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賽と狂犬、希望と亡霊21

「ー!」

ー強い
左近は勝家と刃を交えながら、そう感じていた。
勝家にやる気はない。ただ機械的に、無感動に、相手をしているにすぎない。
それでも左近に遅れをとらない。ヤル気満々の左近にひけを取らない。それは勝家の技量が左近よりも高いことを意味している。
「………へっ」
そうでなくては面白くない。
左近はそう思いながら勝家を弾き、距離をとった。間合いとしては勝家の方が広い。その分深みに入れれば左近が有利なのだが、そこに入るまでが至難の技だ。勝家も自分の間合いに左近を留めておければ、自分の攻撃は届くが左近の攻撃は届かないという絶好のポジションを維持できる。

左近が踏み込むか、勝家が留めきるか。

勝敗の決め手はそこにあると言えた。
この場での実力が拮抗している今、冷静に攻め続けた方が勝ちを得るともいえる。
だから一度距離をとる。仕切り直しだ。
ずるずると剣撃を続けていた場合、やる気のない勝家の方が焦りを覚えず、冷静さを保てる。
「…………」
勝家は離れた左近に何の感慨も示さず、ひたすらに攻め続けた。
早く終わればいい。
彼の攻撃は、そうも言いたげな攻撃だった。
一撃一撃は重い。全て殺すつもりで来ている。だが、それはすべて早く終わらせるがためにある。
戦いを楽しむためでも、相手に敬意を払ってのためでもない。

ただひたすらに。
この戦いが終わればいい、と。

「俺、随分前からアンタのこと知ってたんだぜ?」
「…そうか。私はお前など知らない……」
「へへっ、知らねーで当然だって。俺はアンタを噂で知ってた」
「……………」
ぴくり、と。
勝家の能面のように固まっていた表情が動いた。
「…そうか……」
勝家はぐ、と膝に力をいれ、勢いよく飛び出した。
「!」
勝家の攻撃に、やる気があった。
先程までの、さっさと戦いを終わらせるための攻撃ではない。

こいつを殺す。

その勝家の一撃には、痛いまでのそうした殺気が含まれていた。
表情は変わらない。だが勝家の目だけは、殺気でぎらぎらと光っていた。
「ッ、」
左近は両手の短刀で頭上からの一撃を防いだ。勝家は刃が当たった反動で上がった剣先をそのまま回転させ、反対の刃で斬りかかる。
それが異様に速い。今まで手を抜ききっていたのではないのかと言いたくなるくらい、速い。
「ぅおっ!?」
左近は慌ててバック転の要領で跳躍して避けた。数回跳んで距離をとろうとするが、勝家は逃がすまいと距離を縮めてくる。
「…やる気になってくれちゃって……!」
左近は楽しそうに笑いながらそう言い、横振りに振られた勝家の攻撃を上から蹴り叩いて軌道を逸らした。
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