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見えないはずの右目が15

あれから二日。年の瀬が近づき、城の小姓達が城の掃除に終われている。小十郎は最近では寝るだけとなった自室を片付けていた。
「小十郎様ァ、道場の掃除終わったっすー」
「おう、ご苦労だったな」
部下の一人が小十郎に報告しに来た。小十郎は顔に浮かんだ汗を拭いながら返事を返す。
そして、ふ、と梵天丸の事を思い出す。
梵天丸に「お前は掃除をしないのか?」と言われてしまい部屋の片付けを始めてからはや一刻。そろそろ戻らねばならぬだろう。
「あっ、梵天丸様っすか?」
「……そうだが」
「だったらこれ、届けてくれないっすか?」
そう言われ渡された袋を小十郎は訝しげに見る。見た目と違い、とても軽かった。
「…なんだこれは?」
「へへへ、内緒!あ、見たら駄目っすよ」
念を押したらさっさとどこかへ行ってしまった。
仕方なく小十郎は着替えた後、その袋を持って梵天丸の部屋へと向かった。

そこで事件が起きた

「…やだっ止めて!」
突如聞こえた梵天丸の悲鳴に小十郎の視界が真っ白になる。だが小十郎の体は視界を取り戻すよりも早く走りだしていた。袋は廊下に落としてしまったが構っている暇はない。
角を曲がると、見慣れた後ろ姿の女性が、脇差しを振り上げている。
「何をしておいでか、奥方様!」
とっさに後ろから羽交い締めにし、手を叩いて脇差しを叩き落とす。
「かっ、かた…っ!」
梵天丸の母、義姫は憎々しげに小十郎を睨んだが、小十郎は手の力を抜かなかった。義姫の前にしゃがみこんでいる梵天丸はガタガタと震えていた。
「離せ片倉!」
「離しませぬ!己が子に向かって何をしておいでか!」

「こんな者、我の子ではない!」

義姫の言葉にかっ、と顔に血が上る。荒々しく義姫の体を後方の廊下に叩きつける。

「ふざけた事を申すな!」

怒りのあまり、言葉遣いが素に戻る。義姫が目を見開いたのが分かったが小十郎は自分を止められなかった。
「自分の子ではないだと…!?二度とそんなふざけた事を申すな!再び言うようならばこの場で叩き斬ってくれる!」
「片倉…!」
不意に袴を引っ張った梵天丸に小十郎は我に帰った。だが、不思議と後悔はしなかった。

下手を打てば、殺される。
それでも小十郎は叫ばずにはいられなかった。
「……ただではすまさぬぞ、片倉…」
怨念のこもった声で呟いた後、義姫はふらふらと去っていった。
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