返ったばっかで……。それに、関所とかもなかったし?」
「流石は毛利とでも言うべきか?関所さえなけりゃ昨日にゃ着いてただろ……」
毛利領である安芸に入るには関所を通らねばならず、だがこれといった目的を持たない子どもを通してもらえる筈がない。だから関所をよけ、警備をかいくぐって潜り込むしかなかった。
そのため、佐助と小十郎は疲弊していたのだ。吉継はやれやれとため息をつく。
「言うておくが宿は取れぬぞ。関所の事を問われれば厄介ごとになり、毛利に知れることになる」
「うぇーまじー?」
「…まぁ、仕方ねぇな…今まで取れてただけいいもんだ」
「毛利は敏感よ。今までのようには動けぬ。さて、どうしやる?」
「その辺は俺様に任せて」
ふらふらと歩いていた佐助は吉継の言葉ににっ、と笑い、懐から出した布を頭に巻いた。たんっ、と地面を蹴り、二人から離れる。
「見てな。今日中に見つけてきてやんよ。二人は適当に夜を越せるとこ探しといてよ」
「ほう?」
「一人で平気か?」
「寧ろ一人のがいい。じゃ、夜に!」
佐助はそう言うと、さっさと駆けていき人ごみに姿を消した。小十郎と吉継は思わず顔を見合わせる。
吉継と二人きりになるのは初めてだ。
「さて、人目につかぬところを探すとしよ」
「…あぁそうだな」
二人はそう互いにいうと、夜を越せる場所を探すため歩き出した。

 「…ん?」
同じ頃、3人にとっては運の悪いことに、元就が近くを通りかかっていた。元就は遠目に見つけた吉継を、じ、と見つめる。
「…毛利様?」
「………」
元就は部下の不思議そうな声を無視し、ずかずかと吉継のもとへと向かった。
元就に気がついた民はその場に膝をつき、頭を垂れる。吉継と小十郎も、周りに合わせてそれに習った。
元就は吉継の前で歩みを止める。
「…貴様、大谷だな」
「……はて、何のことでございましょうや?」

吉継の隣で小十郎はぞわりとしたものを感じていた。元就の言葉には迷いがない。それが異常だった。
「(こいつ、本気でこいつを大谷だと思ってやがる…!)」
「しらばっくれるか」
「しらばっくれてなどおりませぬ」
「ほぅ。ならば貴様、名はなんと申す?何処の者ぞ」
「名は紀之介、しがない農民の倅にて」
「ならば紀之介とやら、今日我の話に付き合うが良い」
「…はい?」
動揺など微塵も見せずに対応していた吉継はぴくり、と指を動かした。

オカントリオの奇妙な旅路28

「三成殿……」
二人のやり取りに、黙ってそれを聞いていた幸村が三成に呼び掛けた。三成は今度はそちらを振り返る。
幸村は恐る恐る、といったように口を開く。
「…その…三成殿は、大谷殿が何をしているのか、ご存知なのでござるか?」
「……」
「もっ、申し訳ございませぬ、佐助が残した手紙だけでは某には近況が分からず……」
「…、貴様の部下も、思い出したくない過去があるのか」
「は、はっ?!」
幸村は三成の思いがけない言葉に思わず顔をあげ、きょとんとする。三成は眉間にしわを寄せ、ぶすっとした表情を作る。
「…、報告を受けたときは京にいた」
「…京に…ござるか」
「早く終わらせるようには伝えてある」
「その時佐助には、」
「会わなかった」
「……そうでござるか……」
心なしか、幸村がしょぼんとした様子を見せる。三成は元就や元親など他の将がすでに充分離れた事を確認すると、障子をしめ、幸村の前に座った。
「私が信用ならないか」
「は…!いえ、左様な事はござらぬ!某は、佐助の事も三成殿の事も、信じておりまする!……ただ…あやつが某に黙って事を起こすのは…何か起こった時でござりますゆえ……」
幸村は正座の上においた拳を、きゅ、と握る。その顔は純粋に、佐助の事を心配している顔だった。
三成は、す、と目を細める。
「…帰ってきても、何も聞くな」
「は…それはまた、何故……」
「貴様に明かさなかったということは、貴様に知られたくなかったからだ。…刑部と同じように」
幸村の目が、三成の言葉にす、と細く真剣なものになる。僅かに三成ににじり寄り、声を潜める。
「…それはつまり……佐助が大谷殿と共に調べていることは、某かの事ではなく佐助達自身の事…ということでござるか」
「…刑部は最後まで認めなかったがな」
「何が起こったというのでござるか」
「……」
三成は周囲の気配を探った後、す、と幸村の耳元に口を寄せた。
「…若返っていた」
「はっ?」
「刑部が若返っていた分の年齢を考えると、貴様の忍はほぼ子供の姿だろうな」
「……子供……なるほど、そうでござったか…」
「…意外だな。信じるのか?」
三成はあっさり信じた幸村に、僅かに驚いたように幸村を見た。幸村は再びきょとんとしたように、だがしっかりと三成を見る。
「三成殿は、斯様な状況で、嘘も冗談も仰る方ではござらぬ故」
「………。ふん、そうか」
「しかし、そうなると黙って出ていった訳も分かるような気が致しまする。あやつは過去のことを語ろうとはしませぬゆえ」
「……そういう訳だ。元に戻ったら戻ってくる」
三成はそう言うと体を後ろに戻した。幸村も居住まいを正し、小さく頭を下げる。
「感謝いたしまする、三成殿。これで某もようやく、本調子に戻れまする!」
「礼を言われる道理はない。貴様の働き、期待している」
「お任せあれ!では某は甲斐へと戻りまする。三成殿、ご武運を!」
「言われるまでもない」
幸村はにっ、と好戦的に笑うと、深く三成に頭を下げ、素早く部屋から出ていった。三成も、自分の兵に指示を出すべく、そちらへと向かった。

オカントリオの奇妙な旅路27

「………死んだ、だと?」
「…そうか、ありがとう」
その日の夜、忍達が死んだ事が政宗と家康の耳に入った。忍達はいくつかのチームに別れて行動していたようで、集合しなかったことで死んだことが分かったのだ。
家康はどこか悲しげに眉間を寄せた。政宗は頬杖をついて、むす、と顔をしかめる。
「…別に、雑魚を回した訳じゃあねぇだろ」
「あぁ、もちろんだ…。相手は刑部や真田の忍、そして片倉殿だからな」
「……小十郎はそう簡単には殺したりしねぇ」
「様子を見に行った他の忍の話によれば、そんな事件があった様子もなかったそうだ」
「なら…猿の仕業か?」
「もし独眼竜の仮説が正しければ、いくらなんでも死体を処理するのは一人では無理だ」
「…」
家康の言葉に、政宗は眉間を寄せる。
佐助一人では無理。ならば、他の者が手を貸したことになる。

小十郎が、手を貸した可能性もなくはない。

政宗は、はぁ、と小さくため息をついた。そんな政宗に家康は困ったように笑う。
「そんな顔しないでくれ、独眼竜。万が一片倉殿が関与していたとしても、ワシは…」
「あんたが責めなきゃいいって問題じゃねぇ。落とし前はつけさせる」
「独眼竜、」
「そもそも俺は、いくら非常事態だろうが俺に何も明かさず出てったことを許しちゃいねぇ!」
「………ッ、」
不意に声を張り上げた政宗に、家康はう、とつまる。
政宗は冷静なように見えて、幸村よりも三成よりも、怒っていた。
怒りでぷるぷると震える自分の拳に、政宗はちっ、と舌打ちする。
「…だが、前田領にいたことはこれで明らかになったな」
「…、そうだな、だけど前田領で何をしていたんだ?」
「そこまでは分からねぇ。…が、もう後を追うしかねぇだろ」
「あぁ」
家康は政宗の言葉に、強く頷いた。



 「…では我は一度安芸に戻る」
「俺もちょっくら用意してくるぜ!」
「あぁ」
同じ頃、大阪では軍議が開かれ、近場の毛利、長宗我部両名は一旦自分の領地へ戻り、用意を備えることとなった。
部屋から出るとき、ふ、と元就は思い出したように三成を振り返った。
「そういえば、大谷はまだ戻らぬのか?」
「あぁ」
「奴にしては随分と行動が遅いな」
「あまり目立った行動を出来ないようだからな」
「ほぅ?」
元就は、以前よりもどうやら詳しい事情を知っているらしい、と判断し、三成を振り返った。三成はす、と元就を見据える。
「…以前よりかは分かっているのだな」
「一度報告を受けたからな。じき戻る」
「…左様か」
「刑部と何か約束事でもあるのか」
「そういうわけではない。軍師たる者がいつまでも席を空けているのが気になった迄。じき戻るならばどうでもよいわ」
元就はそういうと、さっさと部屋を後にした。
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