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オカントリオの奇妙な旅路14

「この香はいくつかの材料を組み合わせて作られてる」
男はそう言いながら、懐からその香が入っていると思われる箱を取りだし、ぽんぽんと軽く投げた。
「だが作ってるやつらも万能じゃあねぇ、中には何割か、それぞれの材料の分量を間違って作っちまったもんもある。どうやら本当に若返っちまった香ってのは、それに当たるらしい」
「…なるほど。混ぜ合わせれば爆発するものもある、まぁ無いとは言えなかろ」
「言える言えないに関わらず、起こっちまってんだ」
男はにや、と笑うと香をまた懐にしまった。かぷ、とキセルをくわえ、煙をふかす。
「で、例の若返っちまった女に、その香を譲ってくれって言って買ってった男がいるらしい。噂を聞き付けた京の女どもよりも早くに、な。なかなかいないぜ?女より早くそうした情報手にするのって」
「……そやつは?」
「何でも若くはない、どっちかってと初老に入る男らしいぜ。でっけぇ刀下げてたらしいから、多分御武家様だろうよ」
「………」
男の言葉に吉継は目を細め、手を顎に当てて考え込んだ。
関ヶ原の大戦が近づいているときに若返りの香など参戦する武将が買い求めるとは考えにくい。仮にその香により自分達が若返ったのだとしたら、東軍、西軍どちらも若返らせるというのは割りに合わない。
そして何より、初老というのも引っ掛かる。
「…もう少し情報はないのか?」
「そうだな…変な髭の男だった、って聞いたな」
「変な髭」
「普通御武家様の髭ってこう、こんな感じだろ?そんなんじゃなかったんだとよ」
男はおどけたように指で下に伸びた髭の形を作る。吉継はふむ、と呟いた。
特徴的な髭というと、やはり。
「…なるほど、よう分かった。礼としてもう少しくれてやろ」
「あぁ?!おま、こいつぁお前がわりに合わねぇんじゃねぇのか?」
吉継が放り投げたもう一束の銭束を男は慌ててキャッチし、戸惑ったようにそう言う。
すでに背中を向けていた吉継は、人差し指を口に当てて顔だけ男を振り返る。
「その代わり、今宵の事は一切の内緒よ、ナイショ。ばらしてみれば…主の命は無い…と言うておこ」
「っ!」
吉継の言葉にびく、と男は肩を跳ねさせる。吉継の目が、嘘ではないと語っていた。
男はごくり、と生唾を飲み込み、小さくうなずいた。吉継はにこり、と笑う。
「物分かりがよい者は好きよ。ではな」
吉継はそう言い、その路地から抜け出ていった。
残された男は吉継の姿が見えなくなった後、ふぅー、と長いため息をついて脱力した。
「いいんすか頭」
「あいつの殺気に気付かねぇってのも羨ましいもんだな」
「?」
「稼ぎも出たし、今日はここいらで終わりとしようや」
男はそういうと、厄介事はごめんだとでも言わんばかりにその場から早々に立ち去った。

「…奇妙な髭…やはり、あやつか?」
一人になった吉継は歩きながらぽつりと呟く。からんころん、と雪駄が音を立てる。
じゃり、と、近くで足音がなる。
「おや、こんな夜に散歩かね?」
「!!!」
思わぬ者の出現に、吉継は限界まで目を見開き、思わず後ろに飛びずさった。
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