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見えないはずの右目が11

「はぁ………」
今小十郎を見た者はおそらく、体感気温がいくらか下がったことだろう。
見ていて哀れな程小十郎は落ち込んでいたのだ。

何をしているんだ、俺は…

その言葉が小十郎の頭の中で繰り返される。

梵天丸様に手を上げるなど…切腹沙汰になってもおかしくはない。
なんのために梵天丸様の傍にいると覚悟したのだ、この大馬鹿者め。

自身にいらだちを抱えながら静かに座っていた。


夕餉の時刻になり、小十郎は膳を出した後も同じ場所にずっと座っていた。


翌朝。小十郎はそのままの格好で朝を迎えていた。着物から出ている手足は寒さでひび割れていた。
痛い、と思っても自業自得、と思い耐えていた。
「(そろそろ梵天丸様の朝餉の時刻…)」
そんな事をぼんやりと考えていると

「……片倉」

とても小さな声が不意に後ろから聞こえた。それは梵天丸の声。
小十郎は驚いて振り返った。そんな小十郎を見て、まだ寝癖の残る梵天丸は顔を真っ赤にさせながら、

「…ご、ごめんなさい」

と言った。
その言葉に小十郎は固まってしまう。
「…、は、はい?何故梵天丸様が謝られる…?」
「………」
疑問符を浮かべる小十郎に梵天丸は何も言わない。下を向いて言おうか言うまいか、迷っている。
「…………」
ぼそぼそと小さい声で呟く。聞こえなかった小十郎は少し身を屈めた。
「なんで…」
小十郎の言葉が途切れる。突如梵天丸が小十郎に抱きついたのだ。
「ぼっ、梵天丸様…!?」
「そばにいて」
泣きそうな声が、耳元で聞こえた。

「嫌いに、ならないで。ごめんなさい…ッ」

梵天丸の言葉に小十郎は目を見開いた。そして。

「…小十郎は梵天丸様が好きでございます。傍にいて欲しいと望まれるなら、小十郎めはずっと傍におります」
小十郎は喜びで涙が出そうになるのを耐えながら、だが震える声でそう言った。
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